屋上に、1つの影があった。
その影はAクラス所属、そして瑞希と次席争いをしている男子生徒――久保利光だった。
利光は小さくため息をつくと、ポツリと呟いた。
「どうして僕は、彼の近くにいることができなかったのだろう……。もし近くにいられたなら、彼を守ることができたのかもしれないのに……」
利光はそう呟くが、本当は心のどこかで思っていた。
『近くにいたら、逆に足手まといになったくせに』
自慢ではないが、利光は勉強ができると理解していた。それは誰の目にとっても明らかだろう。
だけど同時に、そんな彼がFクラスの行動に対処できるわけなかった。
それに壊れる前の明久なら、自分の身を挺して利光のことを守っただろう。
利光は、勉強ができればそれでいいと思っていた。それが、学校だと思っていた。
でも、
確かに勉強ができれば、設備の良い上位クラスに入れる。完璧な勝ち組だ。
でも、そんな学校だからこそ、Fクラスのように悪影響しか与えないクラスも現れるのは明白だった。
「くそっ……どうして僕は、こんなにも非力なんだ…っ! 大切な人が守れない頭脳なんて、ただのお荷物じゃないか…っ!」
利光は悔しくてたまらなくて、空に向かって思いきり叫んだ。
(どうすれば、僕も彼の役に立てる? どうすれば、この頭脳で彼の役に立てる? 一体、どうすれば……)
そこまで考えて、利光はある考えに至った。
この考えはもしかしたら間違っているのかもしれない。
でも、それでも、利光は彼――吉井明久の役に立ちたかった。
「僕も、彼らのように――……壊れればいいじゃないか」
「そーそー! 壊れちゃえば明久の役に立てるし、楽にもなるよっ☆」
利光の後ろから、この場には合わない声が聞こえた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「いやあっ、いやいやいやいやいやいやいやいやあああっ! 何よこれっ! どうしてこんな、こんな…っ!」
少女――木下優子は、トイレで一人叫んでいた。
優子はさっきから、血が欲しくて欲しくてたまらないのだ。
勉強していれば気が紛れるかと思ったが、それすらも無理だった。
気がついたら爪などで皮膚を引っ掻いて血を出す。そして誰かの声で意識がはっきりとする、その繰り返しなのだ。
そのことに我慢できなくなった優子は、トイレで叫びながら、皮膚を引っ掻きたくなる衝動を抑えていた。
(どうしよう……このままじゃ、私までおかしくなる…!)
そう思って目を瞑った、その時だった。
「じゃあ、壊れちゃいなよ♪」
「っ!? あ、きひ、さくん……」
突然聞こえてきた声に驚いて、優子は思わず振り返ってしまった。
ここは女子トイレ。だから明久は入ってはいけないはずだ。
でも、明久は入っても怒られないとでも言うかのように、堂々と入ってきていた。
そんな明久に恐怖を感じた優子は、警戒しながらも明久に話しかけた。
「どうして、ここにいるの……? それに、さっきの言葉だって……」
「んー? そのまんまの通りだよー? 今が苦しくてたまらないなら、壊れちゃった方が楽になれるってこと♪」
「壊れちゃった方が、楽になれる……?」
その瞬間、優子にはある感情が芽生えた。
『壊れたい』
明久に言われるまでもなく、優子は壊れた方が楽になれるとわかっていた。
だけどその反面、優子の中にあるプライドが、それを許さなかった。
(でも、もう………遅いんだ)
優子はそっと目を閉じた。
それを見た明久は、不気味に笑って「予定通り、だね」と呟いた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あっ、明久!」
「みっちゃんごめん、遅くなった!」
「明久だから許すっ☆」
「ありがとー♪ それで、どうだった?」
「予定通りっ☆ きちんとこっちにきたよっ☆」
「そっかぁ♪ それじゃあ――――」
「「――――お祭りを、始めよっか♪」」