リンゴンとベルが鳴り響く。
家族、友人、同僚に見守られながら花道を歩く
隣には1人の女性、僕のお嫁さん…なんて改めて言うと照れくさいな。
あの日、ジューンブライドのイベントで使った舞台セットの上で、仕事とはいえ誓いの言葉を交わしてからどれくらい経っただろうか
僕はその時、演技だと思っていながらも彼女の言葉の一つ一つや仕草に心を奪われていた
あの時、新郎の役が俳優の男性だと知った彼女が、その役を僕に代わるようにスタッフに求めたときに彼女の気持ちに気付けなかった僕は鈍感なんだろうな。
そんなことを思いながら、隣の彼女の顔をちらちらと見ていると、それに気づいたようで
にこりと笑いかけてくる
「あのね」
とっさに声をかけられる
「うん」
反射的に返す
「みくね、ずっとこうなるんじゃないかなって思ってたんだ、へへ…本当だよ?」
にへらと笑いながらこちらを見るみく
その視線は僕だけの物だ。
「本当かよ」
わざとらしく流してみせるが、照れ隠しだ。
「本当だもん、トップアイドルの夢は叶わなかったけど…ここがみくにとって最高のステージだよ。」
「トップアイドル…か。」
僕がそう呟くとみくがすかさず返す
「みくには叶えられなかったけど、これから一緒に暮らして…その、子供とか…できたらね、その子がもしも…アイドルなんか目指しちゃったら、その時は絶対トップアイドルになってもらうよ…!」
「はは、そうだな…今度は2人でプロデュースしないとね」
それっきり会話が止まる、どうにもまだこの距離感に慣れてない、僕だけだろうけど。
ふと、みくが口を開く
「…あの時みたいな場所で式あげたいってお願い、聞いてくれてありがとね」
あの日、お互い本当の気持ちを隠しながら交わした嘘の誓いを果たすために、同じような式場で、同じようにもう一度誓いたいというのが彼女の願いだ。
だけど、こうもあの時と雰囲気が同じだと余計に照れくさい。
「ああ…まあ僕だって同じ気持ちだったし」
「ふふっ…そっか」
ちなみにみくはもうアイドルではない
去年ぼくらが交際を始めた直前に引退してしまっている、わかると思うがたぶん僕のせいだ
といっても業界からは女優への転向も勧められ、周りの声もあって今は女優、前川みくとして活躍している
僕はというとみくのアイドル引退をうけて美城のアイドルプロジェクトからは降りることになり、今は別の事業でこの会社に勤め続けている、今までの同僚とも顔も合わせるし何かと変わらない日々だ。
しばらく無言で歩く、やけに長く感じる道を
並んでゆっくりと踏みしめていく。
「ねえ、Pチャン…」
改まった様子でこちらを見つめるみく
「どうした?」
「本当にありがと、みく凄く幸せなの…ずっとこうやって2人でって…思ってた」
「さっきも聞いたよ」
「何度でも言いたいの!それくらい感謝してる…!!!」
「はいはい」
結婚したら全部変わってしまうと思ってたけど、こうしてみると僕とみくは何も変わってないなと実感する、これからもずっとこんな感じなんだろうか。
「あ、今更だけどさ」
「なに?」
「その"Pチャン"っての、もう変じゃないか?」
「…た、確かに」
そんな事を話していると、教会の入り口が見えてきた。
「じゃ、いこうか」
「うん」
たくさんの歓声包まれながら、たくさんの人に見守られながら、僕らは再び本当の誓いを交わした。
あっという間に15年の月日が過ぎた
「やだ、みいなもアイドルになりたい!」
静かに声を荒げる少女、その視線の先には女性が1人
「だからダメだって言ってるでしょ?パパも何か言ってあげて」
そしてその隣に縮こまっている男性が1人
「はは…僕はいいと思うけどなぁ…」
「またそうやって甘やかして!!」
今度は怒りの矛先が僕に向いたようだ、やれやれ…
我が家は現在家族会議中である、といってももう何度同じやり取りをしたかも覚えていないが…
事の始まりは今から2年くらい前かな?
みくはなぜかずっと娘に自分のアイドルの過去を隠していた、自分の昔の話は一切しない
だがそんなある日、僕がついうっかり片し忘れていたライブ映像のDVDを、当時小学生四年生の娘、みいなが持ち出してしまい、中を勝手に見てしまったのだ。
みいなはステージで駆けるみくの姿を見てアイドルに憧れを抱いてしまった、当時は本当にみくに怒られた
こうなることを彼女は恐れていたという。
あの時は、みいなはみくに似て美人だからアイドル向きだろうって言ったが、そしたらめちゃめちゃ怒られたなぁ、そういう問題ではないらしい。
「今年から中学生なのよ、今が一番大事な時なんだから遊んでる暇はないのよ?」
なんと言うべきか、娘がアイドルに憧れ始めてからほぼ毎日のようにこれだ
「遊びじゃないもん、アイドルは仕事だもん」
「屁理屈言わない」
妻の…みくの言うこともわかるが、そんな強い言い方では余計に反発してくるだけだと思うがなぁこの歳の女の子は…
「なんでよ!ママだって昔は…」
「ママは関係ありません、今はみいなの話をしてるの!」
「…それも屁理屈じゃん」
「…むっ」
あ、地雷に触れた。
しばらく言い合いは続いて、それはみくが夕方のタイムセールを求めスーパーへ出かける時間まで続いた。
「ねえ、パパ」
2人きりになると、みいなが近くに寄ってきた
「なんだ?」
「なんでママはみいながアイドルになるの嫌なの?」
彼女は昔の、僕が同じことを聞いた時に「この子には普通に育って欲しい」 それだけだと言っていたが、本人にそれをそのまま伝えるのもどんなものかな
「さあなぁ…でもみいな、お前はまだ12歳だ、いまから中学生になって勉強することもたくさんあるし、知らないこともたくさん知るんだ、だからママは、お前にアイドルはまだ早いって思ってるんじゃないかな?」
とりあえず濁しながらそう返す
「わかんないよ、みいなはママみたいになりたいだけなのに…それがダメなことなの?変なことかな?」
真剣な様子でこちらを見つめる娘の姿が、昔のみくと重なる
やっぱり親子だな、こういう頑固なところはそっくりだ。
「変じゃないさ、パパはどっちかというとみいなのこと応援してるんだからな。」
「本当?」
「本当さ」
正直な話、美城に勤めている僕が常務に掛け合えばみいなをアイドルの道に進ませてやる一歩を手助けはできる、だけどそれではダメな気がするとは僕だって思う。
「いざという時は絶対にみいなの力になってやる、だからいまはママの言うことを聞いておかないか?あいつ本気で怒ったら怖いしな」
それを聞いてみいなの顔が少し綻ぶ
「ほんとだよね、怒ったママってすっごく怖い」
「いやいや、みいなが生まれる前に一度、今までにないくらいママが怒ったことがあってな…
いつの間にか話が逸れて、そのまま会話は進まなかった、とりあえず今はこれでいいんだと思う
…みくはあの日、結婚式で誓ったもう一つの約束を覚えているのだろうか…
「子供がアイドルを目指した時は2人でプロデュース」
彼女がその事を覚えているのかは、本人の口から聞かない限りわからない。
だけど、みいながアイドルとして本気だということが全部みくに伝わった時、彼女の考えも変わるかもしれない。
そうなったら僕は全力でサポートするとしようかな、なんだって僕はみくのプロデューサーだからな。
俺以外の奴と…