小説 眠り姫 THE SLEEPING BE@UTY 作:つっかけ
この能力が嫌いだった。
ごく普通の家庭で育った私は、10歳の頃に弟が急な病で亡くなって、それ以降はオシドリ夫婦と言われた両親はずっとケンカしていて、最後には突然私の前から姿を消した。
家族も家も失った私は、彷徨う内にいつの間にかスラム(貧困街)に迷い込んでいた。
空腹から物乞いをしたり人のものを盗んだこともあった。
そんな生活を1年続けて11歳になった時だった。
暇つぶしに暴力行為で遊ぼうと警官達がスラムを訪れた。普段は絶対に見つかってはいけない彼らに不意を突かれて見つかってしまい、泣き叫ぶ私の服を脱がし始めた。
泣き叫ぶ声がキッカケだったのか、他に何がキッカケだったのかはわからない。けれど、私が次に目を開けた時には襲っていた警官たちが吹っ飛んでいて、かわりに私の周りにはシールドがドーム状に出来上がっていた。
呆然とする警官達の一人が警棒を持ち出してシールドをたたく。他の警官達も殴る蹴るを続け、ついに怒りが頂点に達した一人が銃を持ち出して私に発砲した。発砲した弾はシールドに護らた私には届かず、なんと跳弾してその撃った本人の胸に命中した。
そのおかげで警官達は退散して周りからは拍手と喝采が起こっていたが、私はたまたま発動した能力と警官達の報復が怖くて逃げだした。
彷徨って彷徨って、行き倒れた私は薄れる意識の中で伸ばされた手を掴んだ。その手はとても暖かくて優しくて、一生忘れることがないだろうと思う。
起きたらもうその人は居なくて、代わりにその人の執事が私の目覚めを待っていた。少し大きいお屋敷の一室で目を覚ました私は綺麗な服と食事を与えられた。最初は警戒して食べないようにしていたが、空腹には勝てず1分もしないうちに口に運ぶ。おいしくておいしくて夢中で食べた。
どうやらその屋敷は奥様の別宅らしく、たまたま街で彷徨っていた私を拾って介抱したそうだった。それから私は執事さんに街ですごくいい部屋を紹介されて、見合わないほどすごく安い部屋で、世の中には親切な人って本当にいるんだと思ったのと同時に、両親が居なくなってからの自分の生活を思い返して涙が止まらなかった。
街の食堂で働き始めて、屋敷に通い執事さんに能力の使い方も教えてもらった。
数年後にとうとう一度も御目にかかれなかった奥様が老衰で亡くなって、その後にこの学院へ入学した。
入学試験の時に200人近くの人数が受験したらしいけれど、中に居たのは恐ろしいほどレベルの高い人が数人と後は付け焼刃やその場しのぎの程度の人しかいなくて、私は部屋の真ん中にシールドを張って受験生側と試験官側で完全に分断した。試験官、ことに律子なのだが、彼女の攻撃を防ぐことで合格した。アイドルになって奥様の許で働きたかったのだけれど、今はもうその恩も返せそうにない。
そして私がアイドルになることはもうないだろう。この戦いは私のすべてを変えるには十分だったから。
私は言い知れない感覚に襲われていた。今の会話の中で何かそんなに違和感だったのかが自分でもわからない。だが確かにその違和感は存在して私の心に引っかかった。額に右手を当てて考えるがやはり思いつかない。何が言いたいのかわからない私を見て春香と亜美真美はポカンとしている。
「どうしたの千早ちゃん・・・?」
「いえ・・・何か・・・何かを見落としているような・・・。」
「・・・大事なこと?」
春香の声色が低くなる。私自身が重大だと感じていることを察したのか答えを聞かず思考を巡らせ始める。
先ほどの会話を頭の中で再生させて僅かでもおかしなところを探す。
しかし、何がおかしかったのかが解らないので直ぐに煮詰まった。
「大丈夫よ。」
その声は亜美でも真美でも、春香でもなく視界の端で横たわる彼女から聞こえた。
両腕が完全に治った律子はそのまま気を失ったと思っていたのだが、彼女は今うっすらと目を開けて私たちを見て微笑んでいる。
「ティーチャー律子、起きていたんですか?」
「まぁね。あと律子でいいわよ・・・。あんたたちは、私の生徒って訳じゃないんだし。・・・さすがに身体は、動かないか・・・。」
さっきまで火傷で爛れた腕を無理に治したばかりなのだから、これで機敏に動かれでもしたら人間かどうかを疑ってしまう。と言うか私のシールドですら受け止められなかった美希の一撃を見事に受け止めたのだから最早人の領域ではない。この若さで能力者を育てる講師の任に就いているだけのことはある。私たちを守ってくれたために負った傷だったのだから、あとは任せてゆっくり休んでいて。と気の利いたことを一つでも言いたいけれど、手詰まり状態の今は少しでも案が欲しい。
亜美の助けでゆっくりと身体を起こす彼女の顔が苦悶に歪むがすぐに凛とした顔を取り戻した。
「それより・・・千早、あんたに確認したいことがあるのよ。」
案が欲しいのに、むしろこちらが質問される側になっていた。
「千早、あなたたちは”アイドル”をどう認識しているの?」
「え・・・どういう意味かしら?」
この質問の意図がつかめない。私の認識としてアイドルは”一生の栄誉”という正直どうでもいいものだった。仮初の栄誉が一生あったところで心が満たされる訳ではない。金と地位があろうが不自由は不自由だ。イザとなれば招集され場合によっては戦に駆り出され命を賭して国を守らなければいけない。そんな価値のない栄誉に何の意味があるというのか。しかし貴族の中ではそれを目当てで能力を持ってこの学院に入学したり、コネクションを使って役に立たない木偶の坊がアイドルを名乗ることも少なくない。まぁそういう人は決まって現場で実力不足の烙印を押されるので溜飲が下がることこの上ないのだが。
「そう・・・今の問いがわからないと言うことはアイドルは既に廃れたと言うことね。」
「・・・・・・。」
その言葉は寂しさを含み悲しみを感じ取れた。私は頭には言葉が浮かんでくるのに息が詰まったように声が出ず、縫い付けられたように口が動かなくて反論できなかった。律子の言う”アイドル”はきっと私が知っているものとはまた別なのだろう。
一般的な認識としてアイドルとは職業だ。今や世界の人々が目指す一生の栄誉が国によって約束された職業。国家公務執行統括事務局所属のアイドルは現在の総勢で約220人ほど。その3割はコネスタートの役立たずさん。諜報能力者と防御型が圧倒的に少ないというのは耳にしている。攻撃型はかなりの数で特質型もそれなりの人数を占めている。特質型はそれだけでアドバンテージになるので意外と多い。局の高尉官にもなれば、戦に出ることもなく安息の生活が待っている。今思えば何と腐ったシステムだろう。偉くなればなるほど戦いから遠ざかる特別扱いの烏合の集。そんな人たちを守って命を落としていった人たちを積み上げると山一つ出来てしまうだろう。私が知っているのはそんなアイドルと言う職業だ。
ここまで考えてみると私と律子のアイドルというものの有り様は全く違うのだなと思う。春香の話を聞いた私が失望すらしているものに、この律子が心酔しているとは思えない。
「ねぇ千早。あなたの一番大切に思っていることはなに?」
「大切に?」
「ええ。今まで考えなかった訳ではないでしょう? あなたが能力を使う上で感じ、考え、終に思い描いた大切なものはなに?」
「それ・・・は・・・。」
能力を使う上で自分が思い描いた大切なもの。それは理想。能力を使う上でこうしたい、こうなればいい。こうあって欲しいという理想と願望。
頭の中にふと思い描く。雲のない青空。微風になびく綺麗な草原の中で笑う、短い青髪の小さな少年。その後ろに笑顔で立つ優しそうな女性と真面目そうな男性。そこに走り寄る青髪の少女。眼前で見れば何とも穏やかな家族の風景だろう。
そして灯りを消したように唐突とその家族を包む草原も空も真っ暗な闇に変わる。少女がその場に止まり、戸惑う中で青髪の少年の姿が消えた。次に微笑んでいた女性と男性は剣幕になりお互い別々の方向へ歩き出した。
それを走り追う少女は徐々に速度を落として止まり、そして反対方向へと歩き出す。
少し歩いて気付けば左手が痩せた右手に繋がれていた。見上げると高齢の綺麗な白髪の女性に手を握られ歩いていた。急に暗闇が晴れて目の前に大きな屋敷が現れた。広大な敷地に橋の架かる小川と色とりどりの花咲く壇では蝶がひらひらと飛んでいる。見惚れていると左手に繋がれた手がいつの間にか離れていて、周りを見ても誰もいなかった。再び屋敷を見ると、屋敷とは別の建物になっていた。周囲には桜の木が密集していて湖と草原、古い建物もあってその奥の丘にはひと際大きな桜がある。建物の前には2年間共に過ごした彼女たちが笑顔で立っている。
「どう? 思い出した?」
後ろを向くと、セーラー服を着た春香が私に話しかけてきた。横にはとうとう、あの桜の木が相変わらず花びらを散らせて物静かにその存在を示している。
ここは私の心の中だろう。心が映し出したのは、特に大事に思っている場所と人々の姿だった。
そして・・・。
「ええ。思い出したわ。」
私が何のために能力を、アイドルを目指そうと思ったのか。あの屋敷で執事さんに教わって、私が防御型で特性が守護防壁であることを知った時に初めて考えたこと。
「千早ちゃん。私たち能力を使う人は、決意や覚悟を確かなものにすることで使用する能力に何かしらの変化が起こる。それはやがて強い意志となって突き進むための矛となるの。」
水瀬さん、真、そしてあずささんが何か大きく変化したのは心に確固たる決意を抱いたからだ。
水瀬さんはいつの間にか魅力の回復が異常なまでに早い。それはボルテージ現象を発現させたあずささんよりも数段早い。電撃の威力も前に比べて段違いに上がっている。いや、魅力のコントロールが更に上手くなったから出力が上がったのだろう。
真は炎の色が赤から青に変わっている。原理として炎は燃える酸素の量で色を変えるし熱量も上がる。最初、真の炎の変化を見たとき空気中の酸素を急激に燃焼させているから青くなっているのだと思ったのだが、ならば赤や白に紫と別の色が混ざっていなければおかしい。だが真の炎はどこから見ても夜空に溶け込むような青。熱量も大幅に上がっているし、彼女の心に一体どんな変化が及んだのかは後で訊いてみることにしよう。
あずささんは恐らく前々から心による覚悟の重要性はわかっていたはずだ。既にボルテージ現象を発現させていたであろう彼女は大きな変化は見られなかったが、やはり魅力の回復速度は上がっている。これなら早々に転移できなくなることもないだろう。
みんながそれぞれ、この戦いで格段に強くなっていた。実戦と訓練の経験の差は何よりも得難いというのはよく言ったものだと改めて納得する。
しかし、失ったのはその代わりにすらもならないものばかり。対価や代償が釣り合わないのは世の常だが、それも今更ながら恨めしく思う。
「ティーチャー律子は能力と心の在り方を教えてくれる人だった。どれだけ荒んだ心を持っていても、気が付けば人を思いやる優しい子になっていた。どの世界でも変わらないね。私たちが慕ってた人と別世界の律子さんは何一つ変わらない。私たちの先生・・・。」
「私も律子に教えてもらいたかったわ。きっとアイドルを目指すことがとても楽しかったと思うもの。」
「ティーチャー律子がアイドルには大切なことが2つあるって言ってた。”アイドルは常に人の心と共に”・・・それが最も大切なことなんだって。」
今までとの違いに思わず苦笑してしまう。私たちはそんなこと一言も言われなかった。能力を使うための基礎から始まり訓練で鍛えて律子の、いや偽律子だった貴音さんの定めたアイドル抜擢を甘んじて受ける一つの作業と化していた。全ては自分で辿り着くこと。それが貴音さんの教育だった。
100年前、私が本物の律子に教えを乞うていたらどれほど彼女を尊敬し、アイドルとしての活躍を励みにしただろう。今の時代、アイドルは単なる争いの職業として成り下がり、終には国の上層に弄ばれるほどに堕ちてしまった。律子たちの時代で目指したものと比べれば、廃れてしまったと言われても致し方ない。
この尊厳を取り戻すことは容易ではない。いや、もしかするともう既に不可能なのではないか。今生きている人々全員にアイドルと言うものの認識を変えさせないといけない。たったの100年でこれほどまで変わってしまう。人の心は変わらずにはいられないのだと、分かりきっている答えを改めて意識した。
「千早ちゃん。あの時答えられなかったこと、今なら自信をもって言えるんじゃない?」
「・・・そうね。日々に流され、目的を忘れてただ力を伸ばすことだけに必死だった私だけど・・・今なら言えるわ。思い出した私なら・・・。」
私の心は今、自信に満ちている。どんな人でもその道に慣れてくると忘れがちになるものだが、初心に返ることがこれほどの効果を生むとは思わなかった。
お屋敷を出て一人暮らしをしてから、執事さんに能力を学んだあの頃。どん底から立ち直らせてくれた人たちに恩を返したい一心で学んで生まれた決意。
私を支えてくれた弟の笑顔も、私を拾ってくれた奥様も、もうこの世にはいないけれど・・・。
「もう一度訊くね千早ちゃん。」
一度は恨みさえした世界だけど
「あなたはアイドルになりたいの?」
悪いことばかりじゃないこの世界を
「なりたいわ。」
あの笑顔があった世界を
「どうして?」
優しく包んでくれた温かい手のある世界を
「それは・・・」
『”大好きな笑顔を、守りたいから!”』
瞬間。それは爆発にも似た、しかし静かで穏やかな力が流れた。
ここは能力を育成するための学院の新校舎前。目の前に心配そうに見つめる亜美と真美。そして優しく笑う律子がいて、右の肩にはたったの一日で深く理解し合えた命無き友人が手を置いてくれている。
青い炎のように燃え上がる魅力が身体から溢れ出している。これほど視覚化されていると言うのに、しかし内部の魅力はどんどん増えていって今ならシールドで空を覆うことすら出来そうだ。
身体に纏う魅力を、意識的に一気に取り込む。
「どう? 千早ちゃん。」
「・・・静かだわ。すごく落ち着いていて、まるで波紋一つない湖の水のよう。」
「そっか。」
「千早・・・ちょっと手を貸してちょうだい。」
律子が私の左手をとる。
目を瞑り、意識を集中させた彼女は私の左手をジッと見つめてよくわからない質問を投げかけてきた。
「・・・千早、今は何も感じていないかしら?」
「・・・暖かくなったり冷たくなったり、かしら。それ以外は特に何も・・・。」
「そう・・・いいわ。もう私が言うことは何もない。」
心の中での出来事は、現実世界でのホンの十数秒程度だったらしい。周囲の状態として春香が私の肩に手を置いたことくらいで大した変化はない。空では水瀬さんとあずささんと真が固まって会話をしている。
そして瞬きをする合間で美希が水瀬さんの眼前に現れて瞬間、背後からそれぞれ一撃を浴びて地上へと落下してくる。
目にしたのはそれこそ爆発。美希の身体からは黄緑色の魅力が空いっぱいに広がったかに見えるほどの密度と大きさだった。
ボルテージ現象と言ってもこれほどまでだと、どんな強力な攻撃が来るかわからない。
「行こう千早ちゃん。」
「ええ。・・・あ、春香。」
「ん?」
「アイドルとして大事な2つ。人の心と共にと・・・あと一つは?」
「ふふ・・・それはね。」
地面に打ち付けられたであろう水瀬さんが空を見て絶望の色を表していた。次に下を向いて諦めたような表情で笑っている。少し怖い。
「吸収していたのね・・・。」
空を見た私も納得していた。見るからに美希は自分の魅力も相手の能力も、魅力を含むものはすべて吸収しているように見える。だが吸収していても一定の力以上だとダメージは受けるようで、打撃に関しては普通にダメージを与えられているが2秒程度で回復しているようだ。
つまり一定の能力は吸収して、ダメージは即座に回復している訳で、これの対処法に関しては言うのは簡単だが実行は難しい。
今の私にその力はない。防御型である以上それはあまりにも難しい要求だ。
巨大な陣を描き、それが回転して起こっている爆風に目を細めて、恐ろしいほどの力を肌で感じ取る。
あれを撃たれては、この学院の敷地どころかこの国ごと危うい。
「水瀬さん、大丈夫?」
「何とかね・・・だけど、もうダメだわ。あんなのを撃たれちゃ・・・。」
諦めの言葉が次々と溢れ出す水瀬さんの顔は目に涙を浮かべて悔しさを隠しきれないでいた。
本当はそんなこと言いたくないのだろうと、心中を察する。彼女の性格からして当然だろう。本来の彼女なら諦めるなんて選択は存在していない。常に果敢に攻めて来たのだから、今の悔しさは経験がないほどだろう。
高槻さんを護れなかった自分の力不足も含めて、自棄がどんどん強くなっているに違いない。
「ごめんなさい千早・・・止められなかった。」
「大丈夫。」
私は彼女を笑顔で見つめる。謝罪なんて必要ない。今を一生懸命に次へ繋ごうとしている彼女たちを誰が責められよう。例え、原因の発端だとしても後の対応が正しければ責めるべきではないのだ。
今、一つの決意と覚悟することで過去に経験がないほど自信に満ちていた。
それがわかったのか、水瀬さんの顔が呆気に取られている。この顔を見るのは2度目だろうか。前にあずささんが唐突に空を飛んで尻もちをついた水瀬さんも同じ顔をしていた。
「千早・・・あんた、何を?」
「水瀬さん・・・私はあなたも、あずささんも、我那覇さん、真、亜美、真美、律子、春香、そして美希も・・・みんなを守る。」
口にするとはとても大事なことだ。それだけで力が溢れてくる。
今まで収まっていたボルテージ現象が再発し、止めどなく広がって水瀬さんも覆う。
気持ちよさそうに浸っている彼女には悪いけれど、一気に身体へと取り込んで握り拳に力を入れる。
「行ってくる。」
身体を浮かせて飛び立つ。空では美希がどんどん力を上げて今にも放とうかと言うほどだ。
先に空へ到達していた春香の左横へと向かい、止まる。
目の前には黄緑色の巨大な陣を回転させて周囲を黄緑色に染め上げている脅威の怪物、眠り姫。
きっとこれが最後の戦いになるだろう。未来のために、そして世界の笑顔のために、全力で戦おう。
「終わりだよ、春香。もう止められないの! 美希、もう止められないよ!」
美希の後ろの陣が徐々に速度を落とし、やがて止まった。
バッと両手を前に出して砲撃の構えを取る。陣は収縮しながら美希の手の先に集まり、ボーリング玉と同サイズの黄緑色に輝く玉となってその時を待っている。
「千早ちゃん、私も知らない強力な攻撃が来る。・・・大丈夫?」
「大丈夫よ。私たち二人なら、絶対に。」
私たちの後ろには守るべき友人たちが、そして未だこの戦いを知らない数多くの命が居る。背負うには重すぎるけれど、私がアイドルを志したのはそんな人たちを守るため。その人たちが日々を笑顔で過ごすことの出来るように。突如として大切な人や生活がなくならないように。
刹那、それは放たれた。
光の玉からは爆発的な砲撃が私たちに向けて放たれ、さらに地上へ降り注ごうとしている。私と春香は両手を前に身構えた。
巨大な閃光が迫る中、私の意識は自分の身体と春香の身体を守ることに集中した。そして意識した訳ではないけれど、地上にも私のシールドが展開される。ドーム状のシールドは地上で行く末を見守る友人たちを包んだ。
これだけ大規模な能力を使ったにもかかわらず、体内の魅力は減った瞬間から一気に湧き上がり戦う力をくれる。まるで自分が眠り姫にでもなったかのように魅力は無限に湧き続けるように思えた。
私たちは、どんなものでも焼き尽くしてしまうだろう閃光を受け止めた。
さっき律子が受け止めたものとは比較にならないほどの熱量。衝撃で後ろに逸らされた力は地上に降りかからず、ドーム状のシールドが弾け飛ばし霧散させてくれている。
さらに、この強大過ぎる力を防いでいることに誰よりも驚いている者が一人。
「そんな・・・。人間に・・・ただの人間に防げるはずがない・・・っ!」
光の砲火の隙間から、美希の表情が一瞬見て取れた。
美希が放射する閃光の威力が上がった。目の前の出来事にテンションが上がったのだろう。眠り姫とて力が心に左右されないということはないはずだ。頭で分かっていても心が否定するのであれば能力は本来の力を発揮できない。この場合、美希は私たちが防いだことをありえないと否定したいのではなく、『負けない!』という気持ちが強くなったのだろう。だから威力が上がった。
「この力・・・お前もアイドルの器を持っていると言うの!?」
春香と同じく美希も律子の教えを覚えているのであれば、この言葉は本来のアイドルのことだろう。その器が私にあるのかはわからない。ただ必死なだけだ。無理をせずにこれほどの強大な力と質量を簡単に受け止められる訳がないのだから。
こちらも守るために魅力を消費し続けているのだから魅力の回復が追い付かなくなればその時点でゲームオーバーだ。
そうならないために、今最善で出来ることをしよう。
右手を春香に伸ばし、それに春香も笑みをもって頷く。
賭けよう、私のすべてを・・・。
「ダメっ! 新たな眠り姫が生まれてしまう!!」
未だTPOを弁えず異常な存在感を醸し出すおしゃぶりを咥えた双子が叫ぶ。
何故空へと二人で挑んだのか。今この状況でそれが分かっていない者はいないだろう。
春香と千早はお互いに魅力を融合させる道を選んだ。地表でその行動を起こさなかったのは、単に美希がいつ攻撃を放出してしまうかが分からなかったことも含めて、私たちを守るため。
そして二人は理解している。融合することで自分たちがどうなってしまうのか。千早はまだその代償に想像が追い付いていないだろうけれど、春香はもう理解している。これが自分の意味を賭けた最後の戦いであることに。
確かに亜美と真美の言う通り、新たな眠り姫が生まれてしまうだろう。体内に2つの魅力が存在し、混ざり合うことで眠り姫として覚醒すると言うのであれば、これから行うことは間違いなく眠り姫として生まれ変わる危険な行為だと言える。
しかし私は、彼女が美希のように魅力に人格を囚われ暴れまわることは絶対にないと確信している。
この場の誰一人として気付いていなかったことに私が真っ先に気付き、そして大丈夫だと後押ししたのだ。
適当や推測ではなく説明できる現象だ。何も問題ない。
あとは本人たちがやるかやらないかの問題だけなのだから。
空では春香が左手を、千早が右手をお互いに握り合ってその時は訪れた。
この世界が救われるその瞬間が徐々に迫っていることを、私は懐かしく胸を高鳴らせて一際輝く空を見守った。
第十四章
終