小説 眠り姫 THE SLEEPING BE@UTY   作:つっかけ

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第十五章 -最後の奇跡-

賭けよう、私のすべてを・・・。

 

世界のために、私の今までの人生すべてを使ってこれからの未来のためにすべてを使う。

春香の魅力と融合することで、私はきっと命と言うものはなくなるのだろう。二つの魅力が私の中で交わって、人間ではなくなる。そこに私の自我があるかは判らない。最悪、美希と同じく暴れまわる眠り姫として世界の敵となるかもしれない。

 

 

 

 

”でも、気持ちで負けるわけにはいかない。”

 

 

 

 

こうなってしまうと言う考えは実現し得る。例え負の思考が廻ったとしても、それを覆すだけの力を放てばいい。恐怖に気持ちが負けてしまっては終わりだ。

今はただ、身を任せて全力で美希を打倒する。そのために私はここで皆を守るために戦っているのだから。

暴走する世界の敵だろうと何だろうと、どちらにしろ今ここで美希を倒せなければ後に世界は死の道を突き進む。これだけの力を持っている美希が本気で世界を破壊するのなら、彼女を止められる者なんていない。もし美希を打倒出来る者が現れたなら、あずささんの世界の二人は既に倒されているはず。そうでないのは、神が奇跡を起こしてくれなかったから。脅威が一人だろうが二人だろうが結果が変わらないというのであれば躊躇する必要なんかない。

やらないで後悔するよりやって後悔した方が何千倍もマシだ。

自分の信じるがままに、進みゆく流れのままに。私の心のままに。

私にはもう生まれ持った家族はいない。仕えるべき恩人もいない。

あるのは、それぞれの道を進む友人たちと喜怒哀楽の織り交ざる思い出だけ。

なら、私はその思い出を未来へもっていこう。一つの脅威の前に儚くも崩れ去った数ある未来の代わりに、今こそあるべき未来へと。

 

 

 

美希の攻撃は未だ衰え知らずに放たれ続けている。これほどの威力の攻撃をこんなに長く放っているのにはスゴイと言う思いの中に呆れすら感じる。

美希の閃光はまだ私たちには届いていない。春香と何とか防げているくらいで、手のひらは熱く感じる。前の私ならとっくに燃え尽きて灰すら残っていなかっただろう。本当に覚悟一つでここまでの力が出せるものなの?

 

「それだけじゃないよ!」

 

「春香!」

 

「千早ちゃん、あなたが今までの人生でどれほどの経験をその身に蓄えたのか私には想像もつかないけど、世界を心で見てきた今のあなたはかつての私や美希をもう超えてる。たぶん・・・」

 

 

 

 

 

「私をも超えてる。」

 

確かに私はまだ数えても20年と少ししか生きていない。能力と心が関係していることに気付いたのは入学1年目の秋。これでも恐ろしく早い方。心に触れるものなんて意識しなければ感じるものじゃない。

けれど、彼女はとても幼い頃から自分の心に常に触れてくれる何かがあった。恐らく、彼女にとって誰よりも大切な人との触れ合い。その触れ合いのおかげで自然と心で感じることが出来るようになった。

そして彼女はどれほど嫌なことでも最後には思い返して心で受け止める強さも持ってる。そんな人が、たかだか十数年生きた中でどれほどの力を得られるのだろう。いや、年齢など関係ない。50年生きた能力者と10歳の能力者が戦って子供が勝つことだってある。

その差は身体のピークと経験の違い。

身体のピーク時、それは人それぞれではあるものの大半は15歳から20歳の間に訪れるとされている。体力を始めとしてバイタリティがピークだと、その人の人生で一番能力を発揮できる時期でもある。だが魅力に関しては未熟故に全力を出すと魅力不足に陥りやすい。だがもし、身体がピークであると同時に魅力を使い放題で尚且つ心が様々な経験を積んでいるとしたら。

その様々な経験の内、一般的な普通の生活や金持ちなどの高貴な人たちが最も経験しづらく受け止め難いもの。

”どん底”、つまり絶望だ。

その経験があるか無いかで、さらにはその経験を受け止められるかどうかでも心の在り方が変わる。

この世界の美希も一度どん底を経験しているからこそ、これだけの力を手にした。その心を支え美希を強くしてしまったのは春香だ。春香も恐らく大きな絶望を経験して美希と出会ったことで生きる目的を見出した。”美希を守ること”で自分の存在意義を確立した。この二人の絆はとても強い。例え私の世界の美希が眠り姫になったとしても、ここまでの力はきっと備わらない。あの子はすごく厳しく育てた方だけど、本物のどん底からは多分抜け出せないだろう。

普通の生活をしているだけでは能力は育たず、高貴な生活をしているだけでは心は育たず、どん底から這い上がってやっと能力と人と世界を理解できる。当時の講師にも国のお偉方にも鼻で笑われたが、それが私の学生時代に組み上げた一つの理論だ。

千早は一般的な普通の生活も、どん底も、高貴な生活もきっと経験している。更にそこへ、大切な人の死や命のやり取りと言う誰もが経験しえないことをしている彼女が幼い頃から常に心で感じる生活を送っていたとしたら、彼女の力は想像できない。

どれだけ強力な攻撃をしても如月千早は全てを防ぎきってしまうだろう。

 

さっき私が千早の手を取って何をしたのか。あの場に居た誰もが理解できなかったはずだ。

あの時私は彼女を、”如月千早を殺すつもりで能力を使った。”

一か八かの選択だったけれど、あれで生きていなければ美希と戦っても春香と融合したとしてもきっと勝てない。それほどまでに美希の攻撃は強すぎる。私の炎が相殺できないほどの熱量なのだから千早との相性は最悪と言っていい。

だけどあの子は私から、燃え尽きてしまうほどの力を受け、その上凍らせる能力を受けたにもかかわらず不思議そうな顔で温かくなったり冷たくなったりと言った。

正直驚きを通り越して呆れた。不本意にも天才と持て囃された私との力の差が歴然だったのだ。

これは即ち、彼女の能力が進化して出来た”絶対防御”の力。しかも無意識でそれなのだから意識的に力を使っている今、美希の攻撃が通るなんてことは億に一つもありはしないだろう。

それほどの力を有しながら本人はまだ無自覚。その強大な力の理由を理解させてあげれば、それは必然的に最高にして最強の能力者が誕生するだろう。

それを春香も理解している。だから・・・。

 

 

 

 

「あなたはアイドルに成るべくして生まれてきたような人だもの。」

 

物心ついた頃から私は幸せの中で暮らしていた。温かい父と母の笑顔と生まれてきてくれた弟の笑顔。私の歌をずっとずっと聴いてくれて嬉しいことも嫌なことも分かち合ってくれた弟。その弟が死んで全てが壊れて、あれほど笑顔を与えてくれた両親からは常に睨まれて捨てられた私。頼る人もいないまま空腹と暴力が支配する貧困街で明日にも命尽きようかと言う崖っぷちを1年も生き抜き、永遠に続くかと思った地獄を命かながら逃げ出して、彷徨った先で温かい光に手を差し伸べられた。身の丈に合わないほどの衣服と食事を与えてくれた奥様と執事さん。一人での生活の中で能力のことを教えてくれた執事さんと、とうとう謁見叶わなかった奥様への恩。そして私を生かしてくれた世界。その恩を返すために入ったこの学院で出会い別れた友人たち。

この戦いで本物のアイドルは何たるかを教えてくれた彼女たち。

 

全て私の心の中にある。

 

今の私に守れないものはない。

 

優、お姉ちゃんのこと許してね。

 

奥様、私は見つけました。あなたへの恩の返し方。

 

 

 

 

 

 

 

 

「千早ちゃんなら、大丈夫!」

 

 

私は

 

 

「春香!」

 

 

世界を

 

 

「私、アイドルになるわっ!!」

 

 

護る!

 

 

 

 

 

 

 

春香の伸ばされた左手と千早の伸ばされた右手が指を絡めてガッチリと繋ぎ合わさった。

瞬間、空を満たす温かい光が地上にも降り注いだ。目を開けてられないくらいの眩い輝きは地上と空を繋ぐ桃色の柱になって更に輝く。

光の柱の中に一人、青い髪の少女がまるで溶け合うように光に包まれ衣服が変化していく。

膝近くまである白いブーツの足首が光に包まれて弾けると共に青いリボン現れ、青いラインの入ったスカートはピンクと白と黄色が交互になびく六重層のフリルスカートに変わり、腰部についた青いベルトが消滅して一瞬でピンクのリボンが姿を現し、服の側部にもピンクのラインが縦に入っている。黄色のボタン留めが胸の前で上中下と3つ並んでいて上服の裾は二股に分かれて脹脛ほどまで伸びている。首元に光が密集して、み空色のスカーフが現れ、同色でバラの形をした花飾りが左頭部に現れる。両手を前に密集していく光が弾けたら、そこには重量ある長いスタンドマイクが、まるで主人が現れるのを待っていたように彼女に身を委ねる。片側は足を三本持っていて反対側にはマイクが2本ついている。

光の柱の中で生まれ変わった新たなアイドルがその両目を開く。強い意志を滲ませる目は左側だけ赤く光を放っていた。

彼女は今感じていた。春香の魅力の中にもう一つ、穏やかながらも強大過ぎる魅力が存在していることを。

この光の柱は地上から吹き出している。周囲にこの戦いをずっと見守ってくれている桜たちの光。

驚くことに今、千早と春香の魅力が混じり合ってそこへ桜の魅力まで合わさっていく。

一つの胴体に3つの魅力を宿すという奇跡が世界の命運を決定づけた。

 

 

「・・・キレイ。」

 

 

その一言以外にこの光景を表現出来る言葉を伊織は持ち合わせていなかった。

空の暗闇から真っ白に変わって桃色の光の柱の中に2年と少しを衝突しながら一緒に過ごした彼女がいた。

地面に力なく座って見守っていた伊織は、その光景はまさに女神が降臨したように錯覚するには十分な壮麗さがあった。千早が春香と共に空へと向かうとき、思わず彼女に向かって手を伸ばした。無意識ながら伊織は、千早に”待って”と声も出ずに引き留めたくて、千早に死んでほしくないと心の奥底で思っていた。

大規模と言わざるを得ない千早のボルテージ現象を見て、その魅力に包まれても美希に勝てると言うイメージは湧かなかった。

しかし今、この光景にはそれを確信づけるだけの希望が瞳に映し出していた。

あずさも真も響も、律子も亜美と真美も、この空に現れた希望を見て言葉を失っているように見える。開いた口が塞がらないとはまさにこのことである。

そして彼女たちが希望を見ている時、その場の一人はまさに絶望を見ていた。

 

 

「うぁぁあああーっ!!」

 

 

千早の変化と光に圧倒されて攻撃の手を止めていた美希が我に返り激昂する。本能的に危険だと感じ取ったらしく、この戦いで初めて眠り姫が心の底から焦っていた。

敵対している相手が自分の命を脅かす力を手に入れたのなら、まさに当然の反応だ。

眉間を寄せて、まるで親の仇のように睨む彼女は叫びを上げて再び両手の中心にあるボーリングの玉サイズの黄緑色の球体から閃光が放たれた。さっきよりも更に太く、更に熱い。

今度は何もせず直撃を受けた千早を見て多量の汗を流しながらも息を切らせて笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこを狙っているの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

背後から声がした。頭の理解速度が追い付かず一瞬身体が硬直した。

即座に飛び退いた美希は目に見えるほどに青ざめている。

距離を置かず2,3度と手のひらから閃光を放ち千早に直撃するも、効果はない。

動かない千早を見て攻撃の力を蓄えようと再び背後に陣を形成する。

しかし、今度は上下左右と4つの陣を出現させて黄緑色の丸に見えるほどの速度で回転させた。その力を全て自分の前に挙げた両手に集中させる。先ほどとは比べ物にならない、人一人が軽々入るサイズの黄緑色の玉が出現した。

その間に千早は全くと言っていいほど動かない。地上の少女たちもさすがの律子でさえ焦りと不安が過る。それほどまでに強大な力を肌で感じ、この世のものとは思えないほどのエネルギーが周囲に衝撃をまき散らしながら集まっている。

それは熱く、まるで太陽が傍にあるようなほどの熱量。大気の温度は100を下らなく超えている。

そのエネルギーを乗せた球体がどんどんと小さくなっていき、そして。

 

「うあぁぁぁーーっ!!!」

 

咆哮と共にその力は放たれた。最終的にボーリング玉ぐらいにまで収縮した球体は建物ですら飲み込むほどの巨大な閃光として放たれ千早の身体を包み込んだ。

爆音が7キロも離れた街に到達するほどの衝撃があり、爆風が周囲の少女たちと桜や植物たちを吹き飛ばそうかと言わんばかりに揺れさせる。

その閃光は20秒足らずも放たれ続け、徐々に細くなって消えた。

両手をだらんと下げて息も切れ切れの美希は千早が居た場所を見つめる。そこは黒い煙がかって千早の姿が未だ見えない。

美希は整わない息を気にもせずに口元には笑みが現れていた。

黒い煙が徐々に霧散していき、そして美希の笑みはたちまち恐怖に変わる。

間違いなく灰と化し跡形もないはずの千早が傷一つなく平然と宙に立ち美希を見つめていた。

 

「そ・・・んな・・・。」

 

最大出力だったのだろう。全力を出し切っても尚、無傷の相手がいる。そんな状況で冷静で居るなんて例え神でも無理な話だ。

かすかに首を左右に振りながら後退する。千早とどう対峙していいか分からず混乱していた。

そこへ千早は手に持つスタンドマイクをグルグルと軽々回してグッと持ち直した。三本の足は美希に向かって開いている。足を肩幅より少し広く開き、右足を後ろに下げて腰を落とす。左手がスタンドの足近くを持ち、右手をスタンドの首元をもって腰に据える。しっかり固定した後、三本に開けた足の中心に薄桃色の球体が徐々に膨らんで明滅を打ち始めた。

ボーリング玉より二回りほど大きく膨らんだ球体は今度は少しずつ小さくなっていく。まるで凝縮していくように今度は手投げ玉ほどの大きさになって明滅は止まった。

 

「・・・ごめんなさい。」

 

その一言を放って薄桃色の光は爆発した。

 

「ひっ・・・」

 

さっきの美希の閃光の倍は太く速い。

世界中に響き渡りそうな轟音を発して。

小さく漏れた声はそれ以上発されることなく、1秒もない速度で美希の身体を包み込む。

空を切り裂くように光が横切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光に包まれたの。

身体が容赦なくボロボロになっていく。でも、不思議と痛くない。

一瞬にして身体がなくなって、全てが解放されたみたいに軽くなる。

終わったんだ。終わらせてくれたんだ。この地獄を。

別の魅力に身体を操られて、何より大切だった人を死なせて、どれだけの時間を閉じ込められたかわからないけど、もういいんだ。

きっと天国には行けないけど、仕方ないよね。

これから行くところは、もしかしたらもっと苦しい場所かもしれないけど、仕方・・・・・・ないよね。

 

ごめんね。

 

・・・バイバイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美希っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閉じかけた目を見開いた。

真っ白い視界の中に一人。世界で誰よりも大切な人が一糸纏わない姿で自分に手を伸ばしてくれていた。

 

「春香っ!」

 

同じく一糸纏わない姿で手を掴もうと腕を伸ばす。

神はどこまで意地悪なのだろう。二人の手は後少しで触れあえるところまで来ているのに、まるで擦り抜けるように何度も空振って一切触れられない。

 

「後、少しで・・・・・・!」

 

美希とこのまま永遠の別れとなってしまうのか。『冗談じゃないっ!!』と心が叫ぶ。目の前のたった数センチ。その数センチで最後の願いが叶うのに、それを諦めてしまうような後悔しか残らない終わり方なんて望んじゃいない。

確かに、もう一度最愛の義妹に逢えて解放されてこれ以上の奇跡はない。でもこれだけの奇跡を起こしてくれたのなら最後の1回だけ奇跡を起こしてほしい。肉体でもないのに身体が、腕がバラバラに千切れてしまいそうだ。前に進みたくても不思議な力が邪魔をしているようで進めない。

こんな嫌がらせのような神の行為を恨み始めた時だった。

 

 

トンッ

 

 

春香は微かに、しかし確かにホンの僅かだが背中を押された気がした。視界の端に糸のような髪のような銀色の何かが映る。フワッと押された身体は数センチの前進を経てやっと目的の手をつかみ取る。

 

「春香っ! 春香ぁっ!!」

 

お互いの身体を引き寄せ合って強く抱きしめる。

神への恨みが一瞬にして感謝に変わった。

美希は春香の胸の中で泣きじゃくっていた。春香も静かな涙を流して美希の感情を受け止めた。

 

「美希!」

 

「春香、ごめ・・・ごめんなさいっ!! 美希・・・美希はっ!」

 

「美希、もういいんだよ。もう絶対離さないから。ずっと、ずっと一緒だよ。」

 

「うん・・・うんっ!」

 

二人はこれまでの時間を埋めようとするように、温かく抱きしめあった。もう二度と離さない。そう願いながら足元から光の粒になって徐々に消失し始める。これから先、魂だけの存在になろうと二人はかつてあったはずの時間を必ず取り戻すだろう。

それが例え永遠であっても、二人一緒ならその道中もきっと楽しいはずだ。

春香は目をゆっくり開く。美希の頭を消えゆく手で撫でながら、遠くで見つめる青い髪の少女に向かって笑顔を返した。

 

 

 

・・・・・・ありがとう・・・・・・

 

 

 

二人は完全に、光となって消えた。

 

 

 

第十五章 終

 

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