小説 眠り姫 THE SLEEPING BE@UTY   作:つっかけ

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エピローグ ‐眠り姫‐

かつて、人類の脅威となる少女が解き放たれ、世界の命運をかけた戦いがあった。

たったの一晩で全てが始まり全てが終わったその戦いが、本当に実在したと言うことを知っている者は殆どいない。みんなが物語として記憶している。その理由は一冊の本にある。今や誰もが家に持ち、一度は読んだことのある厚さ4センチ、縦が約21センチ、横が約15センチで表紙の表面が青く裏面が赤い少し大きめの本。その本は著者の生まれた故郷の事から遠くの学院へ入学して想像を絶する戦いを経験し、本が完成するまでの約30年の人生を綴った本。壮絶たる人生が記されたその本は瞬く間に反響を呼んで世界的に出版され、その時を制した。

あの戦いから70年。

世界からは大きな争いがなくなり、平和と言えるレベルにまでになっていた。未だ小さないざこざはあるものの、当人たちだけで解決できるものが多くなり、日々を笑顔で終える人たちが多数を占める。

 

ここは大きな町の外れにある大きな修道院。

丘の上に創設されたその修道院は、西洋風の小さなお城のような建物で、周囲には自然に覆われた森や湖、川もあれば控えめではあるが草原もある。その森は年中通して桃色の花びらが舞い散る桜の森と呼ばれている。

少し南へ歩けば人々が賑わう大きな街があり、修道院へは街の北にある草原を進む。桜の森のさらに南には普通の森があって今は緑に色づいて暖かい季節の象徴とも言える。

桜の木々に囲まれているその修道院は白い壁で覆われた建物で、この建物の入り口は両開きの癖に意外と狭く、大の男が二人ならんで丁度いいサイズだ。2階建てになっており屋根は青く三角形のため雪などは簡単に滑り落ちてくれる。

もちろん住み込み制の修道院とあって2階は食堂と浴場。談話スペースなどがあって、同階層には修道士たちの部屋が10ほどある。

修道院の裏には約1ha(ヘクタール)程の大きさの円を描いた湖があり、畔に4人ほどが乗れる手漕ぎの小船が2隻置かれている。現在の修道院は数十年前に出来た建物で、この場所にはかつて能力者を育てるための学院があったとされている。

その西側には何故か巨大なクレーターがあって、その場所から北に行くと、周りの桜とは比べ物にならないほどの立派な一際大きい桜の木が生えている。樹齢幾百年という太い幹に力強く咲き誇る白桃色の花からヒラヒラと花びらが宙を舞っている。

 

古くそびえる修道院の東側にある庭。そこには一人の老婆と数人の子供の姿があった。

その老婆はずっとそのお話を語っていた。70年前に起こった悲劇の戦いの語り部として今ではこの修道院を創り子供を導く教師の道を選んだ魅力具現の使い手。

前後に揺れる安楽椅子に座って本を読んでいる老婆と草の上に座って物語を聴く子供たち。

10歳にもならない紺色の髪の子供と銀色の綺麗な髪をした女の子が老婆に一つ質問をする。

 

「おばあちゃん。そのお話ってホントのお話? それともただのお話?」

 

どうやら孫である二人の質問に本を手に持つ彼女も少し黙ってしまったが、本当のお話よと言って答える。表面は青く裏面は赤いその本は彼女が書いたものに他ならなかった。

70年前に起こった戦いの生き証人。あの戦いで魅力体だった少女を実体化する重大な役割を持っていた。彼女が居なければ、その戦いはきっと惨敗を喫しただろう。

本の音読を再開しようとしたら、遠くに見える懐かしい顔に気付いた。パタンっと本を閉じて子供たちに修道院や街に戻るように指示を出す。

 

「もう夕刻だから続きはまた今度ね。あなたたちも修道院の中にお入りなさい。」

 

「はーい。」

 

8人ほどいた子供たちが一斉に立ち上がって歩き出す。街に戻る者もいれば、そのまま修道院の中へ戻ったり、しばらく庭で追いかけっこすると言う子供もいる。

一人動かずに残った院長と呼ばれる彼女は、既に視界にしっかりと捉えられて歩いてきた一人の少女に話しかける。

 

「・・・こんなつまらない話しだったけど、私の夢や希望は果たせたのかしら?」

 

一人の老婆は笑顔でハムスターを具現化した。かつての姿と変わらないお腹が白く背が薄茶色の毛並みをしたハムスターが彼女の肩に登る。

今度は客人である少女が口を開いた。その声は少し震えていて無理に笑顔を作っているようにも見える。

 

「充分すぎるほどです。あなたは人々に心の在り方を説き、あの戦いを伝えてくれた。今を生きる様々な人たちに。そして二人のお孫さんにも。でももういいの。もう、十分すぎるほどにあなたの夢も希望も人々に伝わっている。だからもういいのよ、我那覇さん。」

 

少女が老婆の名を口にする。我那覇響はこの修道院の院長をしていた。千早と別れた後、彼女は一度故郷に戻り自分に今出来ることは何かと思い筆を執った。働きながら少しずつ物語を進め、この修道院を建設すると同時に完成した本を表に出した。最初は手にすら取ってもらえなかった本ではあったが、手に取り読み終えた人々の話から話題を呼び、大が付くほどの人気を博した。

最後のページにはこう書かれている。

 

『この物語は著者の経験した事柄全てが事実であった。人々の知られざる戦いがあり、今もどこかでそれが起こっている。それを止められなくても争いのない世の中を願うことは誰にでも出来る権利だ。その願いがいつまでも心にあることを強く願う。』

 

ここで本を閉じることになる。

その本を膝の上に乗せて千早の顔から視線を本へ移す。ゆっくりと口にする言葉は喜びが満ちていた。安楽椅子を軽く前後に揺らし、千早に言葉を返す。

 

「そう・・・ならお言葉に甘えようかね。」

 

目を閉じて揺られる彼女の目尻に少々の水滴が見て取れる。今までの人生を振り返っているのだろうか。

今や当時のことを知っているのは響と千早の二人だけ。亜美と真美は行方知れず、真は二人より先に逝ってしまった。何歳になろうと親しい者を失うのはとても寂しく心が痛む。だが彼女たちの進んだ道の先で、人生にちゃんと満足出来ていたのかなと真の安らかな死顔を見てそう思った。そして響も、今までの人生をとても満足に思っている。

それを千早に伝えようと、しっかり声を出した。

 

「この70年間。辛いこともたくさんあったけど、それでも子供達のために尽くした時間はとてもいいものでした。とても良い人生だったわ。ありがとう千早。・・・これから一人にしちゃうけど、ごめんね。」

 

千早は優しく揺れる椅子に向かって歩き近づいた。響の目の前に立ち、今の響に思いを告げる。

 

「いいのよ我那覇さん。今まで本当にありがとう。あなたの人生を懸けて伝えたものは決して無駄にはならない。あなたの心はこれからの世界を担う人たちの力に必ずなる。私がそれを保証するわ。だから・・・!」

 

ハッとして口を止めた。頬に一筋雫が流れる。それからはもう千早は響に話しかけることはなかった。ただ、椅子に座る二度と眼を開けることのない唯一無二の友の安らかな顔を見て深々と一礼し、その場を後にした。

妙齢の修道女に響のことを伝え、太陽が粗方沈んだ丘の上で一人サクラの木にもたれ掛かって古い記憶を呼び起こす。

学院に入学したころ、みんなが浮遊術に一生懸命だった懐かしい光景。成功しても失敗しても笑っていたみんなと悔しがる伊織や真。それを見て笑うやよいと雪歩。彼女たちをしり目に空を飛び回るあずさ。みんなを励ます響。

そんな楽しく幸せな時間が遥か遠く。心の中で煌めいている。

千早の命は一体いつ尽きるのか。それは神のみぞ知るものだ。しかし、みんなの許へ逝く日もきっとそう遠くない。

色褪せない思い出を終結させ眼を開き、みんなが守った未来のために、眠り姫は再び夜空へと飛び立った。

 

 

 

 

エピローグ

 




あとがき!


小説 眠り姫 THE SLEEPING BE@UTYを読んでいただいてありがとうございます。
去年の2月(実際はもっと前)からこの小説を書き始めてもうすぐ1年。時の速さに驚かされます。
ボクはこれが小説の処女作になる訳ですけれど、文章で画を表現するのがこれほど難しいとは思いませんでした。一つ一つの言葉や単語の意味を調べて出来るだけ気を付けて使い、更にどう書けばその画が想像できるのだろうと一度書いた文章を何日も読み返して客観的に見てるつもりになったりと本当に大変な作業でした。
でもこうしてエピローグまで書くことが出来て本当に良かったと思います。
元々は第10章くらいまでしか物語のストックがなく、11章からは1から書くのに時間がかかって結局1年ものになってしまいました。投稿ペースが遅かったことをここでお詫び致します。

さて、小説 眠り姫 THE SLEEPING BE@UTYもこれにて一度完結と致します。
まだこれから、それぞれのキャラクターのアフターストーリーを書く予定ですので、よろしければ楽しみにしていてください。
ある漫画の「もうちっとだけ続くんぢゃ」状態になってしまいましたが、むしろこのアフターストーリーを書きたいがためにここまで頑張ったと言っても過言ではありません。
最後の小説 眠り姫 THE SLEEPING BE@UTYをどうぞご期待ください。

2018/1/10

つっかけより。
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