小説 眠り姫 THE SLEEPING BE@UTY   作:つっかけ

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第六章 -開戦-

自然に囲まれた小さな学院。旧校舎の1階エントランスホール。その場所で今、誰にも知られざる戦いが始まろうとしていた。

建物内部は眠り姫と呼ばれる脅威の能力者、星井美希の攻撃によって入り口の扉に机や椅子も壊れ、窓ガラスは全て砕け散り、2階へ上る左右の大きな階段が真ん中から下が跡形もなく吹っ飛んでいる。

沈黙する星井美希と真のにらみ合いで緊迫した空気の中、壁際を移動していた雪歩はようやくあずさの居る場所まで辿りついた。

二人の状態を急いで確認する。

 

「二人とも、大丈夫?」

 

「ゆ、雪歩ちゃん・・・。」

 

「あずささんちょっと手を。」

 

雪歩はあずさの手を取って脈を診る。次にあずさの頬に手を当てて顔色を見てから、千早の顔を見て目を合わせる。

目を合わせて数秒で千早は息を吐いて目線を下に向けた。もう一度千早に目を合わせるように言って合わせるが、また同じように目線を下に向ける。

 

 

(あずささんは顔が白く冷たい。手も冷たくて脈が弱い。目眩を起こしてるみたいだし、多分低張性の脱水。千早ちゃんは極度の疲労。魅力を急激に消費したみたい・・・。このままじゃ攻撃されてもまともに回避も出来ないし・・・・・・そうだ!)

 

 

「雪歩ちゃん。私より先に千早ちゃんを・・・。」

 

「ダメです。あずささんを回復させないといざと言うときに回避に影響が・・・」

 

「千早ちゃん。つらい状況だけど氷出せる?」

 

「え・・・小さいのなら大丈夫。それでもいいかしら?」

 

「うん。口に入るくらいの四角い氷をお願いしますぅ。」

 

千早は掌を上へ向けて意識を集中する。魅力を消費している千早は辛そうに顔を顰めながら空気中に氷を生成する。大きさにして口に入るサイズの氷を二つ。その氷を雪歩は自分の手に取って能力を発動させた。白く薄い水色の氷が徐々に光輝いて数秒の後に光は収まった。そして氷の色が白く薄い水色から黄色と白色の氷へと変化していた。

雪歩は黄色を千早に、白色の氷をあずさに手渡す。

 

「それを口の中で舐めて溶かしてください。」

 

「これは・・・?」

 

「の、能力で変化させた特性のポーションです。二人の状態から今の状況に合わせて変化させたので回復するはずです。さ、早く口に。」

 

あずさと千早は急いで雪歩が作ったポーションの氷を口に含む。口に含んだ瞬間に若干の苦味の後、甘い味が口の中に広がる。頭に響く甘味だがフワッとした浮遊感に包まれていく。約5秒ほどの幸福感の後に意識を戻した千早の疲労感がもう殆ど消えていた。あずさも脱水による気だるさが消えて徐々に顔色を取り戻し、頬に桃色が浮かぶ。頭痛が収まり意識がハッキリしてくる。

雪歩の特性ポーションは名前負けしていない個人の状態に合わせて変化させたまさに″特性″なのだ。

瞬時に回復する速度と効能はエリクシーに引けを取らない。

 

「まるでエリクシーね・・・。凄いわ萩原さん」

 

「そ、そんな・・・私なんて全然。まだまだエリクシーほど凄くないしホンのちょっと回復させられる程度で・・・。」

 

「そんなことないわ雪歩ちゃん。まさかこれほどなんて・・・驚いちゃったわ。」

 

エリクシーとは回復を専門にしているアイドルの総称で、傷や体力を回復する能力を持つアイドルや、能力で薬を作って回復させるアイドルなどがそう呼ばれる。

雪歩の目指すアイドルだが、水を変化させて薬を作る雪歩がエリクシーになったとしたら歴代の偉大なエリクシーに並ぶ能力を持つかもしれない。

そう思わせるほど彼女の作った氷の効き目が凄いのだ。回復したあずさも驚きを隠しきれない様だった。

 

「あ、あずささんは脱水が酷かったのでスポーツドリンクに近い氷にしました。増血剤のように体内で増水して急速吸収するようにもしました。千早ちゃんは神経の使いすぎと魅力の消費から来る疲労だったから滋養強壮効果のある氷に変えたの。あずささんと同じで急速吸収だから効果はすぐに出たと思う。」

 

「助かったわ萩原さん。ありがとう。」

 

「ううん。薬師学の知識が役に立ってよかった。」

 

座り込んでいた千早も立ち上がり、美希を見つめた。今ようやく真と響が攻撃を仕掛けようかという緊迫感に包まれている。

そして改めて周囲を見回し旧校舎ホールエントランスであった場所の惨状を確認して美希が出てきた場所を見てハッとした。

律子とやよいはまだ地下に居るだろう。それと同じく伊織の行方がまだわかっていない。

これほどの騒ぎだ。何かあったと彼女なら真っ先に駆けつけてくるだろうけれど未だに姿を見せない。

 

「萩原さん。今の特性ポーションをもう一つ作ってくれないかしら。」

 

「え・・・いいけど。どうするの?」

 

星井美希が姿を現したことから鍵を使ったことは間違いない。となれば、美希の出てきた場所から地下に入って扉を開いた。美希を見てうまく逃げ出したか攻撃されたかのどちらかだろう。

一度地下に潜って伊織がいるかどうかの確認だけでもしないと、万が一にでも瀕死の状態だったら発見の遅れで命に関わる。

 

「多分だけど、まだ水瀬さんが地下に居ると思うの。攻撃を受けて動けなくなってたら大変だから念のために確認してくるわ。」

 

「・・・わかったよ。任せて!」

 

「・・・・・・・・・・・・ふふ。」

 

 

再び千早が氷を生成している最中に、突然に美希が微かに笑った。

そしてその小さな笑いは次第に大きくなっていき大笑いまで始めた。

 

「ふふ・・・ふふふ・・・あはっ。あははははははっ!!」

 

そこに居るみんなが大笑いする美希に恐怖染みた感情を抱く。

千早は自分の胸の中に何か恐ろしい、ドロッとしたものを感じたような気がした。

恐怖心自体は今はまだそれほどでもない。感じたのは簡単に言うと『嫌な予感』だ。

この戦いはみんなの運命や未来を大きく捻じ曲げるのだろうという予感を感じた。

 

本格的な戦闘衣装とアイドルの持つスタンドマイクを装備し、真の攻撃を意図も簡単に防いだ脅威の存在が笑っている。氷を生成して雪歩に渡すところで笑いは止まり、そして・・・。

 

「!!?」

 

一瞬だった。1秒にも満たない一瞬の間に美希は真との距離を詰めたのだ。

真は回避する間もなく、美希の拳が腹部にめり込み、そのまま真は入り口の外まで吹っ飛んだ。

その隣で美希の攻撃に驚く事もなく、攻撃をいち早く察知していたいぬ美は真が攻撃を受けた瞬間に噛み付く体制になっていた。しかし、いぬ美の噛み付きはガチンッ!という音と共に虚しく空を切る。

美希は既に回避して響といぬ美の後ろに回りこんでいた。

そこへ即座にあずさが転移して更に美希の後ろへと回り込んだ。手に魅力を集中させて指先を鋭い刃に変え、美希の身体を貫こうと手突の構えをとった。しかしその時あずさが見たのは、こちらを見ながら笑う横顔だった。

あずさが咄嗟に前屈みになったその瞬間、頭の上を鎌の刃が通り過ぎる。

転移した時、美希のスタンドマイクから放出された魅力がまるで死神の鎌が如く湾曲した刃となってあずさのうなじ部分に据えられていたのだ。

あと1秒判断が遅れていたらあずさの首は血飛沫をあげて宙を舞ったことだろう。

美希は前方宙返りの様にジャンプしたと思えばその勢いで前屈みになってるあずさの顔面に踵を叩き込むつもりだ。そうは行くまいと寸前にいぬ美の傍へと転移して、体制の整わないいぬ美と響を連れて転移で距離をとる。

たったの5秒程度の攻防だがスピーダーの戦いなら良くある光景だ。この攻防が終わって皆がまた動かなくなる。

そしてこの攻防の間に雪歩の氷のポーションが完成した。真が吹っ飛ばされたのを見て伊織と真の氷を2つ分作っておいた。雪歩のポーションは傷を治すことは出来ないが体力を回復することはできる。

 

「千早ちゃん。ここは私達で食い止めておくから、早く伊織ちゃんを。」

 

「・・・えぇ、お願い!」

 

雪歩は階段横の割れた窓から外に出て入り口の前で倒れている真の元へ向かった。

千早は対峙しているあずさと響を見てからすぐに地下へと向かう。

今は仲間を信じて伊織の無事を確認することが優先だ。

千早はさっきとは別のもう一つの階段裏にある地下の入り口を下りていく。

身構える響とあずさ。数秒の沈黙のあと、更に激しい戦いが始まった。

 

 

 

長い階段だ。薄暗く、壁についている蝋燭も破壊されて機能していない。

だが暗いからといってゆっくり降りている暇はない。今にも上ではみんなが死力を尽くして戦っている。少し身体を浮かせつつ急いで降りて躓いても止まらないように急ぐ。

降りている途中で階段が崩壊していた。さっきの振動はこの階段を壊したときのものか。

ガレキになっている狭い中を必死に進む。そしてようやく整備された通路に出た。そこには仰向けに倒れて意識を失っている伊織の姿があった。

 

「水瀬さん!」

 

呼吸と脈を確認する。脈はしっかりと打っているが呼吸が少し弱い。

急いで雪歩特性ポーションを口の中に放り込んだ。

私達よりも回復に時間が掛かってるように見える。本来は雪歩が相手の状態を見て回復薬を作るのだろうから回復の遅れは当然とも思えた。

それでも時間にして数十秒。伊織がようやく目を覚ました。

 

「う・・・ち・・・はや?」

 

「水瀬さん! よかった、気が付いたのね」

 

眼を覚ました伊織は力をこめて起き上がろうとすると、頭と腹部の痛みを訴える。ポーションを口に入れて飲ませてはいるが体力が回復するだけで怪我を治すことはできない。動けるのであれば自力で行動してもらわなくてはいけなかった。

戦えるのであれば戦力に、戦えないのであれば避難してもらうつもりだった。

 

「・・・私、一体・・・。」

 

「今、上であずささんたちが戦ってるの。水瀬さん、戦えそう?」

 

「戦い・・・そうかあの女、いきなりとんでもない攻撃してくれちゃって・・・」

 

「まだ少し身体がふら付くだろうから大丈夫そうなら地上に上がってきて。私は戦いに戻るわ。」

 

「ま、待ちなさいよ!」

 

伊織は身体を動かさないようにして、立ち去ろうとする千早を呼び止めた。声が震えている。

星井美希に対して恐怖心が芽生えたのか、いつもの伊織とは思えない弱気な声が狭い通路に響いた。

 

「あんたが行ったって勝てっこないわ! みんなで逃げないと!」

 

「それはダメよ。私達が食い止めないと世界が崩壊してしまう。さっき話した通りのことが現実になってしまうのよ。」

 

「わかってるわよ!! でも今戦ったところで勝ち目なんてない。私ですら一撃でこの様なのよ。対策を立てて力をつけて挑まないと!」

 

「その間にどれだけの人が死ぬのかしら。あなたが扉を開いた時点でそんな暇はもうないのよ。」

 

「・・・そ、それは・・・。」

 

さすがの伊織も言葉に詰まった。それはそうだろう。勢いに任せて感情的にとった行動がよもや本当に世界を崩壊させてしまうかもしれない少女を解き放ってしまったのだから。

たったの一撃。その一撃があの水瀬伊織のプライドを粉々に打ち砕いたのだ。

千早は、伊織がどんな攻撃を受けたのかはわからない。きっと不意打ちのようなものなのだろうと思う程度だがその攻撃の非情さと力は千早も身を持って経験している。

千早の防御を持ってしてもギリギリで凌げたほどの威力とあずさに放たれた目にも留まらない光の槍。まだ本気を出していない彼女の規格外の力に千早も恐怖しないわけが無い。

だが、それでもあずさと春香の話を聞いた千早には星井美希を止めるという選択肢以外は既に持ち合わせていなかった。

 

「もういいわ。そんな状態のあなたが参戦したところで足手まといだもの。私はもう行く。あなたは好きにして」

 

「・・・・・・っ。」

 

いつもなら即座に言い返してくる場面だが、伊織は苦虫を噛んだような顔でただ座っている。言い返してこない。もはや千早へ怒りを向けることも出来ない。自分の不甲斐なさ、情けなさ、そして軽率にも自分のとった行動の愚かさに対して千早に言い返す資格すらもない。

攻撃の痛みも死ぬかもしれない実戦の恐怖も想像して身体が動かない。

 

戦意喪失。

 

それが今の伊織の状態だった。ならばもう置いていくしかない。戦ったところで戦力にならないだろうことは明白だ。連れて行ったところで逆に危険だと千早は判断した。

 

千早は俯く伊織を置いて一人地上へと戻った。

 

地上では未だに激しい攻防が続いている。地響きがその証拠だ。

階段を上って地上へ出ると建物自体はさっきより滅茶苦茶に破壊されていて、よく倒壊しないものだと千早は少し感心した。

今のところ誰も戦闘不能状態になってはいない。ただ、皆かなりの体力を消耗しているのか動きが良いとは言えなくなって来ていた。

真も雪歩に回復してもらって空中であずさと共に戦っている。

響も応戦しているが攻撃を避けるので精一杯のようだ。雪歩は地上からその戦いを見ている。みんなを回復させるので魅力を使いすぎたのかもしれない。雪歩の能力は魅力の消費がかなり激しい。さっきの氷でも成分を変化させるというのは恐ろしく高度な業なのだ。

そもそもエリクシーの資格を得るには医学と薬学、栄養学を理解記憶し、アイドルの試験と合わせて筆記と実技の国家資格試験で合格しなければいけない。その資格を得るために雪歩は絶賛勉学中なのだ。そして彼女は攻撃手段もちゃんと持っている。ただ、今の状態でそれを使うと魅力の消費が激しくさっきの千早と同じフラフラな状態になりかねない。

万が一の時に備えての待機だろう。

 

「千早ちゃん! 伊織ちゃんはどうだったの?」

 

「一応無事よ。だけど戦意喪失状態ね。あれでは戦えないわ」

 

「そ、そうなんだ・・・。こっちはあの子を外に出さないように戦ってるんだけど、あずささんがーーー」

 

「ぐっ、もう抑えられない!!」

 

上空から突如として叫び声が聞こえてきた。既に何十回と美希との鍔迫り合いを繰り返している真が音を上げた。魅力、体力ともに余裕がなくなったのだ。

戦闘の激化で真とあずさ、響の三人がかりでも押され始めている。

千早も浮遊術で急ぎ戦域に入り、雪歩もそれに続く。

その時、真とあずさから距離を置いた美希は階段のあった上で静止し、入り口付近の上空で止まるあずさ達に向けて黄緑色の魅力球体を放った。

さっき千早が防いだ球体よりも小さいものだが、威力が落ちているとは思えない。当たれば怪我で済まないのは容易に予想できる。一直線に放たれた球体は今一番美希から遠いあずさに向けて放たれた。ギリギリのところで回避するとそのまま校舎の正面上部が大きな爆発で覆われ黒煙と炎が空に舞い上がる。その爆発した隙間からみんな外に退避した。

校舎の中ではやはり手狭で動きにくいし、いい加減いつ倒壊するか分からない建物の中に居るのはリスクが高すぎる。当然だが、外に出る方が攻撃も回避も余裕が出るはずだ。

 

美希を外へと出さないよう戦っていたが、このままではいつか戦いにすらならなくなる。

そう思った千早が先に外へ飛び出した。それに次いで雪歩が外へ、響といぬ美も外に出た。

あずさと真はまだ中で戦っているが真が下の出入り口から飛び出して来た。

あずさも転移で千早の隣に合流する。

 

「ダメだ! 外に出てくるよぉ!!」

 

響の叫び声と共に美希が下の入り口から飛び出してきて真を追撃してくる。

地上での打ち合いで何とか鍔迫り合いに持ち込む真だが、剣と違い美希の鎌扱いが柔軟で対応するのに精一杯だ。

真が普通に刃を振り下ろせば柄の部分で打ち上げてきたり、真の攻撃をいなしたと思えばクルッと回ってそのまま真横に薙いだりと恐ろしいほど訓練された攻撃でどこからどういった攻撃が来るか予測が難しい。

そんな攻撃をまともに当たらせないようにしている真も大したものだと感服する。

美希と真が剣と鎌の鍔迫り合い状態で均衡していたのだが、一瞬動きが鈍った真の隙を逃さず炎の剣を弾いて蹴りで再び真を吹っ飛ばす。

そこへ雪歩が空気中の水分を凝固させスコップの形をした水色の光を多数出現させた。ハンドマイクを身構えて大きく振りかぶり美希へ攻撃を飛ばす。

 

「お願いっ! 当たってぇっ!!」

 

飛んでいくスコップの弾は雨のように次々と地面に衝突して爆発を起こす。雪歩は補助型でありながら努力の賜物か、一撃でも当たれば例えアイドルでもそれなりのダメージを与えられるほどの威力があるのだが、なんと美希はその光の雨を上回るスピードで回避していく。どんどんスピードを増す美希は矛先を真から雪歩に変更して襲い掛かった。

上空から放ち終えた雪歩はモノの100近くあった光の弾を回避されたことで驚愕の表情を浮かべている。目で追うのがやっとのスピードで駆け抜け急上昇してくる美希を見て咄嗟に動けない。

 

「は、速いっ!!」

 

「雪歩ちゃん!!」

 

あずさが転移で雪歩を助けた。雪歩の回避と同時に美希の鎌が空を斬った。

あずさが居ることで全員の回避率が大幅に上がる。多勢ならば話は別だが相手は単体。

転移することでみんなが大きな攻撃を受けることは早々ない状態だった。

あるとすればカウンター。こちらが攻撃を仕掛けたときに返り討ちにあうくらいだろう。

美希の鎌が空を切ったと同時にその動きを狙って真が急激に距離を縮めた。

 

「はぁあああああああああぁっ!!」

 

炎の噴出させて魅力と気合を練り上げる。攻撃力を上げて打ち込む真の剣をスタンドマイクで軽々と全て受け止めている。真の炎の剣が持つ攻撃力は建物なんか簡単に崩壊させるほどの威力がある。その攻撃を受け止め、あまつさえ反撃にすら出る星井美希には畏怖せざるを得ない。

2、3度の打ち合いの後に真は鍔迫り合いで負け一時後退。間髪入れずにいぬ美が美希に噛み付こうと後ろを取った。

それも難なく回避されてしまい、そこへ既に実体化させていた大蛇のヘビ香が美希を追撃しようと追いかける。白い身体に頭が二つあるヘビ香は響の可愛がる家族の一匹だ。

一度上空へ飛び上がった美希は、襲ってくるヘビ香の首が二つ近づくのを見計らって鎌を振り下ろす。勢いよく伸び上がっていたヘビ香が横一閃、一薙ぎで四散した。

 

上空で凄まじい戦いが繰り広げられている中、地上に律子の姿があった。

戦う美希を見て思わず笑みがこぼれる。そして次に見つめたのはあずさだった。

律子はあずさに向かってゆっくりと、ただゆっくりと歩き始めた。

 

第六章

 

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