「なあ……何で俺達まで秋葉原に来る必要があったんだ?」
「あははっ、材木座君は八幡が好きなんだよ」
「……冗談でもやめてくれ」
そんな事言って『捻くれた少年と中二病なオタク』が始まったらどうしてくれる。タイトルだけ見たら、某猫さんが出てきそう。
「今からどこ行くの?」
「さあな、適当に時間潰そうとしただけだし」
材木座に付き合って秋葉原まで来たはいいが、あいつは対戦ゲーム仲間とトーナメントを開始しやがったので、俺と戸塚は適当にブラブラする事にした。しかし、俺はラノベは読むが、それは千葉でもできるし、グッズを買ったりはしない。戸塚も二次元にそこまで興味はない。なので、すぐに手持ち無沙汰になってしまった。そんなわけで、賑やかな街並みから少し離れた場所を歩いている。
……とそこで、曲がり角から誰かが勢いよく飛び出してきた。
「ん~っ!?」
「なっ!?」
突然曲がり角から現れたパンをくわえた女子が現れた。
俺の反射神経では躱しきれず、正面からぶつかってしまう。
「っ!」
「きゃっ!」
俺はその衝撃で尻餅をついてしまった。
相手も同じように尻餅をついたが……
「ほっ!」
口から落としかけたパンをキャッチした。
「よし、ナイスキャッチ!」
自分で言いながら、立ち上がって、スカートについた埃をぱっと払う。つーか、パンを加えて走る女子って本当にいたのか。ツチノコとかネッシーみたいなもんだと思っていたが……。
「ごめんなさい!大丈夫ですか?」
こちらがぼーっと考えている内に、手を差し出される。どうしようか迷ったが、無視するのも失礼かと思い、そっと握って、すぐに立ち上がる。そして、ひんやりとした感触を覚える前にさっと離した。
「悪い」
何故か謝りながら、改めてその顔を見る。
目はぱっちりと大きく快活そうで、鼻や唇はこれといった特徴はないが整っていて、まぎれもなく美少女の部類に入る。年は同じくらいだろうか。
「どうかしました?」
「あ、いや……何でもない」
長く見つめすぎたのか、怪訝そうな目を向けられる。
中学時代ならこの出会いに勝手に運命を感じていたのかもしれないが、今はそんな愚かな間違いは犯さない。
「あ~っ!」
思考に割り込んでくるような、いきなりの大声に後退ると、目の前の少女は何かを恐れるかのように青ざめていた。
「そういえば遅刻ギリギリだったぁ!このままじゃ海未ちゃんに怒られちゃう!ごめんなさいっ、それじゃっ!」
謎の美少女は待ち人がそんなに怖いのか、さっきよりもさらに速いスピードで駆けだしていった。TIME ALTER
DOUBLE ACCELと言わんばかりの速度だ。
あっという間にその背中は視界から消え去り、幻を見たようなおかしな感覚を覚える。
「……どうした?」
さっきから一言も発せずに立ち尽くしている戸塚に声をかける。心なしか嬉しそうだ。
「あ、いや……漫画とかドラマで見たような出会い方だなって……」
「は?」
「もしかしたら八幡の運命の出会いかもしれないね」
「……んなわけあるか」
この時の戸塚の発言が現実のものになるとは思いもしなかった。
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