「そっか。曲のほうは完成したのか」
「うんっ!……皆で一生懸命作った最高の曲だから……楽しみにしててね」
「……ああ」
「それと……大好き♪」
「あ、ああ……俺も……好き、だから……」
まだこういうのが照れくさいあたり、長年染み込んだものは中々抜けないのだと痛感する。比企谷君はコミュ症です……とまではいかないにしても、とにかく照れくさい。
「あーあ、でも残念だなぁ。雪じゃなかったら八幡君も観に来れたのに」
「……まあ、あれだ。応援してることに変わりはないから、その……せっかくの舞台だから、楽しんでこいよ」
「うん。ありがと」
そして、通話を終えると、俺はさっさと明日の準備をして、いつもより早めに眠りについた。
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ラブライブ最終予選当日。
私達2年生組は、生徒会としての仕事、学校説明会を終えてから会場に向かうことになっていたんだけど……。
「「「…………」」」
なんと朝から降り続けた雪は、昼にはさらに勢いを増し、10メートル先もロクに見えないくらいになっていた。
「こ、これは……」
「私達……大丈夫かなぁ?」
「だ、大丈夫だよっ、行こう!」
正直、不安だけれど行くしかない!皆が待ってるんだもん!
気合いを入れ直し、何とか校門を出ると、目の前には予想外の光景が広がっていた。
「穂乃果~!早く行きな~!」
「海未ちゃん、ことりちゃんも頑張ってね!」
「私達が道は作っといたから!」
雪が綺麗にかき分けられた道は、何だかいつもより輝いて見え、それだけで目がうるっときた。
「ヒデコ……フミコ……ミカ……みんな……」
「……ありがとうございます」
「行ってくるね!」
私達は一歩一歩しっかりと踏みしめながら、会場までの道のりを急いだ。
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「よしっ、無事出発したね」
「うん。サプライズにも気づくといいな」
「あはは、彼めっちゃ頑張ってたもんね」
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会場へ行く途中、音ノ木坂の皆が立っていて、私達のために近道を教えてくれたり、応援の言葉をかけてくれた。
そして、会場が見えてきた辺りで、見覚えのある背中を見つけた……あ、あれ、八幡君?ってそんなわけないよね。私ったら本番前なのに……。
すると、その人がこちらに顔を向け……あれっ、八幡君!?って、ばかばか!今は真っ直ぐに会場に行かなきゃ!妄想してる場合じゃないよ!
私はさらに走るスピードを上げた。
「穂乃果、どうかしたのですか?」
「……ううん、何でもないっ。行こう!」
「あはは、穂乃果ちゃん……」
こんな所で八幡君の幻を見るなんて……私ったら、どんだけ八幡君が好きなんだろう……大好きだけど。
だから八幡君、しっかり見ててね!!
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「……あいつ、目が合ったのに気づかなかったな……まあ、頑張れよ」
らしくない言葉を呟きながら、俺は彼女達の背中が見えなくなるまで見送り続けた。