ライブが始まると、凍てつくような寒さも吹き飛ぶような熱量たっぷりのパフォーマンスに、会場は沸き上がっている。
俺も自然といつもより強めに手を叩きながら、曲の世界にすっかり引き込まれていた。
はらはら舞い落ちる雪のカケラも、神様からの演出のように思えてくるくらいに素敵なパフォーマンス。
この光景は間違いなく一生忘れることはないだろう。
何故かそう思えた。
*******
「あっははは!比企谷君、まさか気づいてもらえないなんて……!」
「ふふっ、やっぱ事前に言っといたほうがよかったかな~。仕方ないから私達が慰めてあげようか」
「だからしゅんとしないで、ね?話聞くよ」
「…………」
ライブ後、ヒフミトリオから何故か囲まれてしまい、温かい言葉をぶつけられていた。まあ、彼女達から雪かきの話を聞いてなかったら、ここにいなかった可能性もあるので、その辺は感謝しているが。
一応、感謝の言葉を送り、騒がしい会話に耳を傾けていると、聞き慣れた声が耳に届いた。
目を向けると、彼女は……穂乃果は、勢いよく友人に抱きついていた。
「ヒデコ~フミコ~ミカ~、皆ほんとにありがと~~!!」
「お~、よしよし。よく頑張った!」
「最高だったよ!」
「私、泣いちゃったよ~」
四人は、ひしと抱き合い、感動を分かち合っている。
その姿が微笑ましくて、つい頬が緩んでいると、彼女がこちらを振り向いた。
「え……」
「……おう」
彼女はピタリと固まり、その目は信じられないものを見たかのように見開かれていた。
「……おい、どうかしたか?」
「…………」
「ほ、穂乃果?」
「気のせいじゃなかった!?」
「…………」
第一声がそれかよ。
その驚きの声につられるように、ヒフミトリオの笑い声が、冬空の下にこだました。
*******
しばらくして、俺と穂乃果は夜の道をμ'sの他のメンバーや、音ノ木坂の生徒の集団に混じりながら、並んで歩いていた。
「もう、びっくりするじゃん。来るなら来るって言ってよ~」
「いや、黙ってたほうがサプライズになるって言われたからな」
「ふふっ、でも何となく八幡君らしいかも」
「……そうか?」
「うんっ♪」
よくわからないまま頷き、ざくざく雪を踏みしめていると、もうすぐそこに駅が見えていた。
「じゃあ、俺ここまでだから……今日はお疲れさん」
「あっ、うん……えいっ!」
「っ!」
がばっと抱きついてきた穂乃果に危うくこけそうになるが、何とか踏みとどまる。
それは数秒のことで、彼女はすぐに離れた。
「お、おい……周りに人が……」
「大丈夫。誰も気づいてなかったから。ふふっ、一瞬で充電完了しちゃった。本当はもっとくっついていたかったけど……」
「……そこはお互い様なんだがな」
「でしょ?」
二人して笑い合い、夜空を見上げる。
寒ささえ忘れるような甘い感触に、とろけるような気分になりながらも、今は振り払うように、俺は駅に向かい、足を向けた。
「じゃあ、またな。今日は最高だった」
「……うん」
「…………」
「…………」
見つめ合ったまま、何故か動けなく……いや、動きたくなくなる。はあ……今周りに人がいなけりゃあ……いや、焦らないって決めたしな……今日はいいもの見れたし。いや、しかし……
「八幡君?」
「……穂乃果」
「あれっ?比企谷君帰るの?」
「今日はありがとねー」
「ていうか、今イチャイチャしてた?」
「ほ、穂乃果っ、公衆の面前で何を……!」
「ふふっ、なんか幸せそう」
「あわわわ……穂乃果ちゃん、大人……」
「凛達は気にしなくていいにゃ~」
「お幸せに」
「穂乃果ぁ……アンタ、アイドルとしての自覚が……!」
「エリチ……どうどう」
「チカチカひ~か~る~お~そ~ら~の~ほ~し~よ~」
「あらら、お姉ちゃんってば……」
「ウチのお姉ちゃんはテンションがおかしくなってるよ……」
「ほらほらお父さんったら、泣かないの」
「もうっ、いい雰囲気だったのに!」
「…………」
3日後、彼女達は試合の結果を公式サイトで確認した。
その結果は……