捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第101話

 ライブが始まると、凍てつくような寒さも吹き飛ぶような熱量たっぷりのパフォーマンスに、会場は沸き上がっている。

 俺も自然といつもより強めに手を叩きながら、曲の世界にすっかり引き込まれていた。

 はらはら舞い落ちる雪のカケラも、神様からの演出のように思えてくるくらいに素敵なパフォーマンス。

 この光景は間違いなく一生忘れることはないだろう。

 何故かそう思えた。

 

 *******

 

「あっははは!比企谷君、まさか気づいてもらえないなんて……!」

「ふふっ、やっぱ事前に言っといたほうがよかったかな~。仕方ないから私達が慰めてあげようか」

「だからしゅんとしないで、ね?話聞くよ」

「…………」

 

 ライブ後、ヒフミトリオから何故か囲まれてしまい、温かい言葉をぶつけられていた。まあ、彼女達から雪かきの話を聞いてなかったら、ここにいなかった可能性もあるので、その辺は感謝しているが。

 一応、感謝の言葉を送り、騒がしい会話に耳を傾けていると、聞き慣れた声が耳に届いた。

 目を向けると、彼女は……穂乃果は、勢いよく友人に抱きついていた。

 

 

「ヒデコ~フミコ~ミカ~、皆ほんとにありがと~~!!」

「お~、よしよし。よく頑張った!」

「最高だったよ!」

「私、泣いちゃったよ~」

 

 四人は、ひしと抱き合い、感動を分かち合っている。

 その姿が微笑ましくて、つい頬が緩んでいると、彼女がこちらを振り向いた。

 

「え……」

「……おう」

 

 彼女はピタリと固まり、その目は信じられないものを見たかのように見開かれていた。

 

「……おい、どうかしたか?」

「…………」

「ほ、穂乃果?」

「気のせいじゃなかった!?」

「…………」

 

 第一声がそれかよ。

 その驚きの声につられるように、ヒフミトリオの笑い声が、冬空の下にこだました。

 

 *******

 

 しばらくして、俺と穂乃果は夜の道をμ'sの他のメンバーや、音ノ木坂の生徒の集団に混じりながら、並んで歩いていた。

 

「もう、びっくりするじゃん。来るなら来るって言ってよ~」

「いや、黙ってたほうがサプライズになるって言われたからな」

「ふふっ、でも何となく八幡君らしいかも」

「……そうか?」

「うんっ♪」

 

 よくわからないまま頷き、ざくざく雪を踏みしめていると、もうすぐそこに駅が見えていた。

 

「じゃあ、俺ここまでだから……今日はお疲れさん」

「あっ、うん……えいっ!」

「っ!」

 

 がばっと抱きついてきた穂乃果に危うくこけそうになるが、何とか踏みとどまる。

 それは数秒のことで、彼女はすぐに離れた。

 

「お、おい……周りに人が……」

「大丈夫。誰も気づいてなかったから。ふふっ、一瞬で充電完了しちゃった。本当はもっとくっついていたかったけど……」

「……そこはお互い様なんだがな」

「でしょ?」

 

 二人して笑い合い、夜空を見上げる。

 寒ささえ忘れるような甘い感触に、とろけるような気分になりながらも、今は振り払うように、俺は駅に向かい、足を向けた。

 

「じゃあ、またな。今日は最高だった」

「……うん」

「…………」

「…………」

 

 見つめ合ったまま、何故か動けなく……いや、動きたくなくなる。はあ……今周りに人がいなけりゃあ……いや、焦らないって決めたしな……今日はいいもの見れたし。いや、しかし……

 

「八幡君?」

「……穂乃果」

「あれっ?比企谷君帰るの?」

「今日はありがとねー」

「ていうか、今イチャイチャしてた?」

「ほ、穂乃果っ、公衆の面前で何を……!」

「ふふっ、なんか幸せそう」

「あわわわ……穂乃果ちゃん、大人……」

「凛達は気にしなくていいにゃ~」

「お幸せに」

「穂乃果ぁ……アンタ、アイドルとしての自覚が……!」

「エリチ……どうどう」

「チカチカひ~か~る~お~そ~ら~の~ほ~し~よ~」

「あらら、お姉ちゃんってば……」

「ウチのお姉ちゃんはテンションがおかしくなってるよ……」

「ほらほらお父さんったら、泣かないの」

「もうっ、いい雰囲気だったのに!」

「…………」

 

 3日後、彼女達は試合の結果を公式サイトで確認した。

 その結果は……

 

 

 


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