ラブライブ決勝前日。俺は幕張の会場で、総武高校のメンバーと共にボランティア活動に勤しんでいた。
ボランティア募集の張り紙をしてから、最初の三日間は無反応だったから、かなり心配していたが、最終的には二桁いったから、とりあえずほっとした。
ただ、そのメンツが些か見慣れた顔だというのが……
「比企谷、どうかしたのか?ぼーっとして……」
「この表情は」
「てか、ヒキオって生徒会長だったの?」
「比企谷君が生徒会長とかマジっべーわー」
おい。生徒会長知らねえとか、総武高校どんだけだよ。いや、もしかして俺が悪いのか?
……とまあ、葉山グループが参加してくれた。
ちなみに海老名さんは、向こうではしゃいでいる他校の男子を見て、満足そうに頷いていた。相変わらずブレねえな……。一応、大岡と大和もいる。
他には……
「は、八幡よ。これだけいるなら我は……」
「いや、待て。ここまで来て逃げるな」
材木座は早くも逃げ出そうとしていた。いや、まあ他に人が集まらないからって言って、半ば強引にメンバーに加わってもらったのだが、そこに葉山グループだから、寝耳に水だろう。
だが全体で見ると、ボランティアは想定していたより集まらなかったらしいので、今は材木座の手も借りたい状況である。
ここは何とかせねば……
「……μ'sのメンバーもよろしくお願いしますって言ってたぞ」
「…………」
材木座の体がピタリと止まる。これはこれでわかりやすすぎだろ……。
一応、もう一声かけておくか。
「……園田さんや西木野もボランティアがいてくれて助かるとか言ってたような……」
「…………」
材木座はゆっくりと振り返り、コートをバサッとはためかせた。鬱陶しい。
「八幡よ!さあ、我に任務を与えるがいい!はっはっは!!」
「お、おう……」
きっと、こいつの頭の中では後で二人に優しく労ってもらえる妄想が展開しているのだろう……うん、とりあえず労働力確保。
すると、会場入り口の方がざわめきだした。あれは……
「おぉ……あれがスクールアイドルか」
「可愛い……」
「俺、来てよかったわ……」
「見ろよ。金髪の美女がいるぜ」
「ふむ、悪くない」
「す、すげえ……」
「でけえ……」
男子が目に見えて盛り上がりだした。しかも、何人か目つきがやばい奴がいると思ったら、ウチの学校のじゃねえか。材木座、上から目線で頷くな。大岡、大和、東絛さんの胸ばっか見んな。
そして、そんなざわめきの中……俺は特に探すでもなく、彼女の姿を見つけた。
穂乃果は、制服の上にコートを羽織り、園田さん達と話しながら歩いてきた。まあ、さすがにここでいきなり俺の名前を大声で呼んだりはしないだろう。
しかし、彼女は常に俺の予想の斜め前をいく。
「あっ、八幡くーん!!!」
「っ!!」
あいつ……こんな所で!
俺の下の名前を知ってる奴は少ないので、視線がこちらに集まることはないのだが……。
すると、穂乃果は近くにいた園田さんに口を塞がれ、数秒間叱られていた。
その様子を眺めていると、解放された彼女はもう一度大きな声を上げる。
「は、8万人くらい入りそうだよね~、この会場!!」
「…………」
まあ、実際はその10分の1ぐらいだけどな。
この後、穂乃果はもう一度園田さんに叱られていた。