捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第109話

 主催者側からの話とスクールアイドル達からの感謝の言葉をいただいてから、すぐにボランティアの作業が始まった。

 作業の内容は、椅子を並べたり、数人で重い物を運んだりと、単純作業が多く、無心になれるのが丁度いい。

 

「あれっ?比企谷?」

 

 ……言ったそばから声をかけてくるとは。

 作業を止め、目を向けると、意外な人物がそこに立っていた。

 

「折……本……」

 

 まさか中学時代に同じクラスだった奴と……しかも告白した奴とこんな所で遭遇するとは……。

 それに、俺を覚えているのも予想外だった。

 何となく気まずい気分になっていると、彼女は目をぱちくりさせなが俺を見て、何故か首を傾げた。

 

「……どうかしたか?」

「え?あっ、比企谷、なんか雰囲気変わってない?」

「いや、特に変わってない……と思う」

「ていうか、比企谷ってこういうの参加するキャラだっけ?」

「……生徒会は強制参加だったんだよ」

「生徒会入ってんの!?え?役職は?」

「……生徒会長」

 

 生徒会長という単語に、折本はピクッと反応した。まあ、中学時代を覚えているなら、そのリアクションは当然だろう。

 彼女はそのまま数秒間考え込んでから……笑った。

 

「あはははっ、比企谷が生徒会長とか!ウケる♪」

「いや、ウケねえから……てか、そっちは作業戻らなくていいのか?」

「あっ、そうだった!じゃあ、今日は一緒に頑張ろーね!」

「お、おう……」

 

 折本は、すぐに海浜高校の生徒の中に混じっていった。

 ……変わった、か。

 正直、自分ではわかりづらい部分ではある。

 だが、4月から今日までの日々を辿れば、間違いなく変わったと思う。どう変わったかは口にするのは難しいが。

 

「ヒッキー、何ぼーっとしてるの?はやくはやく!」

「ああ、悪い。今行く」

 

 ……まあ、今は気にする必要もないことか。

 

 *******

 

「よ~し、頑張らなきゃ!」

「ふふっ、穂乃果。気合いを入れるのはいいですが、本番は明日ですよ?」

「そうよ。今からそんなんじゃ、明日には疲れきってるわよ。そうなったら、このスーパーアイドルにこにーが最初から最後までセンターをやるだけだから別にいいけど」

「それはちょっと……にゃ」

「なぁんですって~!」

「い、いふぁい、いふぁいにゃ~……」

 

 リハーサル前の控え室は意外とリラックスした空気で、何だかほっとした。八幡君達も来てくれてるし、何だか温かい気分だなぁ……。

 でも、やっぱり……

 

「ふふっ、穂乃果ちゃん。本当は声かけたいんやない?」

「べ、別にっ、そんなことないもん!」

 

 い、今はガマンしないと! 

 すると、絵里ちゃんが何故かドヤ顔で胸を張った。

 

「そうよ。たまには私が比企谷君をねぎらってくるから」

「エリチ」

「はい」

 

 いつものやりとりだった。え、絵里ちゃん、冗談……だよね?

 やきもきしていると、今度はことりちゃんが肩をつついてきた。

 

「穂乃果ちゃん、こっそり声をかけるくらいならいいとおもうよ?」

「ことりちゃん……」

 

 ことりちゃんが悪戯っぽく笑い、肩をたたいてくる。いつもとは違う親友の笑顔に背中を押され、私はそっと控え室を出た。

 

 *******

 

 作業がだいぶ片づいたところで、ようやく休憩に入れた。てか、何だこの忙しさ。一足早い社畜の修行か。

 肩を揉みながら通路を歩いていると、正面から練習着の女子が……穂乃果が歩いてきた。

 つい声をかけそうになるが、何とか気持ちを抑える。今は我慢しておかないと……。

 会釈だけして通り過ぎようとすると、彼女は急に密着してきて、小さな声で語りかけてきた。

 

「がんばれ」

「あ、ああ……っ」

 

 その言葉の後に、頬に柔らかな感触が触れる。

 そして、甘い香りだけ残し、彼女はあっという間に走り去っていった。

 

「…………」

 

 こりゃあ、1秒たりとも手抜きできそうもないな。

 休憩もそこそこに、俺は後半の仕事に戻った。


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