主催者側からの話とスクールアイドル達からの感謝の言葉をいただいてから、すぐにボランティアの作業が始まった。
作業の内容は、椅子を並べたり、数人で重い物を運んだりと、単純作業が多く、無心になれるのが丁度いい。
「あれっ?比企谷?」
……言ったそばから声をかけてくるとは。
作業を止め、目を向けると、意外な人物がそこに立っていた。
「折……本……」
まさか中学時代に同じクラスだった奴と……しかも告白した奴とこんな所で遭遇するとは……。
それに、俺を覚えているのも予想外だった。
何となく気まずい気分になっていると、彼女は目をぱちくりさせなが俺を見て、何故か首を傾げた。
「……どうかしたか?」
「え?あっ、比企谷、なんか雰囲気変わってない?」
「いや、特に変わってない……と思う」
「ていうか、比企谷ってこういうの参加するキャラだっけ?」
「……生徒会は強制参加だったんだよ」
「生徒会入ってんの!?え?役職は?」
「……生徒会長」
生徒会長という単語に、折本はピクッと反応した。まあ、中学時代を覚えているなら、そのリアクションは当然だろう。
彼女はそのまま数秒間考え込んでから……笑った。
「あはははっ、比企谷が生徒会長とか!ウケる♪」
「いや、ウケねえから……てか、そっちは作業戻らなくていいのか?」
「あっ、そうだった!じゃあ、今日は一緒に頑張ろーね!」
「お、おう……」
折本は、すぐに海浜高校の生徒の中に混じっていった。
……変わった、か。
正直、自分ではわかりづらい部分ではある。
だが、4月から今日までの日々を辿れば、間違いなく変わったと思う。どう変わったかは口にするのは難しいが。
「ヒッキー、何ぼーっとしてるの?はやくはやく!」
「ああ、悪い。今行く」
……まあ、今は気にする必要もないことか。
*******
「よ~し、頑張らなきゃ!」
「ふふっ、穂乃果。気合いを入れるのはいいですが、本番は明日ですよ?」
「そうよ。今からそんなんじゃ、明日には疲れきってるわよ。そうなったら、このスーパーアイドルにこにーが最初から最後までセンターをやるだけだから別にいいけど」
「それはちょっと……にゃ」
「なぁんですって~!」
「い、いふぁい、いふぁいにゃ~……」
リハーサル前の控え室は意外とリラックスした空気で、何だかほっとした。八幡君達も来てくれてるし、何だか温かい気分だなぁ……。
でも、やっぱり……
「ふふっ、穂乃果ちゃん。本当は声かけたいんやない?」
「べ、別にっ、そんなことないもん!」
い、今はガマンしないと!
すると、絵里ちゃんが何故かドヤ顔で胸を張った。
「そうよ。たまには私が比企谷君をねぎらってくるから」
「エリチ」
「はい」
いつものやりとりだった。え、絵里ちゃん、冗談……だよね?
やきもきしていると、今度はことりちゃんが肩をつついてきた。
「穂乃果ちゃん、こっそり声をかけるくらいならいいとおもうよ?」
「ことりちゃん……」
ことりちゃんが悪戯っぽく笑い、肩をたたいてくる。いつもとは違う親友の笑顔に背中を押され、私はそっと控え室を出た。
*******
作業がだいぶ片づいたところで、ようやく休憩に入れた。てか、何だこの忙しさ。一足早い社畜の修行か。
肩を揉みながら通路を歩いていると、正面から練習着の女子が……穂乃果が歩いてきた。
つい声をかけそうになるが、何とか気持ちを抑える。今は我慢しておかないと……。
会釈だけして通り過ぎようとすると、彼女は急に密着してきて、小さな声で語りかけてきた。
「がんばれ」
「あ、ああ……っ」
その言葉の後に、頬に柔らかな感触が触れる。
そして、甘い香りだけ残し、彼女はあっという間に走り去っていった。
「…………」
こりゃあ、1秒たりとも手抜きできそうもないな。
休憩もそこそこに、俺は後半の仕事に戻った。