捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第119話

 ライブ当日。

 秋葉原の街はスクールアイドル一色に染まっていた。誇張表現でもなんでもない。衣装に身を包んだスクールアイドルが、街道を埋めつくし、歌い踊っている。

 念のため言っておくが、ママライブwith独神は出ていない……残念ながら。

 辺りのスピーカーからは、喜びに満ちた音楽が流れ、ただの通行人も自然と体を揺らしていた。

 

「八幡、よかったね。またライブが見れて」

「……ああ」

 

 戸塚に言われ、しんみりと頷く。

 本当は3月のラブライブ決勝大会で最後のはずだった。それが、ニューヨークでライブが見れて、彼女と出会った秋葉原でまたライブが見れて……。

 長い祭りの中にいるような気分だった。

 そして、それはこれからも続いていくのだろう。

 俺は彼女を同じような気持ちにさせることができるのだろうか。

 少し自信はないが、彼女の隣にいたいという気持ちだけは確かだった。

 

 *******

 

「お疲れ」

 

 ライブ後の記念写真撮影も終わり、やっと一息ついたところで、俺は穂乃果に声をかけた。

 彼女は振り返り、にぱぁっと晴れやかな笑みを見せてくれた。 

 

「楽しかったなぁ♪」

 

 夕焼けがほんのり照らす頬を、汗が一筋伝い、白い首筋へと流れていく。

 その事を特に気にするでもなく、風に舞う髪をかき分けた彼女に、自然と胸が高鳴った。

 世界中で一番綺麗だと素直に思えた。

 

「どうかしたの?」

「いや、何でも……」

「そっかぁ」

「あ、悪い。やっぱあるわ」

「だと思った。なぁに?」

「初めて秋葉原に来た時、お前と出会えてよかった……色々思い返してみても、結局はそこに行き着く」

 

 俺の言葉に彼女は目を丸くしてから、頬を染め、そっぽを向いた。

 

「い、いきなり言わないでよ、照れるじゃん。八幡君のバーカ。それに……」

 

 彼女はそっと手を重ねてきた。まだそこには、さっきのライブの余韻が確かに残っているのがわかる。

 重ねてきた手と手を見ながら、彼女は笑顔で言葉を続けた。

 

「まだまだこれからだよ?これからもっと沢山色んなものに出会うんだから。のんびり思い出してるヒマはないよ」

「確かに、そうだな」

「よしっ、時間だし、そろそろ行くよ!」

「は?今から?どこに……」

「え?東京ドームだけど」

「野球でも観に行くのか?」

「違うよぉ!ライブするんだよ、今から」

「誰が?」

「μ'sが」

「どこで」

「東京ドームで」

「…………」

「…………」

「……聞いてないんだけど」

「言ってないからだよ♪」

「……マジかよ」

 

 自然と口元が緩んでくる。

 まったく……こいつといると、本当に飽きない。

 あっけらかんとすごい事を言った彼女は、俺の手を引き、ゆっくりと歩きだす。

 その笑顔をこれからも見ていようと、受け止めていようと思った。

 

「八幡君はどの席で観るの?」

「……特等席で」

 

 

 




 次回、最終話です!

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