ライブ当日。
秋葉原の街はスクールアイドル一色に染まっていた。誇張表現でもなんでもない。衣装に身を包んだスクールアイドルが、街道を埋めつくし、歌い踊っている。
念のため言っておくが、ママライブwith独神は出ていない……残念ながら。
辺りのスピーカーからは、喜びに満ちた音楽が流れ、ただの通行人も自然と体を揺らしていた。
「八幡、よかったね。またライブが見れて」
「……ああ」
戸塚に言われ、しんみりと頷く。
本当は3月のラブライブ決勝大会で最後のはずだった。それが、ニューヨークでライブが見れて、彼女と出会った秋葉原でまたライブが見れて……。
長い祭りの中にいるような気分だった。
そして、それはこれからも続いていくのだろう。
俺は彼女を同じような気持ちにさせることができるのだろうか。
少し自信はないが、彼女の隣にいたいという気持ちだけは確かだった。
*******
「お疲れ」
ライブ後の記念写真撮影も終わり、やっと一息ついたところで、俺は穂乃果に声をかけた。
彼女は振り返り、にぱぁっと晴れやかな笑みを見せてくれた。
「楽しかったなぁ♪」
夕焼けがほんのり照らす頬を、汗が一筋伝い、白い首筋へと流れていく。
その事を特に気にするでもなく、風に舞う髪をかき分けた彼女に、自然と胸が高鳴った。
世界中で一番綺麗だと素直に思えた。
「どうかしたの?」
「いや、何でも……」
「そっかぁ」
「あ、悪い。やっぱあるわ」
「だと思った。なぁに?」
「初めて秋葉原に来た時、お前と出会えてよかった……色々思い返してみても、結局はそこに行き着く」
俺の言葉に彼女は目を丸くしてから、頬を染め、そっぽを向いた。
「い、いきなり言わないでよ、照れるじゃん。八幡君のバーカ。それに……」
彼女はそっと手を重ねてきた。まだそこには、さっきのライブの余韻が確かに残っているのがわかる。
重ねてきた手と手を見ながら、彼女は笑顔で言葉を続けた。
「まだまだこれからだよ?これからもっと沢山色んなものに出会うんだから。のんびり思い出してるヒマはないよ」
「確かに、そうだな」
「よしっ、時間だし、そろそろ行くよ!」
「は?今から?どこに……」
「え?東京ドームだけど」
「野球でも観に行くのか?」
「違うよぉ!ライブするんだよ、今から」
「誰が?」
「μ'sが」
「どこで」
「東京ドームで」
「…………」
「…………」
「……聞いてないんだけど」
「言ってないからだよ♪」
「……マジかよ」
自然と口元が緩んでくる。
まったく……こいつといると、本当に飽きない。
あっけらかんとすごい事を言った彼女は、俺の手を引き、ゆっくりと歩きだす。
その笑顔をこれからも見ていようと、受け止めていようと思った。
「八幡君はどの席で観るの?」
「……特等席で」
次回、最終話です!