「あら?そっちの男の子は穂乃果ちゃんの知り合い?」
「うん、比企谷八幡君っていう変わった名前の男の子。μ'sの大ファンなんだよ!」
大ファンってほどではないのだが……。
突然の美女二人の登場に、思春期真っ盛りの男子らしく困惑していると、東條さんの方がこちらに一歩踏み込み、親しげな笑顔を見せた。
「ほな、挨拶しとかんとね♪もう、知ってるかもしれんけど、ウチは東條希。よろしく、比企谷君」
「……どうも」
「ほら、真姫ちゃんも♪」
「え?私は……」
「真姫ちゃんの曲のファンでもあるんよ。ほら、照れてないで」
「ちょっ、引っ張らないでよ!あ、えーっと、その……応援ありがと」
「ど、どうも……」
東條さんにより、無理矢理俺の前に引きずり出された西木野真姫は、照れているのか、澄ましているのかわからないような仕草で……顔が赤いから照れているのか?いや、危うく勘違いしちゃうとこだったぜ。
東條さんは、また一歩こちらに踏み込んできた。近い近い近い近い!
「可愛い反応やなぁ♪ちなみに、推しメンとかおるん?」
「お、推しメン?」
「君は……エリチとか好きそうやね」
「え?ああ、何というか……」
絢瀬さんは確かに美人だが、はっきり推しメンと断言するには「チカ」あれ、何だ、今の?
「もしかして、ウチらの誰か?」
「う゛ぇえええ!?」
「希ちゃん!?」
いきなり何言い出すんだ、この人は……。
悪戯っぽい目を向けてくる東條さん。
チラチラとこちらを窺う西木野真姫。
じぃ~~っとこちらを穴が空くぐらい、ていうか点穴を見切るくらいに見つめてくる高坂。
三者三葉、もとい三者三様の視線に晒され、俺は最適解をすぐに導き出した。
「A-RISEの優木あんじゅ」
「「「…………」」」
この時の三人の固まった表情を、俺はしばらく忘れることが出来なかった。
*******
その日の夜。
「もしもし」
「あ、比企谷君!今日は偶然だったね!」
「……まあな。最後、怖かったけどな」
「あれは比企谷君が悪いよ!せっかくμ'sの大ファンって紹介したのに!」
「その大ファンってのが盛りすぎなんだよ。ちょっと楽曲聴いて、動画に高評価してるだけじゃねえか」
「大ファンじゃん!優木あんじゅさんが美人なのはわかるけど、せめてあの三人から選んでよ!」
「言いたい事も言えないこんな世の中じゃ……」
「ポイズン♪……じゃないよ!また誤魔化そうとしてる~!」
「お前、ノリの良さだけは無駄に振りきってるよな……」
「い、いきなり褒められると……なんか照れちゃうな」
「乙女チックなリアクションしてるところ、申し訳ないが褒めてない」
「むぅ~~……あ、う、海未ちゃん?片付けを手伝いなさい?わ、わかったから!比企谷君、それじゃ!」
突然かかってきた電話は突然途切れて、あとは耳が疼くくらいの静寂がやってくるだけだった。
……そういや、水着姿見てねえ。いや、別にいいんだけどね。