下校時刻にはまだ早いが、誰も来る気配がないので、いつもより早く下校することになった。
今日も来なかった由比ヶ浜の事が頭を掠めるが、きっとこれでいい。いいはずなのだ。
考えながら歩いていると、前方、校門の辺りに少し人集りができている。
何だ?チーバくんでも来てんのか?
「おい、見ろよ。あれ……」
「めっちゃ可愛い……」
「ねえねえ、あの子アイドルかな?」
「お前、声かけてみろよ」
「バカ、無理に決まってんだろ」
男子を中心に、色めき立った空気になっている。話し声から察するに、アイドルみたいな美少女が校門前にいるようだ。誰かと待ち合わせだろうか?男子だったら爆発しろ。
まあ、つまり……俺には関係ないということだ。
何て考えながらも、とりあえず目を向けてみる。だって男の子なんだもん!…………っ!!?
目を向けた瞬間、心臓が止まるかと思った。
校門前に佇み、総武高校の生徒の視線を集めていたのは……なんとまさかの高坂穂乃果だった。
周りから浴びせられる視線をものともせず、スマホで時間を確認しながら、時折溜息を吐いている。斜陽が赤く染める横顔は、普段とは違う儚げな雰囲気を醸しだし、胸がとくんと高鳴った。
……ってそんな場合じゃねえよ。
何故かはわからないが、見つかったらまずい気がする。ボッチ生活により培われた俺の防衛本能がそう告げている。
ここは、ステルスヒッキーで一刻も早い離脱を「あっ!比企谷君、やっと来た!!」だあああ!人前で大声で呼ぶな!それと、人を指さすんじゃありません!
高坂は、人波をかき分け、こちらまで一直線にやって来た。くっ、逃げ……「あっ、逃げちゃダメだよ!」無理か。
「何だよ、アイツが彼氏かよ」
「はあ……ボッチの癖に」
「ニフラム」
おい。ボッチは否定しないが、誰だ呪文唱えた奴。昇天させようとすんな。
「遅いよ!待ちくたびれたよ!」
「知らん。待ち合わせなんてしてない」
「むぅ……それはそうだけど」
ぷくーっと頬を膨らます高坂。
周りの囃し立てるような好奇の視線。
……考えすぎかもしれないが、このままでは変な誤解をされそうだ。
「……とりあえず場所変えるぞ」
「あ、うん!」
*******
俺と高坂は駅前のサイゼリヤに移動し、窓際のテーブルに腰を下ろした。移動中は、どちらも口を開かなかった。
気を抜いた放課後の急展開にどっと疲れたせいか、水を一気飲みし、溜息を吐く。高坂はというと、ニコニコと楽しげにメニューを眺めていた。
「♪~どれにしよっかな~♪」
「……何かあったのか?」
「ん?それは比企谷君でしょ?」
「…………」
当たり前のような切り返し。
キョトンと首を傾げる高坂の真っ直ぐな瞳に、心の中を見透かされている気がして、背中を汗が伝うのを感じた。