「ん?どうしたの?」
「いや、何つーか……お前、高坂か?」
「そうだよ。何で?」
「いや、高坂にしちゃ鋭いっつーか、なんか頭よさげに見える……」
俺の言葉に、何故か高坂はニヤ~っと笑顔になった。多分、俺の言ったことを理解していない。
「あはは、それほどでも~……ってあれ?これ褒められてないっ!」
「…………」
よかった。自分で気づいてくれて。
高坂はぷくーっと頬を膨らまし、ジト目でこちらを睨みつけてくる。
「もうっ!からかわないの!」
「ああ、悪い……」
「それで、何かあったの?」
「……俺、何かあったように見えるのか?」
「うん。昨日の電話も元気なかったし。今も無理してるっぽい」
「ただ疲れてるだけかもしれないだろ」
「それならそれでいいじゃん。心配だけど、比企谷君に悪いことがなかったってことでしょ?」
「そりゃそうなんだけど……今日お前が来たのも無駄足になるぞ」
「無駄足じゃないよ。こうして比企谷君には会えたし。優しい人にも会えたし」
その一点の曇りもない瞳に、あっけらかんとした物言いに、俺は目の前が晴れた気分になり、つい口元が緩みかけた。
それを悟られぬよう、手で口元を隠しながら、会話を続けた。
「すげえ小さいことかもしれないし、呆れるようなことかもしれないぞ」
「やっぱり何かあったの?もし言いたくないならいいけど、そうじゃないなら、言った方が楽になることあるよ?」
「……ちょっと長くなるけど、いいか?」
「うん!」
俺は高坂に、入学式の事故や由比ヶ浜とのすれ違いを、自分の頭の中を整理するように、なるべく丁寧に話した。
彼女は、初めて見せる真面目くさった表情で、時折頷きながら、ただ俺の言葉に耳を傾けていた。
そして、全て話し終えると、やわらかな微笑みを向けてきた。
「……話してくれてありがと。比企谷君も大変だったんだね」
「いや、大変とかじゃねえよ。さっきも言ったが、事故があろうがなかろうが、多分ボッチだったし」
「比企谷君はボッチじゃないよ!そりゃあ、目つき悪いし、すぐからかうし、捻くれてるけど……」
「あの、高坂さん?後半3つ要ります?」
「でも、いいところもあるよ!自信持って!」
「いいところの説明はなしかよ……てか、話変わってないか?」
「そう?それで……比企谷君はどうしたいの?」
「…………」
自分が気づかぬ内に目を逸らしていた部分に、高坂の言葉で気づかされる。
そんなことに気づかないまま、彼女はさらに言葉を紡いだ。
「比企谷君って、周りのこと考えてるんだなって思ったよ。でも同じくらい、比企谷君のこと考えてる人もいると思うな」
「…………そっか」
何だか不思議な気分がした。
それは、肩が軽くなったり、心の奥がむず痒くなったり……今までに感じたことのない気分だった。
俺はしばらくの間ぎゅっと目を瞑り、彼女の方を見ないようにした。