捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第19話

「ん?どうしたの?」

「いや、何つーか……お前、高坂か?」

「そうだよ。何で?」

「いや、高坂にしちゃ鋭いっつーか、なんか頭よさげに見える……」

 

 俺の言葉に、何故か高坂はニヤ~っと笑顔になった。多分、俺の言ったことを理解していない。

 

「あはは、それほどでも~……ってあれ?これ褒められてないっ!」

「…………」

 

 よかった。自分で気づいてくれて。

 高坂はぷくーっと頬を膨らまし、ジト目でこちらを睨みつけてくる。

 

「もうっ!からかわないの!」

「ああ、悪い……」

「それで、何かあったの?」

「……俺、何かあったように見えるのか?」

「うん。昨日の電話も元気なかったし。今も無理してるっぽい」

「ただ疲れてるだけかもしれないだろ」

「それならそれでいいじゃん。心配だけど、比企谷君に悪いことがなかったってことでしょ?」

「そりゃそうなんだけど……今日お前が来たのも無駄足になるぞ」

「無駄足じゃないよ。こうして比企谷君には会えたし。優しい人にも会えたし」

 

 その一点の曇りもない瞳に、あっけらかんとした物言いに、俺は目の前が晴れた気分になり、つい口元が緩みかけた。

 それを悟られぬよう、手で口元を隠しながら、会話を続けた。

 

「すげえ小さいことかもしれないし、呆れるようなことかもしれないぞ」

「やっぱり何かあったの?もし言いたくないならいいけど、そうじゃないなら、言った方が楽になることあるよ?」

「……ちょっと長くなるけど、いいか?」

「うん!」

 

 俺は高坂に、入学式の事故や由比ヶ浜とのすれ違いを、自分の頭の中を整理するように、なるべく丁寧に話した。

 彼女は、初めて見せる真面目くさった表情で、時折頷きながら、ただ俺の言葉に耳を傾けていた。

 そして、全て話し終えると、やわらかな微笑みを向けてきた。

 

「……話してくれてありがと。比企谷君も大変だったんだね」

「いや、大変とかじゃねえよ。さっきも言ったが、事故があろうがなかろうが、多分ボッチだったし」

「比企谷君はボッチじゃないよ!そりゃあ、目つき悪いし、すぐからかうし、捻くれてるけど……」

「あの、高坂さん?後半3つ要ります?」

「でも、いいところもあるよ!自信持って!」

「いいところの説明はなしかよ……てか、話変わってないか?」

「そう?それで……比企谷君はどうしたいの?」

「…………」

 

 自分が気づかぬ内に目を逸らしていた部分に、高坂の言葉で気づかされる。

 そんなことに気づかないまま、彼女はさらに言葉を紡いだ。

 

「比企谷君って、周りのこと考えてるんだなって思ったよ。でも同じくらい、比企谷君のこと考えてる人もいると思うな」

「…………そっか」

 

 何だか不思議な気分がした。

 それは、肩が軽くなったり、心の奥がむず痒くなったり……今までに感じたことのない気分だった。

 俺はしばらくの間ぎゅっと目を瞑り、彼女の方を見ないようにした。

 


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