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それでは今回もよろしくお願いします。
「何で今日に限って勝ち続けるんだよ……」
「あはは……」
「けぷこん、けぷこん。ふむ、我の秘められし力が解放されてだな……」
あれからゲーセンに戻ったのだが、材木座が予想以上に健闘したせいで、かなり待たされた。時刻は既に午後5時を過ぎている。……本当に何やってんだろうな。あまりの付き合いの良さに自分が女だったら惚れてしまいそうだ。何なら戸塚が惚れてくれねえかなぁ。
「あ、八幡!」
「どした?」
え、まさか本当に?
「実はお母さんに頼まれた買い物があるんだけど、付き合ってもらってもいい?」
「ああ、もちろん……」
軽い落胆を抑えながら頷く。いや、まあわかっているんだけどね。
「おーい、我を忘れておらんかー……」
10分程歩いて到着したのは、店舗と住居が一体となっている建物の前だ。いかにもな木造家屋が、見る者に親しみのある印象を与える。そして、次に目に入ったのは『穂むら』と書かれた大きな看板だ。
「……和菓子屋か」
「うん、ここのが美味しいって親戚に聞いたんだって」
看板もそこそこ古く、昔ながらの和菓子屋といった落ち着いた雰囲気がある。それは都会にありながらものどかさを失っていなかった。
「では参ろう!」
何故か先頭に立った材木座が、無駄に堂々と暑苦しく扉を開けた。罠でも仕掛けられてねえかな。
ガラッと引き戸を開くと、中から元気な声が飛んでくる。
「いらっしゃいませ-!!……あー!あなたは!」
「は?」
聞き覚えがあるような、ないような声に反応すると、そこにはさっきのパン女がいて、俺を指差していた。
「ごめ~ん。さっきは急いでたから……」
いきなり奥に引っ込んだパン女は、お盆に饅頭を乗っけて、いそいそと持ってきた。快活そうな見た目と割烹着の絶妙なバランスは、まさに看板娘といったところか。……実在したんだな。
「いや、別に気にしなくていい。俺もぼーっとしてたし……」
「これ、ほむまんっていうの!ウチの名物だから試食していって!」
「お、おう……」
「ありがとう」
こうも無邪気な笑顔で、ずいっと目の前に出されたら、断りようがない。戸塚と共に一つ受け取る。
材木座は真っ先に入った割には、同年代の女子を見て、急にステルス性能を発揮した。まあ、あの風貌のせいで上手くはいってないが。
ほむまんとやらを頬張ると、口の中に程よい甘さが広がる。コーヒーはとことん甘くする俺だが、この控え目な甘さはかなり気に入った。
「どう?どう?」
「うん、美味しいよ!」
戸塚も同じ感想のようだ。
「うむ、気に入った!」
いつの間にか食べていた材木座が胸を張り、偉そうに言う……少し距離をとって。
「あなたは?」
……その上目遣いであなたなんて言うの止めてもらえませんかねえ。世の男子達を死地に送り込みますよ。
俺はあらぬ方向へ目をやり、その視線から逃れて言った。
「……美味い」
「よかったぁ♪」
視界の端に映る満面の笑みに、鼓動がはやまった気がしたが、ただの気のせいだろう。
口の中にはほんのりとした優しい甘さが残って、しばらくはそこに居座りそうだった。
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