捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

2 / 120

 感想・評価・お気に入り登録・誤字脱字報告ありがとうございます!

 それでは今回もよろしくお願いします。


第2話

 

「何で今日に限って勝ち続けるんだよ……」

「あはは……」

「けぷこん、けぷこん。ふむ、我の秘められし力が解放されてだな……」

 あれからゲーセンに戻ったのだが、材木座が予想以上に健闘したせいで、かなり待たされた。時刻は既に午後5時を過ぎている。……本当に何やってんだろうな。あまりの付き合いの良さに自分が女だったら惚れてしまいそうだ。何なら戸塚が惚れてくれねえかなぁ。

「あ、八幡!」

「どした?」

 え、まさか本当に?

「実はお母さんに頼まれた買い物があるんだけど、付き合ってもらってもいい?」

「ああ、もちろん……」

 軽い落胆を抑えながら頷く。いや、まあわかっているんだけどね。

「おーい、我を忘れておらんかー……」

 

 10分程歩いて到着したのは、店舗と住居が一体となっている建物の前だ。いかにもな木造家屋が、見る者に親しみのある印象を与える。そして、次に目に入ったのは『穂むら』と書かれた大きな看板だ。

「……和菓子屋か」

「うん、ここのが美味しいって親戚に聞いたんだって」

 看板もそこそこ古く、昔ながらの和菓子屋といった落ち着いた雰囲気がある。それは都会にありながらものどかさを失っていなかった。

「では参ろう!」

 何故か先頭に立った材木座が、無駄に堂々と暑苦しく扉を開けた。罠でも仕掛けられてねえかな。

 ガラッと引き戸を開くと、中から元気な声が飛んでくる。

「いらっしゃいませ-!!……あー!あなたは!」

「は?」

 聞き覚えがあるような、ないような声に反応すると、そこにはさっきのパン女がいて、俺を指差していた。

 

「ごめ~ん。さっきは急いでたから……」

 いきなり奥に引っ込んだパン女は、お盆に饅頭を乗っけて、いそいそと持ってきた。快活そうな見た目と割烹着の絶妙なバランスは、まさに看板娘といったところか。……実在したんだな。

「いや、別に気にしなくていい。俺もぼーっとしてたし……」

「これ、ほむまんっていうの!ウチの名物だから試食していって!」

「お、おう……」

「ありがとう」

 こうも無邪気な笑顔で、ずいっと目の前に出されたら、断りようがない。戸塚と共に一つ受け取る。

 材木座は真っ先に入った割には、同年代の女子を見て、急にステルス性能を発揮した。まあ、あの風貌のせいで上手くはいってないが。

 ほむまんとやらを頬張ると、口の中に程よい甘さが広がる。コーヒーはとことん甘くする俺だが、この控え目な甘さはかなり気に入った。

「どう?どう?」

「うん、美味しいよ!」

 戸塚も同じ感想のようだ。

「うむ、気に入った!」

 いつの間にか食べていた材木座が胸を張り、偉そうに言う……少し距離をとって。

「あなたは?」

 ……その上目遣いであなたなんて言うの止めてもらえませんかねえ。世の男子達を死地に送り込みますよ。

 俺はあらぬ方向へ目をやり、その視線から逃れて言った。

「……美味い」

「よかったぁ♪」

 視界の端に映る満面の笑みに、鼓動がはやまった気がしたが、ただの気のせいだろう。

 口の中にはほんのりとした優しい甘さが残って、しばらくはそこに居座りそうだった。

 

 





 読んでくれた方々、ありがとうございます!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。