捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第21話

 

 それからライブ当日になるまで、高坂からは何の連絡もなかった。俺も材木座とゲーム部のいざこざに巻き込まれたりやらで、そんなにアイツの事を考えたりはしなかった。

 アイツの強がりなんて知る由もなかった。

 

 *******

 

 秋葉原駅の改札を通り抜け、外に出ると、雨は止む気配もなく、街をどんよりと暗く濡らしていた。どうやら天気はμ'sの味方をしなかったようだ。

 今朝、高坂からメールが来たのだが、やたら誤字だらけでひたすら読みづらかった。とりあえず屋上でライブをやるというのはわかったが……どんだけ焦ってたんだよ、あいつ……寝坊でもしたのか?

 その姿が容易に想像できることに苦笑しながら、俺は少しだけ歩くスピードを上げた。

 周りを沢山の人が歩いているのに、自分の足音が、水たまりをパシャパシャ蹴飛ばす音が、何故か大きく響いた。

 

 *******

 

 女子比率の高さに辟易しながら屋上に辿り着くと、傘を差した観客が今か今かと開演を待ちわびていた。雨でも結構な人数集まっているのは、そのままμ'sの注目度、期待度を表していた。

 そして開演……高坂が……μ'sのメンバーが登場したのだが……。

 高坂の奴……顔、赤くねえか?

 何だか様子がおかしい気がする……。

 歌もしっかり歌っているし、踊れてもいる。

 だが、何かがおかしい気がする。

 心にぴっとりと貼りついた違和感のようなものは中々離れてくれず、それでも俺は高坂のパフォーマンスを見ていた。いや、見とれていた。この時ばかりは素直に納得してしまった。

 やがて1曲目が終わり、ぱらぱらと雨音混じりの拍手が鳴り響いた……のだが……。

 

「……っ」

 

 高坂がいきなり倒れた。

 

「穂乃果!」

「穂乃果ちゃん!」

「お姉ちゃん!」

 

 

 何が起きたかわからないと問いかけるような一瞬の空白の後、ステージ上のメンバーや高坂の妹が彼女に駆け寄る。

 気がつけば自分の体も動いていた。

 

「ん?君は……」

 

 ステージに駆け寄った俺に、東條さんが真っ先に気づく。

 俺はその声に黙って頷き、高坂の顔に目をやる。

 彼女の顔は赤く火照り、息はかなり荒かった。

 明らかに体調が悪い。そして、付き合いの浅い俺にもその理由は明らかだった。

 この数日間……いや、もっと前から……彼女は無理をしていた。

 そして、それを彼女は無理とは思っていなかった。

 自分が欲しい結果を得るために必要なことだと思った。

 彼女は間違ってなどいない。

 ただ、現実は時に残酷だった。

 降りしきる雨は情熱の炎を濡らし続け、やがて消してしまった。

 俺はその様子をただ見守ることしかできなかった。

  


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