「比企谷君って家ではどうなの?」
「大体、本読んでるか、ゲームしてるか、アニメ見てますよ」
「そっかぁ、じゃあ比企谷君……」
「いや、歌も踊りもやらないから」
「何でわかったの!?比企谷君って……エスパー?」
「……いや、お前の言いそうなことは予想つく。つーか、俺にスクールアイドルやらせてどうすんだよ」
「えっ、お兄ちゃん達……もうそんな以心伝心な関係に?」
「違う。こいつが単純なだけだ」
「違うよ!私、単純なんかじゃないもん!」
「…………」
「あ~!無視してごまかした~!」
意気投合した小町と高坂が楽しく会話し、たまに俺が振られた話に参加するという、奉仕部のような時間になっていた。
そして、穏やかな時間ほど流れるのは早く、携帯で時間を確認した高坂は驚きの表情を浮かべた。
「あっ、もうこんな時間!じゃあ、今日はいきなりごめんね。小町ちゃんも、絶対にライブ来てね!」
「はいっ、穂乃果さん。帰り気をつけてくださいね」
高坂に、可愛らしい来客用の笑みを浮かべてから、小町はこちらを向いて、「んっ!んっ!」と外に向け、顎をしゃくってみせた。「送っていけ」という事らしい。確かにもう空も薄暗い。何より、最初からそのつもりではあった。べ、別に変な意味はないんだからね!やだ、何このツンデレの見本!今度は「ツンデレな少年と純粋な少女」にタイトル変更するまである。
「……じゃ、行くか」
「え?でも……」
「気にすんな。どうせ駅前の本屋に用事があるし」
「そっかぁ……ありがと♪じゃ、行こっ」
高坂の笑みから目をそらし、俺は靴を履いた。
*******
私達は駅まで特に話題を決めるでもなく、思いつくままに言葉を交わした。
「それでね、海未ちゃんがテスト勉強1日中つきっきりで見てくれたんだよ!」
「……園田さんの苦労を垣間見た気がするんだが……まあ、あれだ。仲直りできてよかったな」
「うん♪……そういえば、比企谷君はお勉強得意なの?」
「あー、国語がそこそこ自信あるくらいだ」
「へぇ~……私、長い文章読むと眠くなるから羨ましいなぁ」
慣れない街を、知り合って3ヶ月くらいの男の子と歩いている。そのことにいまいち現実感が湧かない。すぐ隣に比企谷君はいるのに。
その横顔を見ると、相変わらず目つきは悪いけど、その瞳はどこか優しくて……
「……どした?」
「え?あっ、何でもないよっ」
今、私……もうしばらくはこのまま歩いていたい、なんて考えたような……どうしたんだろ。
*******
駅は仕事帰りのサラリーマンやOL、大学生くらいの男女などが行き交い、この時間は殆ど家にいる俺が、普段見ることのない賑わいがあった。
改札付近で、彼女は俺の正面に向き直った。
「送ってくれてありがとう」
「……気にしなくていい。さっきも言ったが……」
俺の言葉に、彼女は呆れたような笑みを見せ、続きを遮った。
「はいはい。じゃあ、花火大会で会おうね!」
「俺が行くのは確定なのかよ……てか、早く行かないと乗り遅れるぞ」
「あっ、うん!またね!」
手をひらひらと振った彼女は、さっと身を翻し、ふわりと甘い香りを残し、改札の向こう側へと去っていった。
あっという間にその背中は見えなくなり、駅のアナウンスと同時に、俺も踵を返す。
……とりあえず、本屋でも寄っていくか。