捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第28話

「比企谷君って家ではどうなの?」

「大体、本読んでるか、ゲームしてるか、アニメ見てますよ」

「そっかぁ、じゃあ比企谷君……」

「いや、歌も踊りもやらないから」

「何でわかったの!?比企谷君って……エスパー?」

「……いや、お前の言いそうなことは予想つく。つーか、俺にスクールアイドルやらせてどうすんだよ」

「えっ、お兄ちゃん達……もうそんな以心伝心な関係に?」

「違う。こいつが単純なだけだ」

「違うよ!私、単純なんかじゃないもん!」

「…………」

「あ~!無視してごまかした~!」

 

 意気投合した小町と高坂が楽しく会話し、たまに俺が振られた話に参加するという、奉仕部のような時間になっていた。

 そして、穏やかな時間ほど流れるのは早く、携帯で時間を確認した高坂は驚きの表情を浮かべた。

 

「あっ、もうこんな時間!じゃあ、今日はいきなりごめんね。小町ちゃんも、絶対にライブ来てね!」

「はいっ、穂乃果さん。帰り気をつけてくださいね」

 

 高坂に、可愛らしい来客用の笑みを浮かべてから、小町はこちらを向いて、「んっ!んっ!」と外に向け、顎をしゃくってみせた。「送っていけ」という事らしい。確かにもう空も薄暗い。何より、最初からそのつもりではあった。べ、別に変な意味はないんだからね!やだ、何このツンデレの見本!今度は「ツンデレな少年と純粋な少女」にタイトル変更するまである。

 

「……じゃ、行くか」

「え?でも……」

「気にすんな。どうせ駅前の本屋に用事があるし」

「そっかぁ……ありがと♪じゃ、行こっ」

 

 高坂の笑みから目をそらし、俺は靴を履いた。

 

 *******

 

 私達は駅まで特に話題を決めるでもなく、思いつくままに言葉を交わした。

 

「それでね、海未ちゃんがテスト勉強1日中つきっきりで見てくれたんだよ!」

「……園田さんの苦労を垣間見た気がするんだが……まあ、あれだ。仲直りできてよかったな」

「うん♪……そういえば、比企谷君はお勉強得意なの?」

「あー、国語がそこそこ自信あるくらいだ」

「へぇ~……私、長い文章読むと眠くなるから羨ましいなぁ」

 

 慣れない街を、知り合って3ヶ月くらいの男の子と歩いている。そのことにいまいち現実感が湧かない。すぐ隣に比企谷君はいるのに。

 その横顔を見ると、相変わらず目つきは悪いけど、その瞳はどこか優しくて……

 

「……どした?」

「え?あっ、何でもないよっ」

 

 今、私……もうしばらくはこのまま歩いていたい、なんて考えたような……どうしたんだろ。

 

 *******

 

 駅は仕事帰りのサラリーマンやOL、大学生くらいの男女などが行き交い、この時間は殆ど家にいる俺が、普段見ることのない賑わいがあった。

 改札付近で、彼女は俺の正面に向き直った。

 

「送ってくれてありがとう」

「……気にしなくていい。さっきも言ったが……」

 

 俺の言葉に、彼女は呆れたような笑みを見せ、続きを遮った。

 

「はいはい。じゃあ、花火大会で会おうね!」

「俺が行くのは確定なのかよ……てか、早く行かないと乗り遅れるぞ」

「あっ、うん!またね!」

 

 手をひらひらと振った彼女は、さっと身を翻し、ふわりと甘い香りを残し、改札の向こう側へと去っていった。

 あっという間にその背中は見えなくなり、駅のアナウンスと同時に、俺も踵を返す。

 ……とりあえず、本屋でも寄っていくか。

 

 


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