「ええっ!!!!!??比企谷君が見に来てくれるの!?」
「う、うん……」
比企谷君や小町ちゃんをライブに誘った話をしたら、絵里ちゃんが物凄い勢いで詰め寄ってきた。ど、どうしたのかなぁ……?
「くっ、こうしてはいられないわ……!ことり!私の衣装を三割増しセクシーにしてもらえないかしら「エリチ」はい」
「絵里ちゃんがなんかおかしいにゃ……」
「う、うん……目が、怖い……」
絵里ちゃん…………とっても気合いが入ってるんだねっ、さすが生徒会長!私も見習わなきゃ!
私はことりちゃんの肩を掴んで、はっきり告げた。
「じゃあ、ことりちゃん!皆の衣装をセクシー三割増しで!」
「ええ~!?」
「穂乃果、何を言っているのですか!?私は着ませんよ、そんなの!」
「ふんっ、私も着ないわよ!清純派だもの!」
「誰もにこちゃんには期待してないわ」
「なぁんでよっ!」
結局、衣装はそのままでやることになった。
「ふふふ……ライブチカ。絶対に視線を釘付けにするチカ」
「え、絵里ちゃん?」
「エリチ……」
「まあ何にせよ、穂乃果……ハラショーよ」
「う、うん……ハラショー……かな?」
ぐっと親指を立てる絵里ちゃんに、苦笑いで返すと、こうしている間も、ライブの日が近づいてきてるという実感が湧いた。絶対にいいものにしなきゃ!
「よ~し……皆っ、ファイトだよ!」
*******
ライブ当日、青空を白い雲がふわふわ泳ぎ、少しじめじめさした風が吹き抜ける。たまに雲が太陽にかかり、日差しを遮るので、昨日よりは過ごしやすそうだ。
「お兄ちゃん、戸塚さんにしか声かけなかったの?」
「他に声をかけられる奴がいなかったんだよ。てか、戸塚誘うのも結構緊張したんだが……人を誘うって難易度たけぇんだな……」
「……それ、なんか別の緊張なんじゃないの?」
小町のジト目を無視し、行き交う人の流れをぼんやり眺めていると、見間違えるはずのない天使・戸塚の姿を発見した。
「八幡!」
「おう」
「あっ、戸塚さん!お久しぶりです~」
「うん。久しぶり、小町ちゃん」
「けぷこん、けぷこん」
戸塚は急いで来たのか、額にはじんわり汗が滲んでいた。お、俺に会うために、そこまで……今日は我が人生最良の日なのか……。
「は、八幡?どうして泣いてるの?」
「ああ、気にしないでください。兄なんで」
「まあ、気にすんな。ぼっちあるあるだから」
嘘だけど。
「けぷこん、けぷこん」
「じゃあ、そろそろ行くか」
「な、なあ、我のことガチで無視すんの止めてくんない?いや、本当に傷つくんだけど……」
「……幻じゃなかったのか」
さっきから、ただの夏の幻だと思って無視していたのに……。
「あはは、本物の材木座君だよ。さっき偶然会ったから、声かけたんだ」
「……そっか、そりゃ運が悪かったな」
「照れるな八幡よ、スクールアイドルのライブで緊張してるかもしれんが、安心するがいい……我が来た」
「いや、むしろ不安しかないんだが……」
こいつの痛々しい中二病のノリを、高坂以外のμ'sメンバーが受けとめてくれる可能性は極めて低い。恐らく「ダレカタスケテェ……」とかなるに違いない。極力他人のふりをしておこう。いや、今の時点で既に赤の他人だが……。
「あっ、お兄ちゃん!そろそろ電車来るよ!」
「ん?ああ、じゃ行くか」
もう一度、青い空と白い雲を見上げ、そういえばμ'sの楽曲にも、夏を題材にした曲があったことを思い出す。
すると、軽快なメロディーと、誰かの爽やかな笑顔が自然と浮かんできた。
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電車内では材木座も大人しく……まあ、コートが人目を引いていたが……とにかく、ぼんやりと流れる景色を眺め、時折三人の内の誰かと言葉を交わしていたら、割とすぐに着いた。
「さあ、皆の者。我に続くがいい!」
「いや、お前目的地知らねえだろ」
「確か駅から5分くらいの場所だったよね」
「お兄ちゃん、多分あの建物の近くじゃないの?」
小町の指し示す方向を見ると、高坂のメールに書かれていた看板が見えた。この炎天下で歩かされずにすみそうなのはありがたい。
とりあえず目的地向けて歩き始めると、右側から何かが勢いよくぶつかってきた。
「きゃっ!」
「っ!」
突然の衝撃にこけそうになるが、何とか耐える。
目を向けると、ぶつかってきたのは女子だと気づい……た……。
「ご、ごめんなさい、大丈夫?」
「……え?、あ、ああ、はい……」
何やら声をかけられているが、口が上手く開かない。
そこにいたのは……A-RISE のメンバー、優木あんじゅだった。
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「あら、今胸騒ぎがしたわ……仕方ないわね。私が比企谷君達を迎えに「エリチ」はい」
「あははっ、でもそろそろだよね。今日のライブ、楽しませなきゃ♪」