捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第35話

 ライブは大盛況のうちに終了した。

 μ'sのパフォーマンスは、素人目にもわかるくらいに迫力が増していた。隣にいる小町なんかは、すっかり目を奪われ、普段は見れないような熱いテンションで声援を送っていた。

 

「ありがとうございました!!」

 

 今日一番の盛り上がりを見せ、ステージから去っていく彼女の姿は、普段よりも輝いていて、少し遠く見えた。

 そのことに何ともいえない気持ちになりながらも、俺はできるだけ強く拍手を送った。汗で湿った音で何かを誤魔化すように。

 何より、彼女達を讃えるように。

 

 *******

 

 終演後、高坂に呼ばれたので控え室に行くと、μ'sのメンバーが勢揃いしていた。その隣には、先日の高坂の件で知り合った三人組がいる。何故こちらを見てニヤニヤ笑う。あと絢瀬さんがやたらウインクしてくる。うっかり俺の事好きなのかと思っちゃうだろ。

 そんな中、真っ先に口を開いたのは高坂だった。

 

「あっ、皆!今日は来てくれてありがとう♪」

「いえいえ、こちらこそ呼んでいただきありがとうございます♪とっても楽しかったですよ。ねっ、お兄ちゃん!」

「……おう」

「すっごく楽しかったよ!」

「ふむ、悪くはない」

 

 小町に続き、戸塚が可愛らしい笑顔で、材木座が小声で偉そうに感想を告げると、メンバーがほっとした表情を見せた。おい、材木座。

 やはりアイドルの時は雰囲気が違うからか、華やかで眩しすぎるからか、別に露出度が高い衣装を着ているわけじゃないのに、目のやり場に困ったように目を泳がせていると、いきなり目の前に碧い瞳が現れた。

 

「比企谷君、来てくれてありがとう!楽しんでくれた?私、どうだった?可愛かった?」

「っ……!」

 

 その正体は絢瀬さんだ……てか、近い近いいい匂い近い!何なのこの距離感?パーソナルスペースやらATフィールドやらが明らかに無視されている。

 

「エリチ」

「はい」

 

 東絛さんから名前を呼ばれると、あっさり距離をとる絢瀬さん。え、何?この二人主従関係でもあるの?マスターとサーヴァントの関係なの?令呪持ってるの?

 

「………」

「……どした?」

 

 今度は、いつの間にか高坂が近くにいて、じっとこちらを見ている。どことなく不機嫌そうなのは、ライブ疲れからくるものなのか、さっきは笑顔だった気がするんだが。

 彼女は俺の方から目を逸らし、独り言のように呟く。

 

「別に。何でもな~い」

 

 そう言って何でもないなかった奴はいない。

 

「ア、アンタ達、のんきに話してる場合じゃないでしょ。何でそんな平然としていられるのよ!?」

「あわわ……ぴゃああ……!」

 

 会話に割って入ってきた矢澤にこと小泉花陽の視線の先では、優木あんじゅが優雅に微笑んでいた。

 

「あっ、どうぞお構い無く」

「できるか!できるわけないでしょ!できませんよ!あの、ファンなんです!サインください!」

「わ、私も……大丈夫ですか?」

「ふふっ、もちろんオーケーよ♪応援ありがと。あなた達のライブ素敵だったわ」

「「ありがとうございます!!」」

「A-RISEのメンバーに褒められたにゃ……」

「まあ、この私がいるんだから当然だけど」

「真姫ちゃん、照れてる♪」

 

 そういや、矢澤さんと小泉花陽ちゃん二人はアイドル大好きとか高坂が言ってたような……目が完全にファンの目になってんな、これ。

 

「あの……」

 

 サインをゲットして夢見心地の二人を余所に、高坂がこっそり耳打ちしてくる。

 

「……二人は知り合いなの?」

「いや、さっきそこで知り合っただけだ……てか、知り合いじゃないのはお前もわかってるだろ……」

「あっ、そっか。そうだよね……うん。でも、よかったね、知り合いになれて」

「……い、いや、別に」

 

 よかったねと言いながらも、高坂の声はどこかとんがっている。もしかしたら、前回の優勝者に対して思うところもあるのかもしれない。てか、耳に吐息がかかりまくって、変な気分になりそうなんですけど!

 そこで、優木さんが「それじゃあ」と口を開いた。

 

「私はそろそろ行くわね。比企谷君達も、今度はA-RISEのライブを観に来てね」

 

 こちらが返事を返す間もなく、彼女は身を翻し、去っていった。ふわふわ揺れる茶色い髪が見えなくなったところで、再び高坂が口を開いた。

 

「比企谷君、A-RISEのライブ行くの?」

「いや、わからん。そもそもいつあるのか聞いてないし」

「そっか……あっ、今日は本当に来てくれてありがとう!嬉しかったよ!あはは……」

「お、おう……」

 

 らしくないと言える程の仲ではないが、それでもらしくないと思えるぎこちない笑い方。やはりどこかおかしい。こいつ、もしかして……

 

 *******

 

 何でだろう……ライブ観に来てもらえて嬉しいはずなのに……胸の辺りがモヤモヤする。こんなの…私らしくないな。

 

「……高坂」

「えっ、あ、なになに?」

 

 比企谷君が心配そうにこっちを見ている。いけないいけない。せっかくライブに来てもらったんだから、こんな顔させちゃいけないよね。

 彼は気遣うような視線のまま、いつものようにボソボソと呟いた。

 

「もしかして、腹減ってんのか?」 

「違うよっ、比企谷君のバーカ、バーカ!」

 

 やっぱり比企谷君はイジワルだよ!

 


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