捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第37話

 数分前……。

 

 まさかここで比企谷君に会うなんて思わなかったなぁ。

 この前のライブ終わってから、電話とかしてなかったから、久しぶりに思えてくる。

 ……ライブ。

 何故か、あんじゅさんにデレデレしてる八幡君を思い出してしまった。

 ……顔赤くしてたなぁ。まったくもう……確かにあんじゅさんは美人だけど……あれ?何で私、イライラしてるんだろう。もう、何日も前の事なのに……。

 

「ほ~のかっ、早く着替えなよ」

「もしかして、比企谷君の前で水着姿になるの、恥ずかしい?」

「ち、違うよっ、PVで水着着てたから恥ずかしくないもんっ!」

 

 ぼーっと考えている内に、皆既に着替え終わっていた。

 ヒデコは白いビキニを、フミコはフリルのついた水色のビキニを、ミカは白いワンピースの水着を着ていた。

 小町ちゃんはもう外に行ったみたい。

 いけないいけない、私もはやく着替えなきゃ!

 慌てて着替えると、さっきヒデコが言ったことを思い出した。

 

「は、恥ずかしくなんて……ないよね?」

 

 私は自然と、自分の腰や太ももをペタペタ触り、意味のないチェックを繰り返した。

 

 *******

 

 そして今……

 

「……高坂?」

「わひゃいっ!」

「っ!びっくりしたぁ……お前、何て返事すんだよ……」

「あはは、ごめんね。ぼーっとしちゃってた……」

「そ、そうか……」

 

 比企谷君は視線を前に戻し、ポケットに手を突っ込み、猫背気味に歩き出す。もう少し背筋を伸ばせばいいのに……あっ、でも比企谷君って猫っぽいかも。あんまり触らせてくれない猫。目つきの悪さもちょうど……

 

「……どした?」

「え?」

 

 比企谷君がこっちを向いた。いつの間にか、横顔をずっと見ていた自分に気づき、慌てて口笛で誤魔化す。

 

「♪~」

「…………」

 

 き、気まずい……何か新しい話題を……あっ、そうだ!

 

「比企谷君は夏休みは部活ないの?」

「ああ」

「…………」

「…………」

 

 終わっちゃった……いや、まだまだだよ!

 私が必死に頭を働かせていると、比企谷君の方から口を開いた。

 

「……なあ、高坂」

「えっ、何?」

「もしかして、は……」

「お、お腹空いてるわけじゃないもんっ!」

 

 もうっ、私が食いしん坊みたいじゃん!……その通りかも。でも私、そんなイメージなのかなぁ?

 

「じゃあ、具合悪いのか?」

「違うよ。何かこう……あっ、そうだ!あれ乗らない?」

 

 私は、たまたま目についたウォータースライダーを指差した。人気があるのか、結構人が並んでいる。

 

「どうした、いきなり……」

「だって、皆どこ行ったかわからないし、でも探してばかりじゃ時間もったいないから、遊びながら探そうよ!」

「……わかった」

 

 勢いで言っちゃったけど、まあ大丈夫だよね。せっかくだし楽しまなきゃ、ね。皆がこのプールのどこかにいるのはわかってるんだし。

 私達はウォータースライダーに向け、ゆっくり歩き出した。

 さっきよりは自然にその横顔を見れた……気がする。

 

 *******

 

「「…………」」

 

 どうしよう……。

 ウォータースライダーの列に並んだのはいいけど、周りが……

 

「さ、才人……これ本当に面白いの?」

「いいからやってみろって、こっちの世界の事知りたいって言ったのお前だろ?大丈夫だって、俺がついてるから」

「うん、わかった。ありがと……」

 

「悠二、さっきからこっち見すぎ」

「い、いや、その……その水着、似合ってるよ」

「っ!うるさいうるさいうるさい!……バカ」

 

 カップル多すぎるよ!後ろの方には女の子の集団もいるけど……

 

「カップルばかりだねー」

「私達アウェーだねー」

「マジ引くわー」

 

 ……こ、これって、わ、私達もそういう風に見えるって事なのかなぁ?カ、カップルに?

 ううん、違うよね!私達はそんなんじゃないもんっ!

 

「ね、ねえ、比企谷君……」

「な、何だ?」

 

 比企谷君もそわそわして落ち着きがなかった。あれ?少し頬が赤い?

 その頬を見た私は、またその横顔を見る事ができなくなった。

 

 *******

 

 喋ったり黙ったりを繰り返していたら、いつの間にか自分達の番になっていた。

 2人乗りのボートがセットされていて、係員のお姉さんが手招きしている。

 

「はいっ、じゃあ彼女さんが前に乗りますか?」

「ち、違います!」

「違います……」

「え?」

「あ、そ、そうじゃなくて。私達は、えと……」

「ふふっ、初々しいですね。でも、ボートの上では程々に♪」

「「…………」」

 

 そ、そう見えるのかなぁ……いや、今はこっちを楽しもう!

 私が前に、比企谷君が後ろに座り、準備万端。あとは滑るだけ……だけど。

 

「「っ!」」

 

 比企谷君の膝が真横に来て、体がびくんと跳ねる。い、意外と近いどころじゃなくて、ほとんどくっついてるよね、これ……。

 

「「…………」」

 

 どっちも何も喋らない。喋ることができない。う、海未ちゃん達とならこんな事ないのに……当たり前だけど。

 さらに、首筋に比企谷君の息づかいを感じ、息がかかってるわけじゃないのに、なんかくすぐったい。

 

「じゃあ、行きますよ~」

 

 係員の人の声と共に、2人乗りのボートがコースを滑り出した。

 風を切り、水しぶきをあげて加速していくボートは、小刻みに揺れ、楽しくてつい声をあげてしまう。久しぶりに味わうジェットコースターみたいなスリルに、さっきまでの緊張が嘘みたいになくなっていた。

 体がくっついている事も、今はあまり気にならなかった。

 

「やっほ~~~~♪」

「……山じゃねえんだから」

「比企谷君も叫んでみたら~!」

「いや、遠慮しとく……」

「ふふっ、楽しい~♪」

 

 やがて、ボートは終着点まで行くと、一際大きな水しぶきが上がった。

 キラキラ光る水滴がとても綺麗で、つい見とれてしまった。私に作詞作曲の才能があれば、歌にできたかもしれない。

 

「あははっ!楽しかったね、比企谷く……きゃっ!」

「っ!」

 

 突然立ち上がった勢いでボートが揺れ、私はバランスを崩した。

 そのまま比企谷君の方に倒れ込んでしまう。

 その時、優しく受け止められるような感触がした。

 

「ご、ごめ~ん……」

「…………お、おう」

 

 いたた……気をつけないと……あ。

 ゆっくり顔を上げると、至近距離に比企谷君の顔があり、時間が止まったような気持ちになる。

 私は比企谷君に抱きついてしまっていた。

 


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