昼休み。新学期も変わらずベストプレイスにて昼食を摂っているのだが、今日は最後の一個を開けようとした段階で、思わぬ邪魔が入っていた。
「生徒会長?」
「そうなの!私、生徒会長になっちゃった!」
「そうか。じゃあな」
「はやっ、聞く気ゼロじゃん!」
「今、忙しいんだよ……」
「どうせ今日はいい天気だから、校舎の外の誰も来ないような場所でお昼ごはん食べてるんでしょ!?」
「…………」
「当たっちゃった♪」
「いや、まだ何も言ってないんだけど……」
「比企谷君が黙る時って図星の時でしょ?」
「えっ?何?何なの?お前、俺のファンなの?そういや、この前の応援がどうのこうの言ってたような……」
「ち、違うよ!そんなんじゃないよ!比企谷君が私の大ファンなだけだし!」
「それも違うがな。てか、お前が生徒会長か……まあ、あんまり園田さんや南さんが大変そうだな……」
「むむっ、ちょっとそれどういう意味?」
「どうせ二人も生徒会に入ったんだろ?お前のフォローのために」
「何でわかるの!?比企谷君、エスパー!?」
「いや、簡単に想像つくだけなんだが……」
「まあ、そうかも……でも、私だって生徒会長になるんだから、今からデキる女を目指すんだよ!」
「今の発言がどことなくアホっぽいんだが」
「アホじゃないよ!すぐにデキる女になるもん!というわけで比企谷君も生徒会長になってよ」
「……えっ?今、話繋がってた?イミワカンナイんだけど」
「急に真姫ちゃんの真似しないでよ。真姫ちゃんはもっとツンッとしてるよ!」
「お前、怒られるんじゃないか……」
「大丈夫!今、生徒会室に一人だから」
「……まあいい。とにかく俺はそういうの興味ねえし。何より票集められるほど人望ねえんだよ」
「むぅ……比企谷君、まだ諦めないで。ファイトだよ!」
「そっか、じゃあな」
「あーっ、逃げようとしてる!」
「いや、はやく飯食いたいんだけど……昼休み終わっちゃうだろ……」
「あっ、そうだ!私もパン食べなきゃ!それじゃ!」
通話はいきなり途切れ、この時期にしては涼しい風が吹き抜ける。何だったんだ、あいつ……。
まあいい、最後のパンを……おい、チャイム鳴ってんぞ。
俺は急いでパンをかきこみ、やや遅刻気味に教室に戻った。
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放課後、特に依頼が来る気配もないので音楽を聴いていると、由比ヶ浜が肩をつついてきた。雪ノ下との間の微妙な空気を察して、何とか明るくしようとしている姿は健気で、同時に申し訳ない気持ちになる。
「ヒッキー、何聴いてるの?」
「音楽」
「返しが適当すぎる!もう……どんな音楽聴いてるのって言ってるの」
由比ヶ浜はそう言いながら、俺の耳からイヤホンを抜き、自分の耳に差し込む。だから、そういうのを何でもないことのようにするのは止めてくれませんかね……うっかり勘違いで甘い雰囲気とかに浸っちゃいそうになるだろ。
イヤホンから聴こえる曲を聴いた由比ヶ浜は、何かを思い出すように首を傾げ、すぐに口を開いた。
「あっ、この曲って彩ちゃんも聞いてたやつだ!えっと、何だっけ……石鹸みたいな名前の……」
「μ'sな」
「そうそう、μ's!何曲かネットで聴いたけど、曲もいいし、皆可愛いし!でも意外だね。ヒッキーもこういうの聴くんだ?」
「バッカ、お前……何ならオススメのアニソンをまとめたMDやろうか?」
「いらないいらない!絶対にいらないから!っていうか、MDって懐かしすぎる!」
「まあ、あれだ……色々あってはまったんだよ」
「へえ……ち、ちなみに……誰がタイプなの?」
「…………優木あんじゅ」
「μ'sのメンバーじゃなかった!ヒッキー、ああいう感じの人が好きなんだね……あはは」
由比ヶ浜は渇いた笑いを溢す。おい。
「八幡よ……さっきから俺の事無視してない?さっきからいるんだけど」
素の話し方に戻った材木座が、甘えるように袖を引っ張ってくる。言うまでもなく鬱陶しい。ええい、顔を寄せてくるな。雪ノ下も材木座に一瞥くれただけで、特に相手をしようとはしない。やばい。このままでは俺が材木座担当窓口係になっちゃう!
「離れろ、てか早く用件を言え。お前さっきから黙ってばっかだろうが」
まあ、こいつからの用件など限られているのだが。キュアップラパパで迅速に処理できねえかな。
材木座は、意気揚々と鞄から原稿を取り出した。
「新作が完成したから読んでもらおうと思ってな。芸術を司る9人の女神を題材とした……」
「ああ、それつまんね。てか、色々と聞き覚えがあるんだが……」
結局、その日は下校時間になるまで、材木座の新作についての話を聞く羽目になり、奴が東條希と西木野真姫を推しているという知りたくもない事を知ってしまった。
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翌日……
「は?文化祭……実行委員?」