捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第43話

 スローガン決めで周りの注目を浴びたり、仕事に嫌気がさしたりで、将来は何がなんでも専業主夫になってやると決意を新たにしたが、どうにか文化祭当日を迎えることができた。

 それと同時に、電話越しの高坂からの言葉を思い出す。

 ……思ったより元気づけられたな。まあ、あいつの有り余ったエネルギーの影響かもしれん……一応、今度礼を言っとこう。

 

「比企谷君、気味が悪いから一人でニヤニヤしないでもらえるかしら」

「…………」

 

 気がつくと、雪ノ下がこちらに冷たい視線を向けていた……思い出し笑いとか、本当に何考えてんだ、俺は。

 

 *******

 

「さっ、行くわよ。いい?私達は一応私服姿だけど、今日は遊びに来たんじゃなくて、他校の文化祭を参考にして、自分達の文化祭よりよいものに仕上げる為の視察に来たの。だからくれぐれも今日は音ノ木坂の生徒という自覚を持って……」

「エリチ、行くよ」

「はい」

「早くしないと全部回りきれないよ!はやくはやくっ」

 

 今日私は、絵里ちゃんと希ちゃんの3人で、総武高校の文化祭に遊びに来ていた。

 ここ最近は比企谷君に電話してないから、来るってことは小町ちゃんにしか言えていない。ていうか、秘密にしてある。比企谷君、驚くかなぁ?

 

「穂乃果、比企谷君のクラスは何組?」

「……そういえば知らないや。あはは」

「まあ、全部回ってれば会えると思うよ」

「そうね。赤い糸で繋がってれば必ず……」

「糸?」

 

 辺りを見回しても何もない。

 

「いや、例えやからね。穂乃果ちゃん……」

「あっ、あっちで焼きそば売ってるよ!早く行かなきゃ!並び始めてるよ!」

「そうね。実行委員なら外の見回りもしているかもしれないから、まずはこの辺りから楽しむわよ!」

「……今日は忙しい1日になりそうやね」

 

 *******

 

「あっ、お兄ちゃんいた!」

「……おう、小町。来てたのか」

 

 一瞬疲れすぎて、天使が見えたのかと思ったぜ。小町はとてとてと駆け寄ってきて、悪戯っぽい笑みを見せる。おや、これは何か企んでいますね。

 

「もう会ったの?」

「は?誰と……」

「ああ、まだ会ってないならいいや。じゃあ小町は雪乃さんや結衣さんに挨拶してくるから。お仕事頑張ってね~」

「……おう、気をつけてな」

 

 誰か俺の知り合いが来ているらしいが、まあ思い当たる節が少なすぎて、誰だかすぐに思い至る。ボッチはこういう時、検索が楽で助かる。

 どこにいるのかと何となく窓の外に目を向けると、背後から駆け寄ってくる音が聞こえた。

 振り向くと由比ヶ浜がそこにいた。どうやら小町とは入れ違いになったらしい。

 

「ヒッキー!お昼もう食べた?」

「いや、まだだけど……」

「そっか、じゃあハニトー買ったから分けてあげる!」

「え?あ、ああ……」

「あっ、いた!比企谷くーん!」

「……高坂」

 

 今度は高坂が焼きそばやら何やらを両手に駆け寄ってくる。やはり来ていたのは高坂だったか……そして……。

 

「比企谷くー……いえ、これは私のイメージが崩れるわね。比企谷君、久しぶりね。元気だった?文化祭実行委員の仕事お疲れ様。差し入れを持ってきたのだけど、一緒にどう?」

「…………」

 

 絢瀬さん登場。今、必死にクールキャラを取り繕った気がするんだが……。

 

「え?え?」

 

 突然登場した二人に、由比ヶ浜が驚きの声をあげる。そして、忙しなく視線を動かし、俺や高坂達を見比べた。

 ここはどちらとも知り合いの自分が紹介するべきかと口を開こうとすると、意外にも、高坂が何かを思い出したかのように、パンっと両手を合わせた。

 

「あっ!この前総武高校までの道を教えてくれた人だよね?ずっとお礼言いたかったんだぁ♪」

 

 それに対し、今度は由比ヶ浜が同じようなリアクションをする。

 

「えっ?あ、あの時の!」

「うんっ、あの時はありがとうございました!」

「いえ、そんな……あはは、どういたしまして」

「……お前ら、知り合いだったのか?」

「うんっ、少し前に総武高校に来たでしょ?でも道がわからなくて困ってた時に教えてくれたんだよ!」

 

 そういやそんなこと言ってたような……一方、由比ヶ浜は何故か驚愕を顔に滲ませていた。

 

「ヒッキーに知り合いがいたなんて……」

「いや、俺はどっかに幽閉されてたのかよ……」

 

 顔見知りくらいなら普通にいるわ。ただ俺も向こうも覚えてないだけで。

 

「ちょっと!私スルーされてない!?」

 

 *******

 

「そっかぁ、彩ちゃんや中二とも知り合いなんだね」

「中二?」

「材木座の別名だ。てか、どうしたんだ。いきなり」

「遊びに来たんだよっ、はいこれ!」

 

 高坂が出店の食べ物が入った袋を差し出してくる。

 

「お昼ご飯まだかなー、と思って」

「あ、ああ……ありがとう」

 

 すると、今度は由比ヶ浜が袋をこちらに見せつけるように掲げた。

 

「あたしもハニトー分けてあげる!」

「ありがとう……ってか、どうした?」

「何でもない!」

「比企谷君!わ、私からもこれ!」

 

 今度は絢瀬さんがクレープを差し出してきた。あと近い。

 

「ど、どうも……」

 

 何だ、この展開……。

 タダで食う飯は大好きだし、何よりありがたい気持ちはあるのだが、辺りから刺々しい視線を感じるのと、気恥ずかしさやら気まずさやらで逃げたい気分だ。

 

「おい、見ろよ。アイツ」

「ああ、スローガン決めの時の……」

 

 まあ、そういう声も聞こえてくるだろう。割とスローガン決めの時のやりとりが、校内に広まってるらしいし。

 

「チッ!ボッチのくせに羨ましいぜ!」

 

 いや、お前は出てこなくていい。

 慣れない状況に内心焦っていると、背後から肩をとんとんと叩かれる。

 振り向くと、またもや見覚えのある人物がいた。 

 

「比企谷く~ん!ウチも差し入れ持ってきたよ!」

「…………」

 

 今度は、どこからともなく現れた東條さんが、たこ焼きの入った袋を意味深な笑顔と共に差し出してくる。

 ……あんた、この状況を楽しんでんだろ。


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