「わぁ~♪すごぉ~い!」
高坂はテーブルに並べられた料理を見て、感嘆の声を漏らす。うぅむ、さすがは小町。このままずっと毎朝味噌汁を作ってもらいたい。もう妹さえいればいい。
俺はいつもの席に座り、その隣に高坂が座る。
「小町ちゃん、料理上手なんだね。尊敬しちゃうなぁ」
「いえいえ、ただ慣れてるだけですので。穂乃果さんは料理とかしないんですか?」
「えっ!?…………あー、肉、じゃが?とか、その……練習中、かな?」
「「…………」」
頬をかき、目を逸らす高坂。あー、これはできないやつですね。ヘタすりゃ石炭作るレベルかもしれん。キャラ的に。
そこで、高坂と視線がぶつかる。
彼女は、今度は目を伏せ、何やらボソボソ呟き、また顔を上げた。
「だ、大丈夫!カップラーメンなら百発百中で作れるよ!」
「むしろ作れない奴を聞いた事がないんだが……」
てか何だよ、百発百中って。料理ってそんなギャンブルじみたもんじゃねえだろ。
……カ、カップラーメンは確実に作れるんだよな?そうだよな?
*******
食べ始めると、いつもより賑やかな食卓が妙に居心地よく感じられた。とはいえ、俺はあまり会話に参加せず、二人の会話をBGMに、いつもよりゆっくり咀嚼しているだけだが。
「この前の新曲最高でしたよ。学校でも口ずさんでる人増えてました」
「本当に!?ありがと~♪何なら今度のライブも比企谷君と一緒に観に来てよ」
次のライブに俺が行くのは確定しているのか。まあ、文化祭も終わったから、気晴らしに行くのもいいかもしれんが。
さて、醤油は……
冷奴にかける醤油を取ろうと手を伸ばすと、醤油さしとは違う柔らかな感触に触れる。
よく見ると、高坂の手だった。
「「…………」」
何故か固まってしまう。
高坂は高坂で、その手をきょとんとした表情で見ていた。まるで何が起こったかをまったく理解していないような……って……
「わ、悪いっ」
「えっ?あ、うん……」
慌てて二人してバッと手を離す。
……何を固まっているんだか。
誤魔化すように何もかけずに冷奴を頬張り、白米をかきこむ。大丈夫。素材のままでも美味いはず。
そこで、今度は頬に何か触れた。
「……ご飯粒ついてるよ?」
高坂が頬に付いていたらしいご飯粒を取り、自分の口に含む。
「っ……」
立て続けにそんな小さなイベントが起きると、さすがに顔が赤くなるのはどうしようもなく、とにかく気恥ずかしい。
さっきよりも、やや大人しめに食事を再開する高坂を、小町はニヤニヤ見つめていた。
「……新婚さんみたい」
「「っ!」」
小町がトドメとばかりに呟いた一言で、頬の赤みが高坂にまで伝染する。
高坂はあたふたしながら、口を開いた。
「し、し、新婚だなんて、えと……私、まだ、結婚できる年齢じゃ……」
「……おい、落ち着け。何つーか、反論するとこ間違えてるぞ」
「あっ、そだね!わ、私達そもそも……そ、そんなん、じゃ……」
「…………」
だから何でそこで噛むんだよ。余計気まずくなるだろうが……まあ、ここで口も開けない自分は、もっとダメなんだろうけど。
結局、晩飯の味はよくわからなくなってしまった。
……疲れてるせいだとは、どうしても思えなかった。