捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第47話

「わぁ~♪すごぉ~い!」

 

 高坂はテーブルに並べられた料理を見て、感嘆の声を漏らす。うぅむ、さすがは小町。このままずっと毎朝味噌汁を作ってもらいたい。もう妹さえいればいい。

 俺はいつもの席に座り、その隣に高坂が座る。

 

「小町ちゃん、料理上手なんだね。尊敬しちゃうなぁ」

「いえいえ、ただ慣れてるだけですので。穂乃果さんは料理とかしないんですか?」

「えっ!?…………あー、肉、じゃが?とか、その……練習中、かな?」

「「…………」」

 

 頬をかき、目を逸らす高坂。あー、これはできないやつですね。ヘタすりゃ石炭作るレベルかもしれん。キャラ的に。

 そこで、高坂と視線がぶつかる。

 彼女は、今度は目を伏せ、何やらボソボソ呟き、また顔を上げた。

 

「だ、大丈夫!カップラーメンなら百発百中で作れるよ!」

「むしろ作れない奴を聞いた事がないんだが……」

 

 てか何だよ、百発百中って。料理ってそんなギャンブルじみたもんじゃねえだろ。

 ……カ、カップラーメンは確実に作れるんだよな?そうだよな?

 

 *******

 

 食べ始めると、いつもより賑やかな食卓が妙に居心地よく感じられた。とはいえ、俺はあまり会話に参加せず、二人の会話をBGMに、いつもよりゆっくり咀嚼しているだけだが。

 

「この前の新曲最高でしたよ。学校でも口ずさんでる人増えてました」

「本当に!?ありがと~♪何なら今度のライブも比企谷君と一緒に観に来てよ」

 

 次のライブに俺が行くのは確定しているのか。まあ、文化祭も終わったから、気晴らしに行くのもいいかもしれんが。

 さて、醤油は……

 冷奴にかける醤油を取ろうと手を伸ばすと、醤油さしとは違う柔らかな感触に触れる。

 よく見ると、高坂の手だった。

 

「「…………」」

 

 何故か固まってしまう。

 高坂は高坂で、その手をきょとんとした表情で見ていた。まるで何が起こったかをまったく理解していないような……って……

 

「わ、悪いっ」

「えっ?あ、うん……」

 

 慌てて二人してバッと手を離す。

 ……何を固まっているんだか。

 誤魔化すように何もかけずに冷奴を頬張り、白米をかきこむ。大丈夫。素材のままでも美味いはず。

 そこで、今度は頬に何か触れた。

 

「……ご飯粒ついてるよ?」

 

 高坂が頬に付いていたらしいご飯粒を取り、自分の口に含む。

 

「っ……」

 

 立て続けにそんな小さなイベントが起きると、さすがに顔が赤くなるのはどうしようもなく、とにかく気恥ずかしい。

 さっきよりも、やや大人しめに食事を再開する高坂を、小町はニヤニヤ見つめていた。

 

「……新婚さんみたい」

「「っ!」」

 

 小町がトドメとばかりに呟いた一言で、頬の赤みが高坂にまで伝染する。

 高坂はあたふたしながら、口を開いた。

 

「し、し、新婚だなんて、えと……私、まだ、結婚できる年齢じゃ……」

「……おい、落ち着け。何つーか、反論するとこ間違えてるぞ」

「あっ、そだね!わ、私達そもそも……そ、そんなん、じゃ……」

「…………」

 

 だから何でそこで噛むんだよ。余計気まずくなるだろうが……まあ、ここで口も開けない自分は、もっとダメなんだろうけど。

 結局、晩飯の味はよくわからなくなってしまった。

 ……疲れてるせいだとは、どうしても思えなかった。 


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