捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第48話

 少し気まずい食事時間を終え、風呂に順番で入ることになった。高坂が風呂に入ると、俺は自室に篭り、ベッドに腰かけ、ひたすらゲームの世界に没頭していた。別に、うっかりリビングにいてラッキースケベに遭遇したらどうしようとか、いらん想像を振り払いたいとかじゃない。ハチマン、ウソ、ツカナイ。

 しばらくそうしていると、やや強めにドアがノックされた。

 

「お風呂いただきました~♪」

 

 高坂が、こちらが返事するより先に入ってくる。おい、女子が思春期男子の部屋にいきなり入ってくんな。

 そんなデリケートな事情も知らず、彼女は満足そうな笑みのまま、俺の隣に腰かけた。

 

「何してるの?」

「……勉強」

「絶対に違うじゃんっ、どうせゲームでしょ?」

「わかりきってる事を聞くな。そういや、明日は始発から通常通り運行するらしいぞ」

「そっか。よかったぁ」

 

 頷きながらも、高坂の視線はゲームの画面に集中している。ええい、近いいい匂い近い……あと肩くっついてるんだが。

 ふと隣を見ると、意外なくらいすぐ近くに高坂の顔がある。

 ぱっちりした無邪気な目はいつも通りだが、風呂上がりで火照った頬や、しっとり濡れた髪はいつもと違い、何だか色っぽく見えた。

 さらに、肩には温もりが触れ、鼓動が跳ね上がるのを感じる。この子、ここがベッドの上だと気づいているのかしらん。

 すると、いきなり彼女がこちらを向いた。

 

「「っ!」」

 

 至近距離で見つめ合う状態になり、彼女の吐息が口元にかかる。

 彼女も驚きに目を見開いていた。

 

「…………」

「えと……あの……」

 

 それは数秒の事だった。

 しかし、とてつもなく長く感じられ、うっかりするとこの何ともいえないふわふわした時間に、飲み込まれてしまいそうだった。

 俺はそうならないよう、そっと立ち上がり、携帯を充電し、あまり足音を立てないよう、ドアへ向かう。

 

「……ふ、風呂入ってくる」

「あ、うんっ、いってらっしゃい」

 

 本来ならこれで終わるはずだった。

 しかし、よりにもよって、このタイミングで足を滑らせてしまう。

 

「っ!」

「わわっ」

 

 まだベッドに座り、ぼーっとしていた高坂の方へ倒れるが、何とか腕で踏ん張る。ベッドのスプリングが一層強く軋む音がどこか遠く聞こえた。

 

「……わ、悪い。大丈夫か?」

「平気……だけ、ど」

 

 慌てて状況を確認すると、俺が高坂を押し倒しているような体勢になっていた。

 それに気づき、最初はポカンとしていたが、すぐにはっとなる。

 彼女の白く綺麗な鎖骨や、浅く上下する胸をなるべく見ないように、すぐ起き上がろうとすると、頬に何かが触れた。

 それが、彼女の手のひらだと気づき、微動だにできなくなる。

 

「「…………」」

 

 そのまま、視線を交錯させていると、意識に靄がかかったような気分になる。

 高坂は目を閉じ、体を強張らせていた。

 俺は……

 

 すると、その静寂を裂くように、ドアがノックされ、開かれた。

 

「「っ!」」

「お兄ちゃん、はやくお風呂…………あはは、しっつれいしました~♪」

 

 バタンとドアが閉められ、弛緩した空気が漂う。

 ただ、その余韻に浸る余裕など、あるはずもなかった。

 

「……ふ、風呂入ってくる」

「……あ、うん」

 

 俺は逃げ出すようにその場を後にした。

 

 *******

 

 ……ドキドキしてる。

 私、さっき何しようとしてたんだろ。

 こんなの初めてだよ…………比企谷君。

 

 *******

 

 まだ胸は高鳴り、どんなに顔をゆすいでも、落ち着くことはなかった。

 ていうか、この湯船にさっきまで……高坂が……。

 頭の中に浮かびかけたイメージを、かぶりを振って追い払う。

 落ち着け。相手はあの高坂だ。

 色気より食い気のスクールアイドル馬鹿だ……しかし……。

 ……今日は早く寝よう。寝れば落ち着くに違いない。

 

 その後、風呂から上がった俺は、疲れを理由にすぐにベッドに入った。

 疲れのせいで眠りがはやく訪れたのが救いだった。

 

 *******

 

 深夜2時頃……

 

「ん~~……トイレ……」

 

「……へや……あぁ……こっち」

 

 

 

 


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