朝の光がカーテンの隙間から微かに射し込み、瞼を照らし、ゆっくりと目が覚めていく。あれから一度も起きることなく、どっぷりと夢の中にいたようだ。いや、夢すら見ていない。
……今、何時だ?
携帯で時間を確かめようと、じわり目を開ける。
すると、目の前に高坂の寝顔があった。
……………………は?
もう一度目を瞑る。
そして、また開く。
そこには間違いなく高坂の寝顔がある。
「…………」
口を開こうにも、驚きやら何やらで言葉が出てこない。
昨日のように鼓動が高鳴っていくのを感じ、色々と思い出してしまった。
な、何で、こいつ、俺のベッドの中に……。
いや、こいつの事だから、夜中トイレに起きて、そのまま寝ぼけてこっちに来たとかいうラノベとかギャルゲー的なアレかもしれん……!
とにかく抜け出さないと……。
ゆっくりベッドから出ようとすると、いきなり高坂がガバッと動いた。
「っ!」
「ん~~~~」
正面から抱きつかれ、さっきより顔が近くなる。こいつ、どんな寝相してんだよ!!
目の前で艶やかな唇が、もにゅもにゅ動いて、ふわふわした言葉を吐息と共に紡ぐ。
「ん~~……ゆ~きほ~……もう……食べれな~い~……」
おい。人がピンチの時にどんな夢見てんの?
正直、鼻先に寝息がかかる度に、理性やら何やらがガリガリ削られていき、意識がとろんと何かに支配されそうになる。
……正直、この無防備すぎる寝顔を見ていたら……。
なので、そっと視線を下に向けると、東條さんや絢瀬さんのように、豊満とまではいかないが、それでもはっきりと女性を意識させる谷間が控えめに覗いていた。
俺はどこに視線をやればいいかわからず、ぎゅっと目を瞑る。マジでどうすんだ、これ……!
すると、また昨夜のようにノックの後、数秒経ってからドアが開けられる。
「お兄ちゃん、穂乃果さんがいないんだけど……ほぁ!?」
「…………」
とりあえず目を瞑ったまま、やり過ごすことにしよう……いや、本当にそれしか無理。てか、さっきから吐息が口元にかかり、本当にやばい。
「あわわ……こ、小町の知らない内に……ここまで!」
小町が慌てふためいている。小町ちゃん、とりあえず今は部屋を出てくれませんかねえ……。
「んん……?」
高坂のもごもごした声が聞こえてくる。おい、ま、まさか、このタイミングで?
確認しようと目を開けると、高坂と目が合った。そりゃもうバッチリと。
だが、彼女の目はまだ虚ろだ。まあ、それも長くはないだろうが。
彼女は俺の瞳をぼーっと覗き込んできた。
「ん~~……………………ん!?」
そして、急に目を見開かせる。これは、いよいよ本格的に目を覚ますところだろう。今回に関しては俺は悪くないはずだし、ポルターガイストで窓の外に飛ばされたりしないが、それでも緊張はする……しすぎて、冷静に現状を認識するしかできないまである。
「ぇえ……あ……」
「…………」
「……二人は大人になっちゃったんだね……小町、嬉しいよ」
そう言って、小町は部屋を出て、ドアを閉めた。
「お、大人?ひ、ひ、比企谷君?え、ウソ、なんで?」
「…………そろそろ離して欲しいんだが」
「っ!」
高坂は、慌てて俺から距離をとり、頭を抱え、自分の行動を思い返している。
そして、俺が起き上がると、真っ赤な顔のまま、肩を揺さぶってきた。
「えっ!?大人って何なの!?どういう事なの!!?」
「……大人の階段昇る君はまだー」
「シンデレラさ~♪……って、誤魔化さないでよ!しかも他人事みたいに!」
結局、この後高坂を納得させるのに、結構な時間がかかった。
その間、高坂の寝顔が頭に焼き付いていて、何度も噛んでしまったのだが。
…………今回ばかりは、自分の理性を褒めてやりたい。