捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第49話

 朝の光がカーテンの隙間から微かに射し込み、瞼を照らし、ゆっくりと目が覚めていく。あれから一度も起きることなく、どっぷりと夢の中にいたようだ。いや、夢すら見ていない。

 ……今、何時だ?

 携帯で時間を確かめようと、じわり目を開ける。

 すると、目の前に高坂の寝顔があった。

 ……………………は?

 もう一度目を瞑る。

 そして、また開く。

 そこには間違いなく高坂の寝顔がある。

 

「…………」

 

 口を開こうにも、驚きやら何やらで言葉が出てこない。

 昨日のように鼓動が高鳴っていくのを感じ、色々と思い出してしまった。

 な、何で、こいつ、俺のベッドの中に……。

 いや、こいつの事だから、夜中トイレに起きて、そのまま寝ぼけてこっちに来たとかいうラノベとかギャルゲー的なアレかもしれん……!

 とにかく抜け出さないと……。

 ゆっくりベッドから出ようとすると、いきなり高坂がガバッと動いた。

 

「っ!」

「ん~~~~」

 

 正面から抱きつかれ、さっきより顔が近くなる。こいつ、どんな寝相してんだよ!!

 目の前で艶やかな唇が、もにゅもにゅ動いて、ふわふわした言葉を吐息と共に紡ぐ。

 

「ん~~……ゆ~きほ~……もう……食べれな~い~……」

 

 おい。人がピンチの時にどんな夢見てんの?

 正直、鼻先に寝息がかかる度に、理性やら何やらがガリガリ削られていき、意識がとろんと何かに支配されそうになる。

 ……正直、この無防備すぎる寝顔を見ていたら……。

 なので、そっと視線を下に向けると、東條さんや絢瀬さんのように、豊満とまではいかないが、それでもはっきりと女性を意識させる谷間が控えめに覗いていた。

 俺はどこに視線をやればいいかわからず、ぎゅっと目を瞑る。マジでどうすんだ、これ……!

 すると、また昨夜のようにノックの後、数秒経ってからドアが開けられる。

 

「お兄ちゃん、穂乃果さんがいないんだけど……ほぁ!?」

「…………」

 

 とりあえず目を瞑ったまま、やり過ごすことにしよう……いや、本当にそれしか無理。てか、さっきから吐息が口元にかかり、本当にやばい。

 

「あわわ……こ、小町の知らない内に……ここまで!」

 

 小町が慌てふためいている。小町ちゃん、とりあえず今は部屋を出てくれませんかねえ……。

 

「んん……?」

 

 高坂のもごもごした声が聞こえてくる。おい、ま、まさか、このタイミングで?

 確認しようと目を開けると、高坂と目が合った。そりゃもうバッチリと。

 だが、彼女の目はまだ虚ろだ。まあ、それも長くはないだろうが。

 彼女は俺の瞳をぼーっと覗き込んできた。

 

「ん~~……………………ん!?」

 

 そして、急に目を見開かせる。これは、いよいよ本格的に目を覚ますところだろう。今回に関しては俺は悪くないはずだし、ポルターガイストで窓の外に飛ばされたりしないが、それでも緊張はする……しすぎて、冷静に現状を認識するしかできないまである。

 

「ぇえ……あ……」

「…………」

「……二人は大人になっちゃったんだね……小町、嬉しいよ」

 

 そう言って、小町は部屋を出て、ドアを閉めた。

 

「お、大人?ひ、ひ、比企谷君?え、ウソ、なんで?」

「…………そろそろ離して欲しいんだが」

「っ!」

 

 高坂は、慌てて俺から距離をとり、頭を抱え、自分の行動を思い返している。

 そして、俺が起き上がると、真っ赤な顔のまま、肩を揺さぶってきた。

 

「えっ!?大人って何なの!?どういう事なの!!?」

「……大人の階段昇る君はまだー」

「シンデレラさ~♪……って、誤魔化さないでよ!しかも他人事みたいに!」

 

 結局、この後高坂を納得させるのに、結構な時間がかかった。

 その間、高坂の寝顔が頭に焼き付いていて、何度も噛んでしまったのだが。

 …………今回ばかりは、自分の理性を褒めてやりたい。

 


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