川……何とかさん……あ、川崎か。
川崎は、何故か頬を赤く染めながら、つかつかと歩み寄り、距離を詰めてきた。彼女が足を踏み出す度に、トレードマークともいえるポニーテールが、やたら元気よく跳ね、存在感をアピールしている。
その勢いにたじろぎながら、目を眇めると、彼女はさっきまでの勢いとは裏腹に、すごくオドオドしながら口を開いた。
「あ、あの……ちょっと、いい?」
「…………おう」
「アンタさ……さっきの子と知り合い?」
「いや、知り合いじゃなかったら、わざわざ駅で見送らないだろ」
「まあ、それはそうなんだけど……そういう事じゃなくて……」
「?」
一体何が言いたいのだろうか。
もうこちらから聞こうと口を開きかけると、それを遮るように彼女が声をあげた。
「あのっ!……あの子、μ'sの高坂さん、でしょ?」
「あ、ああ……」
「μ'sのライブってどうやったら生で観れるの!?」
意外すぎる質問に、つい呆けた声で返事をしてしまう。
川崎がスクールアイドルに興味があるのが意外すぎたのだろう。
いや、もしかしたら……
「なあ、川崎。実はお前……スクールアイドル始めたいのか?」
「は?アンタ何言ってんの?バカじゃないの?」
「…………」
怖っ!やっぱ川崎さん怖ぇよ……。
とはいえ、普段の調子を取り戻したことに安堵しながら、話を進める。
「じゃあ、大志か?」
「違う。妹がμ's好きなの。それで……」
「……ああ、わかった。まあ、高坂に言ったら喜ぶと思うぞ」
「そ、そう?」
「それに、今度ライブやるって言ってたから……まあ、丁度いいんじゃないか?多分」
「……そうなんだ」
川崎はこくりと頷いてから、何故かじぃっとこちらを見ている。
「……何だよ」
「いや、その……正直驚いた」
「何がだよ」
「アンタが……μ'sの子と付き合ってるなんて」
「は?」
「え?だって……付き合ってるんでしょ?」
「いや、付き合ってないんだけど……何それ、どこ情報?」
「……ふーん」
川崎は自分から言ってきた割には、大して興味なさそうにそっぽを向いた。
「じゃ、じゃあ、アタシもう行くから」
「……おう」
そそくさと立ち去る彼女とほぼ同時に俺も歩き始める。
……付き合ってるとか……本当にどこをどう見たんだか。
俺は頬に手の甲を当て、顔が熱くなってないかを確認したが、よくわからずに、しばらくそのままで歩き続けた。
*******
うぅ……電車なのにまた顔赤くなってる、比企谷君のバカ、バカ!
ダメだよ、これじゃあ!ライブに集中しなきゃ!