一人きりになると、いきなり現実に引き戻され、やけにのっぺりとした静寂が訪れる。
普段なら何てことのない時間が、寂しく感じられた。
正直、この感覚には慣れない。
一人に慣れすぎていたから。
誰かに期待するのはやめたから。
自分に向けられる感情の裏を読もうとするのが当たり前になっていたから。
俺はかぶりを振って、深呼吸し、止まらない思考を打ち切る。少なくとも今考える事じゃない。
「八幡君」
背後から声がかかり、振り向くと、制服姿の高坂が割と近くにいた。どうやら考えるのに夢中で全然気づかなかったようだ。
目が合うと、彼女はにっこり微笑んだ。
「行こっか」
「ああ。てか、もういいのか?」
「うん。むしろ、ちゃんと見送るように言われちゃった」
「そっか……じゃあ、行くか」
「うんっ!」
どちらからともなく俺達は歩き始めた。
いつもより歩幅が揃っている気がした。
*******
秋葉原の街は当たり前のように混みあっていて、祭りのように人の声があちこち行き交っている。
そんな中を、俺と高坂は並んで、ゆっくりと歩いた。
「えっ?八幡君の家、猫いたの!?」
「ああ、そういやお前が来てる間、母ちゃんの部屋に避難してたな」
「避難ってどういう意味?」
「いや、ほら……まあ、あれだよ」
「言い訳がテキトーすぎるよ!でも、今度行った時触らせてね?」
「カマクラの機嫌次第だかな」
「カマクラちゃんかぁ……」
高坂はうっとりした表情でカマクラに思いを馳せている。お泊まりやら何やらの問題もあったので、この手の話は気まずくなるかもと思っていたのだが、高坂はいつもの調子に戻っていた。
「……ねえ、八幡君」
「?」
「私のこと、穂乃果って呼んで?」
「ああ…………は?」
何の脈絡もない唐突すぎるお願いに、思わず高坂の方を見てしまう。
しかし、彼女は前を向いたまま、てくてく足を進めていく。
おいていかれないように、こちらも同じように歩き続けると、その頬がほんのり赤い事に気づく。
それを前に怖じ気づくのは、何だかフェアじゃない気がした。
俺は、ぼそぼそと口を動かし、彼女の名前を口にする。
「…………か」
「…………」
彼女は前を向いたままだ。だが肩は動いたので、どうやら聞こえないといいたいらしい。
……覚悟を決めろってか。
俺は雲一つない空を見上げてから首筋をかき、もう一度挑戦してみた。
「…………ほの「高坂さん、よね?」……」
「はい?……あ」
突然割り込んできた声に振り向く。そこにいたのは……
「綺羅、ツバサさん……?」