捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

55 / 120
第55話

 マジか……まさか、こんな所で遭遇するなんて……。

 目の前にいる少女こそ、全国ナンバーワンスクールアイドルグループ・A-RISEのリーダー、綺羅ツバサである。

 間近で見ると意外なくらい小柄な体躯からは、優雅なオーラが滲み出ていて、雪ノ下姉妹にも通じるような勝者の風格がある。

 彼女は穏やかな笑みのまま、俺に「ちょっとごめんね」と頭を下げ、ポカンとしている高坂に一歩歩み寄った。

 

「初めまして。A-RISEの綺羅ツバサです。μ'sの新曲聴かせてもらったわ。すごくよかった」

「あ、ありがとうございます!す、すごく嬉しいです!」

「確か、あんじゅとはもう会ってるのよね?」

「は、はいっ、この前……」

 

 二人で会話を始めたので、俺は少し離れたベンチに腰かける。大丈夫だとは思うが、俺の存在が彼女の株を下げてはならない。

 ここはなるべく……

 

「ところで……」

 

 いきなり彼女の視線がこちらを向き、俺は身を強張らせる。

 まさか、いらん誤解を……

 

「高坂さんってお兄さんがいたのね。あまり似ていないけど」

「え?」

「…………」

 

 なんか訳のわからない事を言い出したんだが……。

 一応高坂の顔を見てみるが、どう見ても兄妹には見えない。まあ、それを言ってしまえば、小町とも似ていない気もするが……天使すぎるし。

 とにかく、そのぐらいあり得ないことを綺羅ツバサは口にしていた。

 高坂は、はっと気づいたように首を振る。

 

「ち、違いますよ!兄妹じゃないですよ!」

「え?そうなの……でも、クラスメートじゃないんでしょう?音ノ木坂は女子校だし……」

「えっと……八幡君は、千葉にいる……その……友達と言いますか……」

 

 高坂は何故かあちこちに視線をさまよわせ、一文字ずつ確かめるように答えた。

 その照れたような横顔に落ち着かない気分になると、綺羅ツバサさんは、驚愕という言葉がぴったりの表情を浮かべた。

 

「何……ですって……」

 

 おい、どうした。誰も卍解したり、真の姿を見せたりしてねえぞ。

 

「あの……ツバサさん?」

「し、親族でもない、同じ学校でもない男子と堂々と街を出歩くなんて……」

「…………」

 

 彼女は耳まで真っ赤にして、頭を抱えている。

 何だ、このリアクション……初々しいとは違う何かを感じる。

 

「私なんてまだ……何がオーラがあって話しかけづらいよ……何が怖そうよ……何が俺なんかには無理よ……rd○÷△□×+……」

「「…………」」

 

 ツバサはこんらん……いや、こうふんしている!

 何だ、このドス黒いオーラ……level6どころか7に到達したんだろうか?

 俺達は、彼女が我に返るまで、ゆっくりと見守ることにした。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。