マジか……まさか、こんな所で遭遇するなんて……。
目の前にいる少女こそ、全国ナンバーワンスクールアイドルグループ・A-RISEのリーダー、綺羅ツバサである。
間近で見ると意外なくらい小柄な体躯からは、優雅なオーラが滲み出ていて、雪ノ下姉妹にも通じるような勝者の風格がある。
彼女は穏やかな笑みのまま、俺に「ちょっとごめんね」と頭を下げ、ポカンとしている高坂に一歩歩み寄った。
「初めまして。A-RISEの綺羅ツバサです。μ'sの新曲聴かせてもらったわ。すごくよかった」
「あ、ありがとうございます!す、すごく嬉しいです!」
「確か、あんじゅとはもう会ってるのよね?」
「は、はいっ、この前……」
二人で会話を始めたので、俺は少し離れたベンチに腰かける。大丈夫だとは思うが、俺の存在が彼女の株を下げてはならない。
ここはなるべく……
「ところで……」
いきなり彼女の視線がこちらを向き、俺は身を強張らせる。
まさか、いらん誤解を……
「高坂さんってお兄さんがいたのね。あまり似ていないけど」
「え?」
「…………」
なんか訳のわからない事を言い出したんだが……。
一応高坂の顔を見てみるが、どう見ても兄妹には見えない。まあ、それを言ってしまえば、小町とも似ていない気もするが……天使すぎるし。
とにかく、そのぐらいあり得ないことを綺羅ツバサは口にしていた。
高坂は、はっと気づいたように首を振る。
「ち、違いますよ!兄妹じゃないですよ!」
「え?そうなの……でも、クラスメートじゃないんでしょう?音ノ木坂は女子校だし……」
「えっと……八幡君は、千葉にいる……その……友達と言いますか……」
高坂は何故かあちこちに視線をさまよわせ、一文字ずつ確かめるように答えた。
その照れたような横顔に落ち着かない気分になると、綺羅ツバサさんは、驚愕という言葉がぴったりの表情を浮かべた。
「何……ですって……」
おい、どうした。誰も卍解したり、真の姿を見せたりしてねえぞ。
「あの……ツバサさん?」
「し、親族でもない、同じ学校でもない男子と堂々と街を出歩くなんて……」
「…………」
彼女は耳まで真っ赤にして、頭を抱えている。
何だ、このリアクション……初々しいとは違う何かを感じる。
「私なんてまだ……何がオーラがあって話しかけづらいよ……何が怖そうよ……何が俺なんかには無理よ……rd○÷△□×+……」
「「…………」」
ツバサはこんらん……いや、こうふんしている!
何だ、このドス黒いオーラ……level6どころか7に到達したんだろうか?
俺達は、彼女が我に返るまで、ゆっくりと見守ることにした。