捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第57話

 ようやく解放された俺達は、やや疲れ気味に駅までの道を歩いた。まさかあんなに質問攻めにされるとは思わなかった……。

 

「ツバサさんって……結構……お茶目、なんだね」

 

 高坂が珍しく慎重に言葉を選びながら、苦笑いする。お茶目……まあいい。それ以上言うまい。ああなったのは、正直すぎた俺にも原因はある。

 

「まあ、よかったんじゃねえの?お前、結構仲良く話してたし」

「そう、かな?八幡君のほうがずっとお喋りしてた気がするけど」

「いや、あれをお喋りとは言わんだろ」

 

 威圧感の消し方とか聞かれても、威圧感どころか存在感のない俺にはちっともわからない。性格良ければいいとか、そんなの嘘だと思いませんか?

 まあ、とにかく……本当に何だったんだ、あのテンション……。

 そうこうしている内に駅に到着し、どちらからともなく立ち止まる。

 それと同時に、まだ夏の名残りを感じさせる陽射しの強さに、改めて気づいた。

 

「……暑いね」

「ああ。今さらだが……てか、さっきの……」

「だ、大丈夫!また今度でいいから!」

「そっか」

「うんっ、じゃあまたね!今日はありがと!」

 

 ひらひら手を振ると、高坂は身を翻し、早歩きで来た道を戻り始めた。

 俺はその背中に……声をかけた。

 

「じゃあな…………穂乃果」

「っ!」

 

 聞こえなくても仕方ないくらいの声だった。

 しかし、彼女は立ち止まり、こちらを振り返った。

 その表情は、信じられないものを見ているようだった。いや、驚きすぎだろ。さっき言いかけてただろうが。

 

「えっと、今……」

「じゃあな、もう行くわ」

 

 何だか気恥ずかしくなり、こっそり逃げるように改札に向かうと、高坂が駆け寄ってきて、俺の真正面に立った。その頬はやけに紅く、目は少し泳いでいる。

 

「……な、何だ?」

「…………い」

「?」

「もう一回……言ってくれないかな?その……聞こえなかったから」

「…………」

 

 まあ、実際声が小さかったし、嘘ではないのかもしれない。

 俺は顔が徐々に火照っていくのを感じながら、もう一度口を開く。

 

「……じゃあな」

「えっ、そこだけ!?違うよっ!その後だよ~!」

「あー、記憶にございません」

「今時そんな言い訳誰も使わないよ!」

「いや、めっちゃ使うぞ。俺とか」

「八幡君のイジワルっ!もう知らないっ」

 

 高坂はそっぽを向きながら、ちらちらこっちを見てくる。

 ……今、一瞬だけ可愛いとか思いかけた気がしないでもない……。

 俺はかぶりを振ってから、彼女の横顔に声をかけた。

 

「……ほ、穂乃果」

 

 彼女は目を見開き、それからゆっくりと頷いた。

 

「……はいっ……えへへ」

 

 ただ呼び方が変わっただけなのに、彼女はにへらと笑い、今度は距離を詰めてくる。いつもの柑橘系の香りと共に、やわらかな笑顔に心を溶かされた気分になった。

 

「じゃあ、念のためにもう一回♪」

「いや、言わないから。大体念のためって何だよ……」

「念のためは念のためだよっ、さっ、今の感覚を忘れないうちに!ねっ?」

「だから言わないから……」

「え~~!?八幡君のケチ!」

 

 それはほんの些細な事だと思う。

 大抵の奴は、意識せずに自然とできている事だと思う。

 ただ、それでも自分の中では大きな一歩には違いなくて。

 俺と高さ……穂乃果の間では、確かに何かが変わり始めていた。

 そして、それを後押しするように、微かに秋めいてきた夕暮れの風が、二人を包み込んだ。


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