捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第60話

 ライブはA-RISEのステージから始まった。

 μ'sの時もそうだったが、映像では何度も観たことがあっても、生で観ると迫力が全然違う。

 素人目に見ても洗練されているのがわかるパフォーマンスには、あっという間に会場全体が引き込まれた。

 

「すごい……」

 

 誰の口から漏れた言葉かはわからないが、それは会場全体の感想を代弁しているかのようだった。

 そしてパフォーマンスが終わった瞬間、会場内は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。

 

「「「ありがとうございました!!」」」

 

 深々と頭を下げる3人に、音ノ木坂の制服を着た女子生徒も惜しみない拍手を送っていた。

 

「八幡、凄かったね!」

「……ああ」

 

 俺はステージを去っていくA-RISEの背中を見ながら、次ステージに上がるμ'sの……彼女の事を考えていた。

 

 *******

 

「よ~し、せっかくあんなすごい人達と一緒のステージに立てるんだから、全力を出し切ろう!!1!」

「2!」

「3!」

「4!」

「5!」

「6!」

「7!」

「8!」

「9!」

「μ's!ミュージック……」

『スタート!!!』

 

 *******

 

 μ'sのメンバーがステージに立つと、こちらもA-RISEに負けないくらいの歓声が響いた。隣にいる小町も「穂乃果さ~ん!!」と力いっぱい叫んでいるし、高坂父に至っては、ペンライトを指の間に挟んでいて、今にもオタ芸を披露しそうだ。

 俺も拍手をしながらステージに集中すると、穂乃果と目が合った。

 特別ステージに近いわけではないし、普段なら気のせいと思うくらいだが、不思議な確信があった。

 彼女は……純粋な瞳で、力強く微笑んでいた。

 その真っ直ぐさに、胸が高鳴るのを感じる。

 やがて、曲が始まった。

 

 *******

 

 何故だかわからないが、寒くもないのに鳥肌がたっていた。

 μ'sのライブはこれまでに何度か生で観たことがある。

 その中でも、今回のライブはこれまでで最高だったと断言できた。

 専門的なことはわかりはしないが、俺はこのライブで、心が奮えるという経験に、人生で初めて出会った気がする。

 それほどまでに心を奪われていた。そして……

 

『ありがとうございました!!!』

 

 その言葉と共に、会場内がA-RISEに負けないくらいの拍手と歓声で沸き上がる。

 あまりの熱量にポカンとしながらステージを見ていると、さっきと同じように穂乃果と目が合う。

 つられるようにじっと目を凝らして見てみると、彼女の唇が動いているように見えた。

 

『ありがとう』

 

 こんな偶然に意味を付け足すのは馬鹿げていると思いながらも、俺は彼女と同じはずの言葉を口にした。

 

『ありがとう』

 

 そのやり取りに呼応するかのように、最高のメロディーの余韻が、胸の中にほんのりと温かな灯を点した。


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