捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第65話

「あ~、すっきりした♪」

「そりゃあよかったな」

「何かやりたいゲームある?メロンパンのお礼に私があと一回出すよ!」

「やたらドヤ顔してんな。つってもやりたいゲーム……」

 

 いきなり言われてもパッと思いつかない。約束を果たしただけなのに、何か恩を返そうとされるのも違う気がするし、さすがに申し訳ない。

 

「なあ、俺は別に……」

「八幡君、か、隠れて!」

「っ!?」

 

 穂乃果が再び俺の腕を引き、近くにあったプリクラのカーテンの内側へと連れ込む。肘の辺りに柔らかな感触が当たり、急に緊張に似たおかしな感覚が、頭の中を埋め尽くした。

 

「お、お前、いきなり……」

「しっ!静かにして……」

 

 何がどうしたのかと考えながらカーテンの隙間を覗くと、そこには最近見慣れた三人組がいた。

 

「……今、何か感じたわ」

「エリチ、そんなスピリチュアルな特技あったん?」

「ま~た比企谷君関連じゃないの?彼が絡むと急におかしくなるみたいだし」

「おかしくないチカ」

「その語尾が既におかしいのよ!!まったく……いい?私達はスクールアイドルなのよ?恋愛にかまけてるヒマなんて一日たりとも……って聞きなさいよ!」

「エリチ、ゲームセンターの中で瞑想したらあかんよ」

 

 まさかの三年生組。別に見つかったからどうというわけでもないが、東條さんのキャラや、矢澤さんの真面目さや、絢瀬さんの謎テンションを考えると、大人しく隠れるのが賢明な気がした。

 

「まさか三人がここに来るなんて……あ」

 

 急に何かに気づいたような反応を見せた穂乃果が、お金を機械に入れ、作動させる。

 

「……何やってるんだ?」

「だって入ったからにはちゃんと写真撮らないと。怪しまれるじゃん!ほら……」

「?」

 

 もう一度カーテンの隙間を覗いてみると、μ's三年生組はいなくなっていて、今度は別の三人組がこちらに視線を向けていた。

 

「ねえ、あそこから怪しい気配がするわ」

「多分、中でいかがわしいことをしてるのよ!」

「マジひくわー」

 

 いや、おかしいだろ。

 何を疑われてるんだよ。何をひかれてるんだよ。

 まあ、とにかく一応撮っておいたほうがよさそうだ。色々釈然としないが……。

 穂乃果のほうは、いつの間にかフレーム選びまで終えていた。夜っぽい雰囲気と流れ星っぽい模様が特徴的な落ち着いたフレームである。

 

「……意外だな」

「何が?」

「いや、お前はこう……無駄に明るい感じが好きだと思ったんだが……」

「うん、そうだよ」

「じゃあ、何で……」

「……八幡君と撮るならこっちの方がいいと思ったの」

「……そっか」

 

 その横顔からは彼女の思考は読めなかったが、つい何かを確認するようにじっと見てしまった。

 

「さっ、撮るよ!もうちょっとこっち来て!」

「あ、ああ……」

 

 一歩だけ彼女に近寄ると、いつもの柑橘系の香りに鼻腔をくすぐられる。何故この香りはこんなにも心をかき乱すのか。

 すると、カチリと音がする。

 

「えっ?もう撮ったの?」

「う、うん……ちょっと早かったかも」

「……撮り直すか?」

「ん~、八幡君がよければ、このままでいいかな?」

「……別にいいけど」

 

 *******

 

 写真を撮り終え、辺りを警戒しながら、カーテンの外へ出ると、穂乃果がクスッと吹き出した。

 

「あははっ、八幡君、変な顔してる~」

「は?いや、そっちも大概俯いてるだろうが……」

 

 プリントされた写真に目を通すと、俺も穂乃果も表情は強張っていた。目線もどこを見てるのかとツッコミたくなるくらいだ。だが……

 

「ふふっ……」

 

 穂乃果はやわらかく微笑んでいた。

 その微笑みと眼差しには普段見られない大人びた雰囲気があり、しばらく魅入ってしまっていた。

 

 

 

 


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