「あ~、すっきりした♪」
「そりゃあよかったな」
「何かやりたいゲームある?メロンパンのお礼に私があと一回出すよ!」
「やたらドヤ顔してんな。つってもやりたいゲーム……」
いきなり言われてもパッと思いつかない。約束を果たしただけなのに、何か恩を返そうとされるのも違う気がするし、さすがに申し訳ない。
「なあ、俺は別に……」
「八幡君、か、隠れて!」
「っ!?」
穂乃果が再び俺の腕を引き、近くにあったプリクラのカーテンの内側へと連れ込む。肘の辺りに柔らかな感触が当たり、急に緊張に似たおかしな感覚が、頭の中を埋め尽くした。
「お、お前、いきなり……」
「しっ!静かにして……」
何がどうしたのかと考えながらカーテンの隙間を覗くと、そこには最近見慣れた三人組がいた。
「……今、何か感じたわ」
「エリチ、そんなスピリチュアルな特技あったん?」
「ま~た比企谷君関連じゃないの?彼が絡むと急におかしくなるみたいだし」
「おかしくないチカ」
「その語尾が既におかしいのよ!!まったく……いい?私達はスクールアイドルなのよ?恋愛にかまけてるヒマなんて一日たりとも……って聞きなさいよ!」
「エリチ、ゲームセンターの中で瞑想したらあかんよ」
まさかの三年生組。別に見つかったからどうというわけでもないが、東條さんのキャラや、矢澤さんの真面目さや、絢瀬さんの謎テンションを考えると、大人しく隠れるのが賢明な気がした。
「まさか三人がここに来るなんて……あ」
急に何かに気づいたような反応を見せた穂乃果が、お金を機械に入れ、作動させる。
「……何やってるんだ?」
「だって入ったからにはちゃんと写真撮らないと。怪しまれるじゃん!ほら……」
「?」
もう一度カーテンの隙間を覗いてみると、μ's三年生組はいなくなっていて、今度は別の三人組がこちらに視線を向けていた。
「ねえ、あそこから怪しい気配がするわ」
「多分、中でいかがわしいことをしてるのよ!」
「マジひくわー」
いや、おかしいだろ。
何を疑われてるんだよ。何をひかれてるんだよ。
まあ、とにかく一応撮っておいたほうがよさそうだ。色々釈然としないが……。
穂乃果のほうは、いつの間にかフレーム選びまで終えていた。夜っぽい雰囲気と流れ星っぽい模様が特徴的な落ち着いたフレームである。
「……意外だな」
「何が?」
「いや、お前はこう……無駄に明るい感じが好きだと思ったんだが……」
「うん、そうだよ」
「じゃあ、何で……」
「……八幡君と撮るならこっちの方がいいと思ったの」
「……そっか」
その横顔からは彼女の思考は読めなかったが、つい何かを確認するようにじっと見てしまった。
「さっ、撮るよ!もうちょっとこっち来て!」
「あ、ああ……」
一歩だけ彼女に近寄ると、いつもの柑橘系の香りに鼻腔をくすぐられる。何故この香りはこんなにも心をかき乱すのか。
すると、カチリと音がする。
「えっ?もう撮ったの?」
「う、うん……ちょっと早かったかも」
「……撮り直すか?」
「ん~、八幡君がよければ、このままでいいかな?」
「……別にいいけど」
*******
写真を撮り終え、辺りを警戒しながら、カーテンの外へ出ると、穂乃果がクスッと吹き出した。
「あははっ、八幡君、変な顔してる~」
「は?いや、そっちも大概俯いてるだろうが……」
プリントされた写真に目を通すと、俺も穂乃果も表情は強張っていた。目線もどこを見てるのかとツッコミたくなるくらいだ。だが……
「ふふっ……」
穂乃果はやわらかく微笑んでいた。
その微笑みと眼差しには普段見られない大人びた雰囲気があり、しばらく魅入ってしまっていた。