「悪いな……前日にいきなり頼んで……」
「ううん、全然!八幡が僕に頼み事してくれるなんて嬉しいよ!」
穂乃果から誘われた……というか頼まれた用事に、俺は戸塚を誘っていくことにした。
理由は、穂乃果から誰かもう一人男子を連れてきて欲しいと頼まれたのと、こういう場所に連れていける男子の知り合いが戸塚しかいなかったからである。さすがにコートを着た変質者を連れていくわけにはいかない。
前日の電話にも関わらず、戸塚は二つ返事で了承してくれた。この様子だと、何ならウェディングドレスも着てくれるまである。
「ところで八幡、今日って何をやるのかな?」
「……俺もよくわからん。とにかく来てくれって言われて、あとは誤魔化されたからな」
「そうなんだ。……ふふっ」
「どした?」
いきなり可愛らしく微笑まれ、ついドキッとしてしまう。
戸塚は何故か嬉しそうに口を開いた。
「あ、ごめん。なんか八幡、変わったなって……」
「……かもな」
「否定しないんだね」
「いや、別に否定することでもない」
「そっか。あ、あれ……」
撮影が行われる式場が見えてくると、先に到着していた穂乃果がこちらにブンブン手を振っていた。
「お~い、こっちこっち~!」
いや、そんなに騒がなくてもわかるっての。
見たところ彼女は制服姿だが、これから一体何が始まるのか……。
ある程度距離が近くなると、穂乃果は自分から駆け寄ってきた。
「おはよう、八幡君、戸塚君。今日は来てくれてありがと」
「ううん、全然平気だよ。むしろ僕がいきなり来てよかったの?」
「うんっ、男の子がもう一人欲しいって言ってたから」
「そういや、今日って何やるのかそろそろ教えて欲しいんだが……」
「あ、そうだね……じゃあとりあえず中に入って」
「「?」」
何故か頬を染めた穂乃果に、俺達は首を傾げることしかできなかった。
*******
「…………マジか」
「とってもお似合いですよ~♪」
スタッフのお世辞か本気かもわからない言葉にうなずきながら、姿見に映る自分の姿をもう一度確認する。
そこにいるのは、目の腐った新郎っぽい何か……ていうか俺だった。
……違和感しかねえ。
髪もすっかりセットされ、ビシッとタキシードで決めているだけに、どんよりした目つきが余計に浮いている。
とりあえず、今から何をするのかは理解した。
どうやら、ウェディングドレスのモデルをするにあたり、一応新郎役がいたほうがいいというわけで、俺と戸塚がその大役を務める羽目になったわけだが……。
鏡の中の自分とにらめっこしていると、コンコンとドアをノックされた。
返事をすると、先に着替え終えた戸塚が可愛らしくひょっこり顔を出した。
「わあ、八幡かっこいいね!似合ってるよ!」
「……そ、そうか?」
あ、もう今日はこれで満足だわー。帰っていい?いいわけないか。
夢見心地になりながら戸塚の格好を見てみると、何故かウェディングドレスじゃなく、タキシードに着替えていた。何度目をこすっても、当たり前だが現実は変わらない。あれ?おかしいな……
「…………」
「は、八幡?」
「……いや、何でも……ない……」
「な、何で残念そうなの、八幡!?」