戸塚とぽつぽつ会話しながら外の穏やかな風景を見ていると、ドア越しにスタッフさんから呼ばれたので、式場へと向かった。
「楽しみだね、八幡」
「あ、ああ……」
ここだけ切り取れば俺と戸塚が結婚するように思えなくもない、のか……?いや、戸塚は男、戸塚は男、戸塚は男……。
心の中で念じているうちに、ドラマなんかで見たことのある派手な装飾のドアの前に到着した。
……今さらだが、穂乃果はどんなドレスを着ているのだろうか?
正直想像がつかない。
いや、きっと似合うんだろうけど……。
……やべえ、なんか緊張してきたんだけど……。
すると、戸塚が一歩前に踏み出した。
「あの……失礼します」
「っ!」
まだ心の準備が整っていないうちに開けられ、緊張が背筋を走った……のだが……
「あ、八幡君」
「…………」
俺は言葉を失っていた。
「ーーーーー」
「ーーーーー」
周りの音も聞こえなくなっていた。
「八幡君?どうしたの?」
隣に戸塚がいて、彼女の周りに他のメンバーがいるのはわかっている。しかし……。
「もうっ、八幡君ってば!」
「…………」
俺は穂乃果のウェディングドレス姿に、完全に心を奪われていた。
胸がドクン、ドクンとこれまでにない高鳴りで、心の奥底を揺さぶる。
それほどまでに……
「八幡くーん、もしもーし」
「っ……あ、いや……」
ようやく口が開いたが、まともに言葉を紡げそうもない。
それだけでなく、頬が紅くなっているのが鏡を見ずともわかってしまい、つい顔を背けてしまう。てか、やばい。何がやばいのかわからないけどやばい。
しかし、そんなこちらの気も知らずに、彼女はまた距離を詰めてくる。
「どうしたの?ちゃんと見てよ~!」
「あ、ああ……いい感じだ」
「だから見てってば~!」
「見てるっての……だから……」
「ウソだー!あっ……」
「っ!!」
何かに躓いたのか、穂乃果がこちらに倒れ込んできたので、慌てて支えた。
ふわふわした感触と、いつもとは違う香りがさらに頭の中を彼女の事で埋めつくし、最早微動だにできない。
そんな中、彼女は顔を上げ、至近距離から上目遣いでこちらを覗き込んでくる。
「ごめ~ん……だ、大丈夫?」
「あ、ああ……その……そっちは?」
「大丈夫、だよ。それで、その……どう、かな?八幡君にはちゃんと見て欲しいんだけど……」
真っ直ぐな問いかけ。
彼女らしい飾り気のない言葉に、今となっては誤魔化して返す事などできるはずもなかった。
俺は腹を決め、彼女の瞳をもう一度しっかりと見て、はっきり口を開く。
「…………綺麗だと思う」
「…………」
何故か穂乃果はポカンとしていた。あれ?俺なんか言い間違えたのか……?
不安が湧き始めた頃、急に穂乃果の顔が紅くなった。そりゃもう、効果音が出そうなほどに……。
「あわわわわ……え?あれ?えと……あの……」
「…………」
正直こっちの方が恥ずかしい。そっちが言えって言ったんだろうが。
穂乃果はやたらと目を泳がせていたが、やがてはっとしたように首を振り、にっこりと笑顔を浮かべた。
「あ、ありがとう……すごく嬉しい。えへへ……」
「……そっか」
その笑顔に、心の奥の何かが溶けていく感覚がした。多分、いや、間違いなく俺は……
「あの~、お二人さん?そろそろ二人だけの世界から戻ってきてくれんかなあ?」
「「……はい」」