捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

68 / 120
第68話

 戸塚とぽつぽつ会話しながら外の穏やかな風景を見ていると、ドア越しにスタッフさんから呼ばれたので、式場へと向かった。

 

「楽しみだね、八幡」

「あ、ああ……」

 

 ここだけ切り取れば俺と戸塚が結婚するように思えなくもない、のか……?いや、戸塚は男、戸塚は男、戸塚は男……。

 心の中で念じているうちに、ドラマなんかで見たことのある派手な装飾のドアの前に到着した。

 ……今さらだが、穂乃果はどんなドレスを着ているのだろうか?

 正直想像がつかない。

 いや、きっと似合うんだろうけど……。

 ……やべえ、なんか緊張してきたんだけど……。

 すると、戸塚が一歩前に踏み出した。

 

「あの……失礼します」

「っ!」

 

 まだ心の準備が整っていないうちに開けられ、緊張が背筋を走った……のだが……

 

「あ、八幡君」

「…………」

 

 俺は言葉を失っていた。

 

「ーーーーー」

「ーーーーー」

 

 周りの音も聞こえなくなっていた。

 

「八幡君?どうしたの?」

 

 隣に戸塚がいて、彼女の周りに他のメンバーがいるのはわかっている。しかし……。

 

「もうっ、八幡君ってば!」

「…………」

 

 俺は穂乃果のウェディングドレス姿に、完全に心を奪われていた。

 胸がドクン、ドクンとこれまでにない高鳴りで、心の奥底を揺さぶる。

 それほどまでに……

 

「八幡くーん、もしもーし」

「っ……あ、いや……」

 

 ようやく口が開いたが、まともに言葉を紡げそうもない。

 それだけでなく、頬が紅くなっているのが鏡を見ずともわかってしまい、つい顔を背けてしまう。てか、やばい。何がやばいのかわからないけどやばい。

 しかし、そんなこちらの気も知らずに、彼女はまた距離を詰めてくる。

 

「どうしたの?ちゃんと見てよ~!」

「あ、ああ……いい感じだ」

「だから見てってば~!」

「見てるっての……だから……」

「ウソだー!あっ……」

「っ!!」

 

 何かに躓いたのか、穂乃果がこちらに倒れ込んできたので、慌てて支えた。

 ふわふわした感触と、いつもとは違う香りがさらに頭の中を彼女の事で埋めつくし、最早微動だにできない。

 そんな中、彼女は顔を上げ、至近距離から上目遣いでこちらを覗き込んでくる。

 

「ごめ~ん……だ、大丈夫?」

「あ、ああ……その……そっちは?」

「大丈夫、だよ。それで、その……どう、かな?八幡君にはちゃんと見て欲しいんだけど……」

 

 真っ直ぐな問いかけ。

 彼女らしい飾り気のない言葉に、今となっては誤魔化して返す事などできるはずもなかった。

 俺は腹を決め、彼女の瞳をもう一度しっかりと見て、はっきり口を開く。

 

「…………綺麗だと思う」

「…………」

 

 何故か穂乃果はポカンとしていた。あれ?俺なんか言い間違えたのか……?

 不安が湧き始めた頃、急に穂乃果の顔が紅くなった。そりゃもう、効果音が出そうなほどに……。

 

「あわわわわ……え?あれ?えと……あの……」

「…………」

 

 正直こっちの方が恥ずかしい。そっちが言えって言ったんだろうが。

 穂乃果はやたらと目を泳がせていたが、やがてはっとしたように首を振り、にっこりと笑顔を浮かべた。

 

「あ、ありがとう……すごく嬉しい。えへへ……」

「……そっか」

 

 その笑顔に、心の奥の何かが溶けていく感覚がした。多分、いや、間違いなく俺は……

 

「あの~、お二人さん?そろそろ二人だけの世界から戻ってきてくれんかなあ?」

「「……はい」」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。