捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第69話

 色々あって緊張感やら何やらはあったものの、μ'sメンバーとの撮影は滞りなく進んだ。

 俺は二年生組と絢瀬さんと東條さんの五人とそれぞれツーショットで撮影し、残りのメンバーは戸塚と撮影を済ませ、あとはμ'sだけの撮影となる。

 その様子をぼんやり眺めていると、隣から視線を感じる。

 誰なのかは言うまでもなかった。

 

「戸塚、どうかしたか?」

「えっ?あ、ううん、あの……」

 

 戸塚は言いにくそうに口をもごもごさせていたが、やがて決意したように、ぐっと拳を握りしめ、真っ直ぐに俺を見た。

 

「八幡……頑張ってね」

「……ああ」

 

 何を、とは言えなかった。

 俺は頷き、『友達』からの励ましの言葉に心から感謝した。

 

 *******

 

 撮影が全て終わり、着替えを終え、しばらく外で待っていると、μ'sのメンバーが出てきた……のだが……

 

「あれ、高坂さんは?」

「今、スタッフの人と色々話してるんよ。それで先に行ってていいって……だから、比企谷君。待っといてもらえる?」

「え?ああ……はい……」

 

 何やら口調から胡散臭さを感じるが、特に断る理由もないので頷いておく。

 

「では比企谷君、今日はありがとうございました」

「楽しかったよ~」

「エリチ、本当にええの?」

「ええ。でも、しばらくは皆の期待する賢い可愛いエリーチカにはなれそうもないけど……」

「戸塚先輩も一緒に行くにゃ!」

「り、凛ちゃん、いきなり走ると危ないよっ。あ、きょ、今日はありがとうございました……」

「穂乃果がスクールアイドルだってこと忘れんじゃないわよ!」

「程々にね。それと今日はありがとうございました」

「じゃあ先に行ってるね、八幡。また後で」

「あ、ああ……」

 

 あっという間に皆がいなくなり、ポツンと式場の前で一人ぼっちになる。

 ふと空を見上げると、もうすっかり赤く染まっていて、何故かさっきの出来事を思い出していた。

 すると、いきなり視界が遮られる。

 

「だ~れだ!」

 

 目元を覆うひんやりした感触と、無駄に元気な声……てか考える必要はないな。

 

「さすがにバレバレだと思うんだが……」

「もうっ、八幡君ノリ悪い!さっきは世界一綺麗とか言ってたのに!」

「……いや、そこまで言ってないから」

 

 何でこの子はさりげなく付け足しちゃうの?

 振り向くと、ぷんすか頬を膨らませた穂乃果がいて、いつも通りの彼女にホッとしてしまった。

 

「ふぅ……この能天気さに心が落ち着く日が来るなんてな」

「なんか悪口言われてる!?さっきと反応違いすぎない!?」

 

 そうは言われても、実際落ち着くのだから仕方ない。

 俺はリラックスした気分で話を切り出した。

 

「……あー、穂乃果……」

「なぁに?」

「……今度、修学旅行があるんだが……その……」

「?」

「土産、買って渡しに行くから、何がいいか考えといてくれ」

「……うんっ、わかったよ♪今度連絡するね」

「ああ……じゃあ、行くか……」

「あっ、八幡君、ちょっと待って」

「どした?」

「えっとね……今日はありがとう!……とっても嬉しかったよ」

「…………そうか」

 

 俺達は自然と並んで歩き始める。早く行かないと皆待ちくたびれているだろう。そのうち気を遣ってもらった礼もしなければならない。

 不揃いな影は同じペースで進みながら、駅へと向かった。 


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