色々あって緊張感やら何やらはあったものの、μ'sメンバーとの撮影は滞りなく進んだ。
俺は二年生組と絢瀬さんと東條さんの五人とそれぞれツーショットで撮影し、残りのメンバーは戸塚と撮影を済ませ、あとはμ'sだけの撮影となる。
その様子をぼんやり眺めていると、隣から視線を感じる。
誰なのかは言うまでもなかった。
「戸塚、どうかしたか?」
「えっ?あ、ううん、あの……」
戸塚は言いにくそうに口をもごもごさせていたが、やがて決意したように、ぐっと拳を握りしめ、真っ直ぐに俺を見た。
「八幡……頑張ってね」
「……ああ」
何を、とは言えなかった。
俺は頷き、『友達』からの励ましの言葉に心から感謝した。
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撮影が全て終わり、着替えを終え、しばらく外で待っていると、μ'sのメンバーが出てきた……のだが……
「あれ、高坂さんは?」
「今、スタッフの人と色々話してるんよ。それで先に行ってていいって……だから、比企谷君。待っといてもらえる?」
「え?ああ……はい……」
何やら口調から胡散臭さを感じるが、特に断る理由もないので頷いておく。
「では比企谷君、今日はありがとうございました」
「楽しかったよ~」
「エリチ、本当にええの?」
「ええ。でも、しばらくは皆の期待する賢い可愛いエリーチカにはなれそうもないけど……」
「戸塚先輩も一緒に行くにゃ!」
「り、凛ちゃん、いきなり走ると危ないよっ。あ、きょ、今日はありがとうございました……」
「穂乃果がスクールアイドルだってこと忘れんじゃないわよ!」
「程々にね。それと今日はありがとうございました」
「じゃあ先に行ってるね、八幡。また後で」
「あ、ああ……」
あっという間に皆がいなくなり、ポツンと式場の前で一人ぼっちになる。
ふと空を見上げると、もうすっかり赤く染まっていて、何故かさっきの出来事を思い出していた。
すると、いきなり視界が遮られる。
「だ~れだ!」
目元を覆うひんやりした感触と、無駄に元気な声……てか考える必要はないな。
「さすがにバレバレだと思うんだが……」
「もうっ、八幡君ノリ悪い!さっきは世界一綺麗とか言ってたのに!」
「……いや、そこまで言ってないから」
何でこの子はさりげなく付け足しちゃうの?
振り向くと、ぷんすか頬を膨らませた穂乃果がいて、いつも通りの彼女にホッとしてしまった。
「ふぅ……この能天気さに心が落ち着く日が来るなんてな」
「なんか悪口言われてる!?さっきと反応違いすぎない!?」
そうは言われても、実際落ち着くのだから仕方ない。
俺はリラックスした気分で話を切り出した。
「……あー、穂乃果……」
「なぁに?」
「……今度、修学旅行があるんだが……その……」
「?」
「土産、買って渡しに行くから、何がいいか考えといてくれ」
「……うんっ、わかったよ♪今度連絡するね」
「ああ……じゃあ、行くか……」
「あっ、八幡君、ちょっと待って」
「どした?」
「えっとね……今日はありがとう!……とっても嬉しかったよ」
「…………そうか」
俺達は自然と並んで歩き始める。早く行かないと皆待ちくたびれているだろう。そのうち気を遣ってもらった礼もしなければならない。
不揃いな影は同じペースで進みながら、駅へと向かった。