捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第73話

 俺は奉仕部の二人の反応もお構い無しに飛び出し、戸部の隣に立つ。大した距離じゃないのに何故か遠く感じてしまった。

 もちろん、何の事だかわからない戸部はただただ驚いていたが、すぐにはっとして口を開く。

 

「ヒ、ヒキタニ君!?な、なんで……」

「…………」

 

 俺は戸部の方は見ずに、ようやく手放せることに安堵しながら、海老名さんに向けて真っ白な紙袋を差し出した。

 

「海老名さん、これ返すわ……はやとべ本」

「えっ!?」

「あ、うん。わざわざありがと。で、どうだった?」

「ああ、まあまあだな」

「ええっ!?」

「そっかぁ、じゃあお礼に今度とべはち本とはやはち本書かせてくれる?」

「構わん」

「えええっ!!?」

 

 戸部はさっきからやたら驚いている……まあ、当たり前か。俺も驚いている。何故こんな方法を思いついたのか。一応言っておくが読んでいない。

 しかし、そんなことお構い無しに、海老名さんは何故かテンション高めに話を続ける。

 

「まだ自分の恋愛とかには今はまったく興味がわかないけど、同志ができて嬉しいよ!」

「そっか」

「ええええっ!!?」

 

 言うまでもないが嘘である。はやはちとかとべはちに協力するつもりはない。てか、やたら目がキラキラしてんだけど、この人演技だってこと忘れてない?忘れてないよね?

 内心焦りを感じていると、彼女は腐った笑みを浮かべながら溜め息を吐いた。

 

「ふぅぅ、すっきりした……じゃあ、私はもう戻るね」

 

 そう言って、海老名さんは踵を返し、あっという間にいなくなった。

 彼女の足音が聞こえなくなると、何ともいえない沈黙が訪れる。

 とりあえず戸部に目を向けると、奴は一歩後ずさった。

 

「……だってよ」

「えー……ヒキタニ君、このタイミングでそれはないわー……てかごめん。俺……好きな人いるから!」

 

 そう言ってから、戸部は逃げるように去っていった。あれ?今俺、戸部にフラれたの?

 かつてない屈辱感やら何やらにどんよりしていると、葉山が隣に並んできた。

 

「……すまない。君がそんなやり方しかできないのはわかってたのに」

「謝るんじゃねえよ」

 

 えっ……お前、この展開を予想してたの?普通に凄いんだけど……てかわかってるんなら顔赤らめてんじゃねえよ。

 そして、葉山グループが去った後、背後から二人分の足音が聞こえてきた。

 言うまでもなく、雪ノ下と由比ヶ浜である。どちらも機嫌がいいとは言い難い。そんな目で見ないで欲しいんだが。

 しばらく冷めた視線が絡み合ってから、沈黙を切り裂くように雪ノ下が口を開いた。

 

「……はやはち」

「…………」

 

 えっ、それだけ?てか何その無表情……怖いんだけど。

 続いて、由比ヶ浜が無表情のまま口を開く。

 

「……とべはち」

「…………」

 

 由比ヶ浜、お前もか。まあいいけど……どうせすぐに俺の嘘などばれるだろう。あとは奴らが勝手にやってくれればいい。こっちは問題が片づいてほっとしているのだから。

 ……さて、明日は土産選びに励みましょうかね。

 

 *******

 

「♪~~」

「お姉ちゃん、なんか機嫌いいね」

「そう?いつも通りだけど」

「あっ、そうか。明日比企谷さん、修学旅行から帰ってくるんだよね。でも、千葉だよ?お姉ちゃんの元に帰ってくるわけじゃないよ?」

「そ、そんなんじゃないもん!はやくお土産が欲しいだけだもん!」

「比企谷さんを待ちわびてるのは否定しないんだ?」

「ゆ、雪穂!あれ?お父さん、何でお饅頭一気食いしてるの?お父さん?」

 

 

  


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