俺は奉仕部の二人の反応もお構い無しに飛び出し、戸部の隣に立つ。大した距離じゃないのに何故か遠く感じてしまった。
もちろん、何の事だかわからない戸部はただただ驚いていたが、すぐにはっとして口を開く。
「ヒ、ヒキタニ君!?な、なんで……」
「…………」
俺は戸部の方は見ずに、ようやく手放せることに安堵しながら、海老名さんに向けて真っ白な紙袋を差し出した。
「海老名さん、これ返すわ……はやとべ本」
「えっ!?」
「あ、うん。わざわざありがと。で、どうだった?」
「ああ、まあまあだな」
「ええっ!?」
「そっかぁ、じゃあお礼に今度とべはち本とはやはち本書かせてくれる?」
「構わん」
「えええっ!!?」
戸部はさっきからやたら驚いている……まあ、当たり前か。俺も驚いている。何故こんな方法を思いついたのか。一応言っておくが読んでいない。
しかし、そんなことお構い無しに、海老名さんは何故かテンション高めに話を続ける。
「まだ自分の恋愛とかには今はまったく興味がわかないけど、同志ができて嬉しいよ!」
「そっか」
「ええええっ!!?」
言うまでもないが嘘である。はやはちとかとべはちに協力するつもりはない。てか、やたら目がキラキラしてんだけど、この人演技だってこと忘れてない?忘れてないよね?
内心焦りを感じていると、彼女は腐った笑みを浮かべながら溜め息を吐いた。
「ふぅぅ、すっきりした……じゃあ、私はもう戻るね」
そう言って、海老名さんは踵を返し、あっという間にいなくなった。
彼女の足音が聞こえなくなると、何ともいえない沈黙が訪れる。
とりあえず戸部に目を向けると、奴は一歩後ずさった。
「……だってよ」
「えー……ヒキタニ君、このタイミングでそれはないわー……てかごめん。俺……好きな人いるから!」
そう言ってから、戸部は逃げるように去っていった。あれ?今俺、戸部にフラれたの?
かつてない屈辱感やら何やらにどんよりしていると、葉山が隣に並んできた。
「……すまない。君がそんなやり方しかできないのはわかってたのに」
「謝るんじゃねえよ」
えっ……お前、この展開を予想してたの?普通に凄いんだけど……てかわかってるんなら顔赤らめてんじゃねえよ。
そして、葉山グループが去った後、背後から二人分の足音が聞こえてきた。
言うまでもなく、雪ノ下と由比ヶ浜である。どちらも機嫌がいいとは言い難い。そんな目で見ないで欲しいんだが。
しばらく冷めた視線が絡み合ってから、沈黙を切り裂くように雪ノ下が口を開いた。
「……はやはち」
「…………」
えっ、それだけ?てか何その無表情……怖いんだけど。
続いて、由比ヶ浜が無表情のまま口を開く。
「……とべはち」
「…………」
由比ヶ浜、お前もか。まあいいけど……どうせすぐに俺の嘘などばれるだろう。あとは奴らが勝手にやってくれればいい。こっちは問題が片づいてほっとしているのだから。
……さて、明日は土産選びに励みましょうかね。
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「♪~~」
「お姉ちゃん、なんか機嫌いいね」
「そう?いつも通りだけど」
「あっ、そうか。明日比企谷さん、修学旅行から帰ってくるんだよね。でも、千葉だよ?お姉ちゃんの元に帰ってくるわけじゃないよ?」
「そ、そんなんじゃないもん!はやくお土産が欲しいだけだもん!」
「比企谷さんを待ちわびてるのは否定しないんだ?」
「ゆ、雪穂!あれ?お父さん、何でお饅頭一気食いしてるの?お父さん?」