散らかっているといっても、普段から(高坂母により)掃除されている部屋なので、片づけはすぐに終わった。漫画の順番がバラバラすぎるのは気になるが、そこに手をつけていたら日が暮れてしまうので、また今度にしておこう。
テーブルの近くで胡座をかき、腰を落ち着けると、穂乃果も近くに腰を下ろしてきた。
「ふぅ……やっと片付いたぁ。八幡君手伝ってくれてありがとう」
「おう、これ……」
約束どおりにお土産のクッキーの入った紙袋を差し出すと、穂乃果は少しの間目をぱちくりさせたが、すぐにぱあっと花が開いたような笑顔を見せ、紙袋を抱きしめた。
「やったー!ありがとっ、大事にするね!」
「いや、食い物だから。大事にしなくていいから家族皆でさっさと食ってくれ」
俺の言葉に、彼女は何故か「えっ?」と言いたげな顔をして頷いた。こいつ、もしかして……
「お前、一人で食うつもりだったろ……」
「えっ?……そ、そんなことあるわけないじゃないですかー」
「何故敬語……しかも棒読みだし」
「ちぇっ……せっかく独占できると思ったのに~」
「五等分までなら余裕だろ……ほら」
俺は彼女にもう一つのお土産を手渡した。
「え?これ……」
彼女は不思議そうに見つめているのは、一つのお守りだ。
「一位守?」
「……丁度いいと思ったんだよ……全国優勝するんだろ?」
「八幡君……」
「まあ、その……人数分は買えなかったが」
五等分どころか九等分になるのは申し訳ないが、彼女達なら大丈夫だろうという妙な確信があった。いや、それは言いすぎかもしれないが。
穂乃果はしばらくお守りを見つめてから、そっと胸に抱きしめ、顔を綻ばせた。
「本当にありがとう……ふふっ、嬉しいなぁ~。やっぱり私、八幡君のこと、大好き!……え?」
「おう……………………ん?」
今、こいつ……な、何て言った?え?え?
穂乃果に目を向けると、自分で言った事に今気づいたのか、耳まで真っ赤にして、口元を押さえ、もにょもにょと何事か呟いている。
「ふぇ?え?わ、わ、私……今、あれ?え?」
「…………」
「えっ、ウソ?あれ?えぇ?」
「…………」
穂乃果のよくわからない呟きをBGMに、外の世界とは隔離されたかのような不思議な時間が流れていく。
別に穂乃果が言った事が理解できていないわけじゃない。聞こえなかったわけでもない。
ただ……不意打ちすぎて、どう反応すればいいのかわからない。てか何だこれ、めっちゃドキドキしてんだけど……。
彼女の様子からして、俺の聞き間違いということもないんだろう。
だとしたら、彼女としっかり向き合う必要がある。
彼女と同様に、心の奥底にある気持ちをさらけ出す必要がある。
「……穂乃果」
「は、はいぃっ!」
俺は正座して彼女に向き直り、両頬を押さえ、ジタバタしている彼女に向け、噛みしめるようにゆっくり口を開いた。
「……ほ、穂乃果……俺からも、いいか?」
「……はい」
ようやくピタリと動きを止めた彼女の瞳が、微かに揺れながら俺を捉えた。
それだけで気持ちが高ぶり、普段は言えない言葉を紡いでいける気がした。
「……俺、も……お前の事が……好きなんだが」
噛みながらも言いきると、彼女の目は見開かれ、それから優しく細められた。
「…………はい」
彼女は頬に小さな雫を伝わせ、こくりと頷く。
俺もそれに合わせて頷くと、胸の中を温かな何かが満たしていくのがはっきりとわかった。
生まれた時から探していたような……そんな言い様のないものを見つけた。
俺はもう一度確かめたくて、彼女の小さな手に自分の手を重ねる。
「……えっと……その……」
「八幡君…………あ」
突然、襖の方を向いた穂乃果が何かに気づいたように声を発した……おい、まさか。
穂乃果の視線をスローモーションで辿ると、そこにはおやつと飲み物を載せたお盆を抱えた高坂母と、顔を真っ赤にした高坂妹がいた。