捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第77話

 勉強を終え、そろそろお暇しようとすると、穂乃果が駅までついて行くと言い出したので、駅まで一緒に行くことになった。

 陽はだいぶ傾いていて、夏に比べるとかなり昼が短くなった気がする。

 

「……穂乃果、もうこの辺りで……」

「えっ、何で?」

 

 穂乃果は急に捨てられた子犬みたいな目でこちらを見上げてくる。

 ああ、もう!そんな目で見られたら言いづらくなるだろうが……。

 

「いや、その、暗くなるから……」

「……あっ、もしかして心配してくれてるの?」

「わかってる事をいちいち聞くな」

 

 彼女から目を逸らすと、その隙をつくように、右腕にしがみついてきた。

 柔らかな感触に腕を挟まれ、瞬時に頭の中が沸騰したように熱くなる。

 

「お、おい……!」

「ふふっ、じゃあしばらくこのまま……ね?」

 

 そう言われては仕方ない。

 俺はつい抱きしめてしまいたくなる衝動を抑えながら、彼女にされるがままになる。

 火照った頬を風が撫でていくのが気持ちよくて、目を細めると、穂乃果はしがみついたまま話しかけてきた。

 

「ねえ、八幡君」

「?」

「明日も八幡君の声が聞きたいな」

「……まあ、時間あれば電話する」

「ふふっ、八幡君らしいね。あっ、そうだ!ハロウィンライブやることになったから見に来てくれる?」

「ああ、多分大丈夫だ」

「来てくれなかったらイタズラしてお菓子奪っちゃうからね!」

「ただの強盗じゃねえか……てか、菓子ばっか食ってると太るぞ」

「大丈夫大丈夫!私太らない体質かもだから!」

「…………」

 

 本当に大丈夫だよね?これ、フラグじゃないよね?

 一応穂乃果の腰の辺りをチラ見してから、自分に言い聞かせるように頷いて、その肩に手を置いた。

 

「……ドーナツはゼロカロリーじゃないからな」

「し、知ってるよ!もうっ、雰囲気大事にしようよ!」

 

 *******

 

「じゃあ、そろそろ行くわ」

「あっ、うん……ばいばい!」

 

 穂乃果が一瞬しょぼんとした表情を見せたものの、すぐにぶんぶん手を振る。その幼い子供のような動作に頬を緩めながら、俺もそっと手を振り返し、彼女に背を向けた。

 柄にもなく何度も何度も振り返りながら。

 

 *******

 

 その日の夜、俺はふわふわした気分のままベッドに寝転がっていた。

 改めて考えると不思議な気分だ。

 4月頃の自分に教えてみたところで、きっと信じなかっただろう。

 そのぐらい奇跡的な現実。

 ……あれ?てかこれ、本当に現実だよな?夢オチとかじゃないよな?起きたら病院のベッドとかじゃないよな?

 つい確かめたくて携帯を手に取るが、すんでのところで思いとどまる。いや、さすがにそれはみっともない気が……。

 すると、静寂を裂くように携帯が震えだした。おい、もしかして……。

 画面を確認すると、予想した通りの名前が表示されていて、つい吹き出してしまう。

 どうやら同じ考え……なのか?まあいい。

 もしそうなら、これは間違いなく現実だと教えるべく、俺は携帯を耳に押し当てた。

 

 

 


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