勉強を終え、そろそろお暇しようとすると、穂乃果が駅までついて行くと言い出したので、駅まで一緒に行くことになった。
陽はだいぶ傾いていて、夏に比べるとかなり昼が短くなった気がする。
「……穂乃果、もうこの辺りで……」
「えっ、何で?」
穂乃果は急に捨てられた子犬みたいな目でこちらを見上げてくる。
ああ、もう!そんな目で見られたら言いづらくなるだろうが……。
「いや、その、暗くなるから……」
「……あっ、もしかして心配してくれてるの?」
「わかってる事をいちいち聞くな」
彼女から目を逸らすと、その隙をつくように、右腕にしがみついてきた。
柔らかな感触に腕を挟まれ、瞬時に頭の中が沸騰したように熱くなる。
「お、おい……!」
「ふふっ、じゃあしばらくこのまま……ね?」
そう言われては仕方ない。
俺はつい抱きしめてしまいたくなる衝動を抑えながら、彼女にされるがままになる。
火照った頬を風が撫でていくのが気持ちよくて、目を細めると、穂乃果はしがみついたまま話しかけてきた。
「ねえ、八幡君」
「?」
「明日も八幡君の声が聞きたいな」
「……まあ、時間あれば電話する」
「ふふっ、八幡君らしいね。あっ、そうだ!ハロウィンライブやることになったから見に来てくれる?」
「ああ、多分大丈夫だ」
「来てくれなかったらイタズラしてお菓子奪っちゃうからね!」
「ただの強盗じゃねえか……てか、菓子ばっか食ってると太るぞ」
「大丈夫大丈夫!私太らない体質かもだから!」
「…………」
本当に大丈夫だよね?これ、フラグじゃないよね?
一応穂乃果の腰の辺りをチラ見してから、自分に言い聞かせるように頷いて、その肩に手を置いた。
「……ドーナツはゼロカロリーじゃないからな」
「し、知ってるよ!もうっ、雰囲気大事にしようよ!」
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「じゃあ、そろそろ行くわ」
「あっ、うん……ばいばい!」
穂乃果が一瞬しょぼんとした表情を見せたものの、すぐにぶんぶん手を振る。その幼い子供のような動作に頬を緩めながら、俺もそっと手を振り返し、彼女に背を向けた。
柄にもなく何度も何度も振り返りながら。
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その日の夜、俺はふわふわした気分のままベッドに寝転がっていた。
改めて考えると不思議な気分だ。
4月頃の自分に教えてみたところで、きっと信じなかっただろう。
そのぐらい奇跡的な現実。
……あれ?てかこれ、本当に現実だよな?夢オチとかじゃないよな?起きたら病院のベッドとかじゃないよな?
つい確かめたくて携帯を手に取るが、すんでのところで思いとどまる。いや、さすがにそれはみっともない気が……。
すると、静寂を裂くように携帯が震えだした。おい、もしかして……。
画面を確認すると、予想した通りの名前が表示されていて、つい吹き出してしまう。
どうやら同じ考え……なのか?まあいい。
もしそうなら、これは間違いなく現実だと教えるべく、俺は携帯を耳に押し当てた。