穂乃果と付き合い始めてから一週間。色んな事が変わり始めていた。
「48……49……50……!」
「お兄ちゃん、どしたの?突然筋トレなんて始めて……」
「……まあ、色々な」
別に筋肉は裏切らないとか思ってるわけではないし、高木さんにからかわれたわけではない。雪ノ下さんからは罵倒されているが、それも関係ない。
色んな事を少しずつ変えていく。それだけの話だ。
「ふ~ん、そういえばお兄ちゃん……」
「?」
「何か小町に言い忘れてることない?」
小町は腰に手を当て、ぷんすか怒った表情を見せた。はて、何かやらかしましたっけ?とりあえず思いつくのは……
「……冷蔵庫の中のプリン食ったのは悪かった」
「いや、そうじゃなくて……って、あれお兄ちゃんだったの!?」
どうやら藪蛇だったようだ。仕方ない、ここは……
「いーち、にー……」
「筋トレの続きをして誤魔化さないの!ちゃんと後で買ってきてよね。飲み物付きで」
「お、おう……」
この子、さりげなく飲み物まで要求してきましたよ?まあ、可愛いから許すけど。せっかくだから、今流行りの抹茶サイダーを買ってきてやろう。喜んでくれるといいなぁ♪
「それで、言い忘れた事ってなんだっけ?」
俺の言葉に、小町は「むむむ……」と顔をしかめたが、すぐに諦めたように溜め息を吐き、そっと俺の隣に腰を下ろし、遠慮がちに口を開いた。
「……お兄ちゃん、穂乃果さんと付き合い始めたんでしょ?」
「……あ、ああ……まあ、そうだけど」
すぐに小町の不機嫌の理由に思い至り、筋トレをやめ、しっかり向き合う体勢になる。
「悪い……まあ、その……言い忘れてた」
「もうっ、小町はお兄ちゃんの妹だから、真っ先におめでとうって言わせてよね!」
「あ、ああ……ありがとな」
優しすぎる言葉に、思わずじんときてしまう。俺は気恥ずかしさのあまり、再び筋トレを始めてしまった。うわ、何これ……滅茶苦茶嬉しいけど、滅茶苦茶恥ずかしい……!
小町はそんな俺の様子を見て、ケラケラ笑った。
「あははっ、何やってんの?……おめでと、お兄ちゃん」
「……ああ」
俺にはその時の小町がいつもより少しだけ大人びて見えた。
そのことに切なさを覚えながらも、自分が変わることは周りの人間も変わることだと、今さらながら気がついた。
翌日、また大きな変化が訪れることは、この時知る由もないのだが……。
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「♪~~」
「穂乃果ちゃん、今日も絶好調だったね」
「うんっ、でもいっぱい動いたらお腹空いちゃった……お昼結構食べたのに」
「幸せなのは良いことですが、幸せ太りはやめてくださいね?貴方はμ'sのリーダーなのですから」
「わ、わかってるよ~……あれ、電話?ちょっとごめんね。……もしもし、八幡君♪えっ、どうしたの?……うん、うん」
「比企谷君に何かあったのかな?」
「何やら不穏な空気が……」
「え……え~~~!?は、は、八幡君が……!!?」