捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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第79話

 数時間前……。

 奉仕部は休むこともなく、かといって忙しくもなく、通常どおりに活動していた。ちなみに奉仕部内の空気は微妙に重い。まだ修学旅行でのあれこれが蟠っているからである。まあ、仕方ない。これでもクラス内よりはマシだ。クラスの方では……いや、今はいい。

 とりあえず、今日もこんな空気のまま終わるのかと思っていたら、依頼が一つ舞い込んできた。

 内容は、一色いろはという女子生徒が生徒会長になるのを円満に阻止する、というものである。正直、前回のややこしい依頼に比べれば、だいぶ精神的負担は少なそうだが、それでも一色が無傷で回避となると……。

 ふとそこで一つの案が浮かんだ。

 

「ヒッキー、何か案があるの?変なのじゃないよね?」

「まさか、またくだらない作戦を思いついたんじゃないでしょうね」

「おい、お前ら俺を何だと思ってるの?この前のは演技だっての。それより……」

 

 この時の俺は何を考えていたのだろうか。

 

「……な、なあ、その……」

 

 何故かあいつの顔が真っ先に頭に浮かんだ。

 

「ヒッキー?」

「比企谷君?」

 

 ああ、そうか……。

 

「それなら……」

 

 俺はきっと……。

 

「……俺が生徒会長、立候補してもいいか?」

 

 あいつの隣に胸を張って立っていたいだけなんだろう。

 

「比企谷……」

 

 さすがに驚いたのか、平塚先生が目を丸くしてこちらを見ている。よく見ると、部室内にいる全員がそうしていた。まあ、それもそうだろう。

 次に何を言おうかと考えていると、意外なことに城廻先輩が笑顔でうんうんと頷いた。

 

「私はいいと思うなぁ。比企谷君が真面目な子なのは文化祭と体育祭でわかってるし。あとはしっかりした人がサポートに付いてくれれば安心だよ~」

 

 城廻先輩はそう言いながら、雪ノ下と由比ヶ浜に視線を向けた。それに対し、俺が立候補したいと言い出したことへの驚きからか、ずっと黙っていた二人はようやく口を開いた。

 

「……どのような形で協力するかは今後話し合って決めようと思います」

「う、うんっ、そうだね!ヒッキー、応援するよ!」

「……そ、そうか……ありがとな」

 

 二人のやわらかな笑顔は久しぶりに見た気がする。それは秋の夕陽のように、心を優しく穏やかにさせてくれた。

 俺は二人に頷き、もう一度自分の中で決意を新たにした。

 

 *******

 

 その日の夜、俺は穂乃果に電話をかけ直した。彼女の下校中に電話をかけたせいで、いらぬ混乱を招いてしまったからだ。

 自分自身ようやく昂った気持ちが落ち着いたこともあり、今度はスムーズに話すことができた。

 

「まあ……そういうわけだ」

「なぁんだ、そういうことか~。帰ってる途中にいきなり電話してきたからびっくりしたよ……」

「いや、悪い。真っ先に言いたくてな」

「ふふっ、ならオーケーだよ。でも八幡君が生徒会長かぁ……成長したなぁ」

「お前はオカンかよ。しかもまだ確定じゃないし……」

「大丈夫!八幡君なら大丈夫だよ!」

「……随分自信満々だな」

「だって……私の……か、か、彼氏だもん」

「そ、そうか……てか、自分で言って恥ずかしがるなっての」

「あはは……八幡君」

「?」

「大好き♪」

「っ……いや、い、いきなりなんだよ……」

「……八幡君はどう?」

「え?あ、いや、その……きだけど」

「聞こえないよ~?」

「……だから、俺も……好きだけど?」

「何で疑問形なのっ?迷わず言ってくれていいのに!」

「迷わずにー……」

「SAY YES~♪って誤魔化した!?八幡君のバーカバーカ!」

 

 こういうところは変わらないのが俺達らしいのかもしれない。

 ふと窓の外を見ると、満天の星空がいつもより煌めいて見え、自分と彼女の距離を近く感じてしまった。

 それは、二人が交わす言葉の数だけ近づいてる気がした。 


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