「八幡、何聴いてるの?」
今日も一人、ベストプレイスにて昼食を摂っていると、ぴょこっと可愛らしい擬音がつくような可愛らしさで戸塚が現れる。
「……μ'sの曲だ」
「ああ、僕も聴いてるよ!いい曲多いよね!」
「……意外とな」
「八幡は何が好きなの?」
「…………もぎゅlove」
「……意外だね」
べ、別にあの曲の時、東條さんの胸元が気になるとかじゃないんだからねっ!いや、本当だよ?純粋に名曲と思っているだけだ。ハチマン、ウソ、ツカナイ。
「今度の日曜日に秋葉原でライブするらしいね。僕は部活で行けないけど、八幡は行くの?」
「俺も部活があるからな……」
「あはは……でも、八幡ってなんだかんだ言いながら行きそうだよね」
「……俺がそんな律儀な奴に見えるか?」
「ふふっ、どうだろうね」
くすくす笑う戸塚の可愛い笑顔に見とれながら、俺は至福の昼食時間を過ごした。
しかし、そんな意識の片隅には、やけに無邪気に笑う彼女の……少し、いやかなり苦手な瞳が輝いていて、そこから目を離せずにいた。
*******
「……何故だ」
日曜日。
俺は秋葉原駅前にポツンと立ち、独りごちた。結局来ちゃうとか、俺にはツンデレの才能があるのかもしれない。
この炎天下でも、秋葉原はいつものように人で溢れかえり、俺のHPをガリガリ削っていく。人よりパーソナルスペースを広めにしてある弊害がここでくるとは、やれやれだぜ。
とはいえ、立ち止まっているわけにもいかない。
俺はチラシを参考に、ライブが行われる場所までのんびり歩く。
「あれ?比企谷君?」
「…………」
朝起きてからのことを思い出す。本来なら惰眠を貪っていればいいはずなのに、何故か外出の準備をしていた自分のらしくもない姿。
「ねえ、比企谷君」
「…………」
うん、やっぱりあいつは苦手だ。
「比企谷君ってば!」
「っ!」
突然背中を叩かれ、ビクッとする。あ、危ねえ。あと少し強ければ、公衆の面前でお婿に行けなくなるレベルの叫び声を上げるとこだったぞ。こんな所で専業主夫の夢を潰えさせるわけにはいかない。
振り向くと、腰に手を当て、頬を膨らませた高坂が立っていた。
「もう、無視しないでよ!」
「……いや、気づいていなかっただけだ」
「あ、そうなんだ。ごめぇ~ん……」
「いや、いい。つーか、お前大丈夫なのか?今日、ライブなんだろ?」
「え?あはは……実は忘れ物しちゃって……」
「…………」
本当に大丈夫か、こいつ。
「そ、それより比企谷君!ライブ観に来てくれたの!?」
「……あ、ああ、一応……」
「じゃあ、一緒に行こう!こっちこっち!」
「え?いや、おい……」
いきなり手首を掴まれ、無理矢理走らされる。
やっぱりこいつ……苦手だ。
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