あの後、私は顔が真っ赤になり、自分でもよくわからない事になっていた。何か叫んだような……そして止められたような……あぁもう……ヒデコがいきなりあんな事言うから。
私と……八幡君が……キ、キ、キ……。
「キスがどうかしたの?」
「わわっ、絵里ちゃん!?えっ?わ、私、何か言ってた!?」
いきなり声をかけてきた絵里ちゃんは、やけに大人びた笑顔を見せ、ふるふる首を振った。
「わかるわよ。さっきから唇ばかり気にしてるもの」
「うぅ……そ、そう、かなぁ」
「それで……したの?」
「……え?」
絵里ちゃんは私の両肩を掴み、じっと見つめてくる。め、目が血走ってて怖いよ……。
「エリチ」
「はい」
希ちゃんが声をかけると、絵里ちゃんは私から離れた。さすがは希ちゃん!スピリチュアルだね!関係あるかはわからないけど!
すると、希ちゃんは私にもピンっとデコピンをしてきた。
「あうっ」
「穂乃果ちゃんも今日は心ここにあらずって感じやね」
「……ご、ごめん」
確かにそうだった。
私は自分の頬をパンっと叩き、気合いを入れ直す。そうだよね。もうすぐハロウィンライブもあるんだから、しっかりしないと!
「ほ、穂乃果!?」
「穂乃果ちゃん、痛くない!?」
「大丈夫!よしっ、皆ごめん!もう一回合わせよ?」
「まあまあ、別に焦らなくてもええんよ。初めて恋人ができたんやし、気持ちが浮わつくのは仕方ないと思うから」
希ちゃんは優しい笑顔で頭を撫でてくれる。あぁ、やっぱり年上なんだなぁ。
「うぅぅ……希ちゃん、こんな時どうすればいいのかなぁ?」
「……え?」
「そ、その……こういうのって希ちゃんが一番詳しそうだし……」
「…………」
花陽ちゃんと凛ちゃん、そして真姫ちゃんもうんうんと頷いた。
「そう、だよね。お姉さんって感じだし」
「スタイルもいいにゃ!」
「まあ、この中だったら一番モテるかも」
「…………あはは」
希ちゃんは恥ずかしそうに笑いながら何故か周りをキョロキョロ見る。いつの間にか、海未ちゃんとことりちゃんも、希ちゃんのアドバイスを待っていた。
「え、えーと……」
「あれ?希って確か……」
「ええ。希も間違いなく彼氏いない歴=……」
「にこっち、エリチ」
「「はい」」
にこちゃんと絵里ちゃんがビシッと真っ直ぐに立つ。二人も希ちゃんのアドバイスを聞こうとしているのがわかった。
「ふぅ……穂乃果ちゃん?」
「う、うん……」
希ちゃんは真面目な表情で私を見据え、ゆっくり話し始めた。
「穂乃果ちゃんは、自分に素直になればええんよ」
「う、うん……」
「……………………それだけ」
「それだけっ!?」
あまりに短いアドバイスに私が驚くと、希ちゃんはからかうような笑顔をつくった。
「二人には二人の付き合い方がある。だから、二人がお互いにもっと踏み込みたいと思った時でええんよ」
「私達には……私達の……」
「逃げたわね」
「ええ、逃げたわね」
「にこっち?エリチ?」
「「はい」」
私達がもっと踏み込みたくなったら……か。
……あ、そうだ!いいこと思いついた!でも、今はそれより……
「よぉしっ!皆、練習再開だよ!」