風呂上がりにぼんやりとテレビを見ていると、何だか不思議な感じがした。原因は高坂父のパジャマを着ていることだけではないだろう。
今、穂乃果は風呂で鼻唄を口ずさんでいる。
……自分の彼女がひとつ屋根の下で風呂入ってるってなんか変な気分なんだが。
似たようなシチュエーションは自分の家で経験したが、あの時と今では関係が違う。俺達自体が変わったわけではないが、それでも何かは変わっている。
……まあ要するに……自分の彼女が裸で近くにいると思うと落ち着かねえ!!だって男の子だもん!!
「ふぅ~さっぱりしたぁ♪」
「っ!」
悶々としている内に、どうやら穂乃果が上がってきたようだ。
Tシャツに短パン姿の彼女は、姿を見せるなり俺を見て首を傾げた。
「ん?どしたの、顔赤いよ?」
「……あ、ああ、まだのぼせてるみたいだ」
二度目の風呂上がりの姿はやはり新鮮で、どこか艶かしく見える。
彼女はこちらの心を無自覚にかき乱しながら、俺の隣にすとんと腰を下ろした。
「ねっ、今から何しよっか?」
「いや、今からなんて寝るくらいしか……」
「やだっ♪」
「っ!」
穂乃果が横からいきなり抱きついてくる。それと同時に、ふわりとシャンプーの香りが漂い、火照った体温が絡み、一瞬で頭の中が彼女でいっぱいになった。
「お、おい……!」
「えいっ♪えいっ♪」
穂乃果は甘える子供のようにぎゅうぎゅう抱きついてくる。ただでさえ肌と肌がいつもより触れ合っているのに、背中では柔らかな感触が潰れているのがわかり、理性がガリガリ削られていく。
や、やばい……。
「八幡君、何か言ってよ~……あ」
「…………」
突然の静寂に耳が疼く。
俺は穂乃果を思いきり抱きしめていた。
何の前触れもない抱擁に驚いたのか、穂乃果の吐息が強めに耳にかかる。
「は、八幡君?」
「……悪い。だが一つ言っておくぞ」
「うん……」
「俺は、その……お、お前の事が……好きすぎるから……いきなりぐいぐい来られると……我慢できなくなるんだが……」
「…………でも」
「?」
「私は……八幡君にこうされるの、とっても好きだなぁ。幸せに包まれてるって感じがする」
「……そっか」
その言葉に応じるように、彼女を抱きしめる腕に、そっと力を込める。離さないように、壊さないように。
ふにゃっとした彼女の体は、自分の体へと溶けていきそうなくらいに柔らかく馴染んでいた。
「…………ん」
そして、不意打ちのように、頬に彼女の唇が触れる。
頭がぼんやりしていて、驚きはあまりなかったが、それでも胸のときめきは加速していく。
彼女の顔を見ると、頬どころか耳まで真っ赤になり、さっきよりも吐息が湿っていた。
「もう少し……このままでいよっか」
「…………ああ」
夜の静寂が眠りを運んでくるまで、二人はそのままでいた。