「…………ん?」
瞼を朝焼けに照らされ、じわりと目を開けると、長い夢から覚めたような感覚と共に一日の始まりを迎える。
きょろきょろと室内を見回すと、昨夜と変わらない高坂家の居間だった。
昨日あったことが嘘みたいな雰囲気に、何だか違和感を覚える。
あの後は……しばらくしてどちらも照れくさくなって、寝ることにしたんだっけ?もちろん別々の部屋で寝ることにしました。比企谷八幡は清く正しい男女交際を心がけています。
昨夜の事を思い出しながらぼんやりしていると、階段を降りてくる音と共に、穂乃果が姿を見せた。
「おはよ~八幡くぅ~ん……」
「……おう、まだだいぶ眠そうだな」
返事をすると、彼女は瞼をこすりながら、にへらと笑った。
「えへへ~なんか早く八幡君の顔見たくなっちゃって」
「そっか……てか、朝っぱらから恥ずかしくなること言うのは止めてね」
まだまだ寝ぼけ眼の彼女を畳の上に座らせてから、俺は台所に向かった。
「どうしたの~?」
「朝飯作るんだよ。お前今日練習だろ」
「えっ?あっ、大丈夫大丈夫!自分でやるから!」
「いや、何でそこではっきり目が覚めるんだよ……それに、昨日ので家事レベル中学2年くらいに上がったから大丈夫だよ」
「カレー作っただけで!?早すぎない!?」
「案外今年いっぱい頑張れば小町くらいになるんじゃないだろうか……」
「自信ありすぎるよ!それ私の胸が希ちゃんぐらいおっきくなるくらいあり得ないよ!」
「いや、いきなり何言ってんの?」
そんなこと言われたら胸に目がいくだろうが。つまり、今俺が穂乃果の胸元を見るのは俺のせいじゃない。
「……むむっ、目つきが怪しい」
「いや、断じて違う。もしそうだったとしても俺のせいじゃない」
「朝っぱらから貴方達は何を話しているのですか?」
「あはは……とっても仲良しさんだね」
「「…………」」
振り返ると、いつの間にか上がり込んでいた園田さんと南さんが、呆れ顔と苦笑いでこちらを見ていた。
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朝食を摂り、身支度を整えると、園田さんからのお説教が待っていた。互いに正座で向かい合うと、彼女は淡々と言葉を紡いだ。
「まったく……交際は結構ですが、もう少し高校生らしい慎みを持ってください。そもそも胸の大きさなど……まあ、穂乃果が希のようになるのはあまり想像できませんね」
「あはは、それ海未ちゃんだって同じじゃん。ていうか、海未ちゃん私より小さ……」
「穂乃果?」
「げっ……」
「海未ちゃん!?」
「おい……」
どうやら穂乃果は笑顔で地雷を踏み抜いてしまったらしい。
園田さんは笑顔のまま、ただし威圧感のような何かを放ちながら、話を続けた。
「そうですね。その通りです。では、より成長できるよう、さらに鍛錬を積まねばなりませんね、今から……」
園田さんはゆらりと体を起こし、穂乃果に一歩一歩近づいていく。
「う、海未ちゃん?ちょっと待って!八幡君、助けてよぉ……」
「……じゃあ、そろそろ行くわ。まあ、その……応援しとく」
「あ~!逃げようとしてる~!八幡君も一緒に鍛錬しようよ~!」
「いや、何でだよ……」
昨日はロマンチックな空気に浸ったかと思えば今朝はこれだから、本当にこいつは忙しない。だが、こんなところも居心地よく思えてしまうくらいには惚れてるから仕方ない。
こうして、恋人になってから初めてのお泊まりは幕を閉じた。
「大丈夫、二人共まだ成長期やから」
「アンタ、いつからいたんですか……」