ハロウィンということもあり、街中はリア充な空気、もとい賑やかで楽しい空気に満ち溢れていた……ていうか、人が溢れすぎて歩きづらいしもう帰りたいんだが。
すると、そんな暗澹たる空気を取り払うように、戸塚が楽しそうな笑顔を向けてきた。
「すごいね、八幡。皆コスプレしてるよ?」
「ああ。てか、お前らも用意してたんだな」
「当たり前じゃん、ハロウィンだよ?ねっ、ゆきのん♪」
「私は別にしなくてもよかったのだけれど……」
そして、総武高校の面々も何故かコスプレ衣装にいつの間にか着替えている。マジか。
由比ヶ浜は小悪魔、雪ノ下は雪女、小町は化け猫。そして戸塚は魔法使いなど、林間学校で見覚えのある格好をしているが、それ以外の面子は材木座以外はやけに新鮮に見えた。
「はーちゃん、こすぷれしないのー?」
「ああ。この目つきだけで十分なんだ」
「けーちゃん。はぐれないように手つなごうね」
京華は天使のような格好で天使のような笑顔を振り撒き、最早天使である。そして、それに従う従者の如く、川崎が世話を焼いていた。ちなみに彼女はコスプレはしていないものの、京華に付けられたのか、派手な髪飾りやらアクセサリーやらをガチャガチャ付けられていて、実質コスプレ状態である。
まあ、そんな感じで既に祭りは始まっていた。
「八幡よ!どうして我の服装には触れんのだ!?」
「いや、だって……」
さすがに「どうでもいい」とは言わなかったが、正直どうでもいい。ただ言えるのは、鎧みたいなのが歩く度にガシャンガシャンうるさい。
すると、由比ヶ浜が「あっ」と声をあげた。
「ヒッキー、あれμ'sじゃない?」
「?」
由比ヶ浜の指差す方向を見てみると、確かに見覚えのあるほのまげがピョコピョコ揺れていた。
どうやらパレードの方にも参加しているらしい。彼女達は通行人に笑顔を振り撒きながら、パレードを精一杯盛り上げていた。
「あっ、みゅーずだー♪」
「穂乃果ちゃーん、やっはろー!!」
えっ、その挨拶そういう使い方もできんの?
「やっはろー」の新しい使い方を知り、自分が使うことはないだろうと決意を新たにしていると、人混みの隙間からも、ようやくその表情が確認できた。
そして、徐々に近づいてくるのを眺めていると、当たり前のように穂乃果と目が合う。
俺は控えめに手を振っただけだが、それに対し彼女は……投げキッスをかましてきた。
「っ!」
あいつ……よくこんな公の場で……。
頬が火照るのを感じながら、だんだん離れていくその背中を眺めていると、今度は別の視線を感じた。
…………綺羅さん。顔を真っ赤にしながら、俺と穂乃果を交互に見ないでください。
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ライブが始まると、さっきのほんわかした雰囲気を脱ぎ捨て、スクールアイドルとして華やかなパフォーマンスを披露した。
心地よい音の波や曲の世界観、彼女達の歌声とダンスに、通行人は心を奪われてしまっていた。
「わぁ、皆凄かったね~八幡!」
「……ああ」
本当に……凄い。しかし……。
何だ、この違和感?
ライブ中、ずっと穂乃果から謎の違和感を感じたのだが……それが何なのかはわからないまま、ライブはあっという間に終わってしまった。
………ま、いっか。
多分、俺の気のせいだろう。
こうして、ハロウィンイベントは幕を閉じた。
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その頃、高坂家では……
「まったく、お姉ちゃんったらこんなに散らかして……ん?これって…………あわわわわ!!!」