次の日、皆で新曲のアイデアを出したり、色々話し合ったりしながらも、頭の片隅にはずっとキスの事が居座っていた。さっき皆で恋愛映画を見た時も、キスシーンばかりに目がいってしまい、どんな内容だったかがあまり思い出せない。
うぅ……私、どうしちゃったのかなぁ?このままじゃ八幡君に変な子だって思われちゃう……はっ!もしかしたら、キスくらいで動揺するお子様って思われてるのかも!?
『キスくらいで動揺しすぎだろ……ったく、お可愛いことだな』
そうだよ!絶対にそう思われてるよ!なんかキャラ違うけど!
「穂乃果ちゃん、どうしたのかなぁ?」
「さっきから一人ではしゃいでるにゃぁ」
「……今はそっとしておきましょう」
「そうやね。ウチらのせいでもあるし……」
*******
「ヒッキー?どうしたん?」
「さっきからずっとこんな調子なんですよ~。話しかけても上の空っていうか~」
「…………ああ、悪い。おはよう」
「何で朝の挨拶っ?もう放課後だよ!?」
とりあえず会議を始めながらも、中々集中できずにいた。
理由は言うまでもなく、したことのないキスシーンがやたらと頭の中に浮かんできて、他の事など手につかないからだ。
やばい。何がやばいかはわからんがやばい。
もしかしたら……俺は彼女から、キスくらいで動揺するお子様とか思われているのかもしれない。
『八幡君って、高校生にもなってキスくらいで慌てるんだぁ……お可愛いんだね♪』
うわぁ……そんな風に思われてたら、うっかり死んでしまいそうだ……なんかキャラ違うけど。
「ヒッキー、今度は一人ではしゃいでるよ」
「うわぁ……」
「ウ、ウチ、何があったか聞いてこよっか?」
「止めておきなさい、相模さん。今アレに近づくべきではないわ」
……このまま集中力を欠いては、周りに迷惑をかけてしまう。
……なら俺がやるべき事は……。
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「ふぅ……皆、今日はごめんね?」
「大丈夫ですよ。曲作り自体は順調に進んでいるのですから」
「衣装のイメージもかなり固まってきたんだぁ♪穂乃果ちゃんのおかげで♪」
「そ、そうなんだ……あはは」
い、一体どんな衣装になるのかな?ことりちゃんなら大丈夫だけど……。
「まあ、せっかく恋人ができたのだもの。少しは浮わついた気持ちにもなるわよ」
「絵里ちゃん……」
優しく頭を撫でてくれる絵里ちゃんの手は温かかった。
「あっ、でも……比企谷君が穂乃果にキスするのが恥ずかしいなら、私で練習してくれても構わないから」
「絵里ちゃん?」
タチの悪い冗談を言う絵里ちゃんの笑顔は無駄に温かかった。まったくもう……。
そこで、ポケットの中のケータイが震えだした。何だろ?ヒデコかな?
確認すると……なんと八幡君からだった。
周りに気づかれないようにドキドキしながらメールを開くと、そこに書かれていたのは、ただ一言。
「今から行く」