捻くれた少年と純粋な少女   作:ローリング・ビートル

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 活動報告にも書きましたが、pixivで活動されている平成トマト開発部さんが、『捻くれた少年と強がりな少女』のイラストを書いてくれました。『捻くれた少年と恥ずかしがり屋の少女』のイラストと一緒に、是非御覧になってください。


第99話

「お姉ちゃん、どしたの?」

「え?何が?」

「いや、いつもなら帰ってくるなり「お母さん、お腹空いた~!」って言うのに、今日は真っ先にシャワー浴びて、お母さんのメイク道具まで黙って引っ張りだして……」

「こ、これくらいは当たり前なんだよ!だってスクールアイドルだもん!」

「つい最近まで慌ててダイエットしてたのに?」

「う、うるさいなぁ!今忙しいからあっち行ってて!」

「はいはい」

 

 私は準備を急ぎながら、こっちに向かっている八幡君を思い浮かべ、そんな自分に対し、「変わったなぁ」という素直な感想を改めて抱いた。

 まさか、自分が好きな男の子のために、こんなにドタバタする日が来るなんて……。

 

「じゃあ、比企谷さんとのデート頑張ってね~」

「ゆ、雪穂!」

 

 *******

 

 勢いだけで秋葉原まで来てしまうとは……って、別に初めてでもないか。

 とにかく今は顔が見たい。

 最初は早歩きだったのが、自然と走り出していた。

 今はもう見慣れた景色を通り過ぎる度に、その笑顔が近づいている感覚がして、何だかさらに足が軽くなった。

 

「はっ……はっ……」

 

 神社の前を通過し、あとはそこの角を曲がれば……。

 

「わわっ!」

「っ!」

 

 角を曲がると同時に、急に穂乃果があらわれ、危うくぶつかりそうになる。

 

「は、八幡君……?」

「穂乃果……」

 

 どちらも立ち止まり、そのまま視線を絡み合う。何だか夢の中にいるような気分になっていた。性格とかは真逆なのに、こいつとは本当に変なところで気が合う。

 俺は小さく笑いながら、彼女に話しかけた。

 

「……なんか今日、雰囲気違うな」

 

 俺の言葉に、彼女は頬を染め、俯きながら口を開いた。

 

「え?そ、そうかな」

「ああ、なんか、その……いい感じだと思う」

「……ありがと。は、八幡君こそ、なんか雰囲気違うね」

「久々に制服で会ってるからじゃないのか?」

「ううん。そういうんじゃなくて……今日の八幡君、上手く言えないんだけど、なんかドキドキする……」

「…………」

 

 いきなりそんな事を言われると、こっちも緊張するんだが……。

 しかし、こういう時はどんな順序で、どんな心構えで行動すればいいのかはわからない。

 ……やはり、その場の空気とか勢いとかだろうか。

 俺は彼女の両肩に、そっと掌を置いてみた。

 

「…………」

「八幡君……」

 

 それだけで俺が何を求めているのか察した彼女は、ぎゅっと目を瞑り、顔をこちらに向けた。

 その薄紅色の唇や、長い睫毛に見とれながら、俺は少しずつ顔を……

 

「ママ~!あのカップル、キスしようとしてる~!」

「「っ!!」」

「こらっ!邪魔しちゃだめでしょ!」

 

 すたこら去っていく親子の背中を眺めながら、俺達は気まずそうに顔をそむけた。

 そういやここ……ただの路上だったな。

 

 *******

 

 その後、色々と場所を変えようとするものの、何故か邪魔が入った。

 

「見て!公園でファーストキスなんてベタなことしようとしてるカップルがいるわ!」

「ベタすぎるわ!」

「マジひくわー」

 

「あ、あら、高坂さんに比企谷君。ライブ前なのに随分余裕ね……べ、別に?二人がどこまで進んでいるのかなんて、気になってなんかないんだから……」

 

「チカァ!」

 

 *******

 

「な、なんか今日は賑やかだね……」

「ああ……てか、お前といるといつも賑やかだ」

「何それ、私がノーテンキみたいじゃんっ」

「……違うのか?」

「……違わないかも」

「…………」

「……ふふっ」

 

 どちらからともなく笑い合うと、頭の中がすっきりする。

 そうだ。こいつとはいつもこんな感じだった。こんな風に自然と笑顔が溢れる関係でいられるから……。

 冬の気配を運ぶような、ひんやりした優しい風が、二人の間をすり抜け、火照りを冷ましてくれるのを感じながら、俺達はゆっくりと並んで歩き始めた。

 

「ふふっ、じゃあ戻ろっか。ウチで晩御飯食べてくよね?」

「……ああ」

「それと、八幡君……」

「?」

「……スは……また、今度ね?」

 

 彼女はそう言って、俺の頬にやわらかな温もりを押しつけた。

 

 *******

 

 数日後……。

 

「……はい。は?何で俺の番号知って……ああ。え?当日、朝から雪?……わかった」


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