長い旅路の末、ようやくマグノシュタットに辿り着いた。
途中、マグノシュタットへ勉強しに行くという少年・アラジンが同乗し、旅は比較的楽しくなった。
まぁ、このアラジンが紅覇の従者の女相手に堂々とナンパしやがったのは驚いたな。
お前いくつだよ……せいぜい10歳かそんくらいだろ?
しかし、このアラジンという少年……この子が、前にウーゴが話していた「マギ」か。
なるほど、確かに父親とよく似てるな。目元は母親似か。
懐かしいな、赤ん坊どころか胎児とも言えない頃から、僕はお前に会っていたんだ。ま、本人は覚えてないだろうけど。
ったく。ウーゴ、お前育て方完璧に間違ったんじゃね?
どう教育すればこんなクソガキに育つんだ。両親が泣くぞ。
それとこれも余談だけど、アラジンは巨乳好きだった。
それを悟った瞬間、紅覇から哀れみの眼を向けられた。
「……うるさい!どいつもこいつもちっこいのをバカにしやがって!お前らそんなにデカいのが好きか!変態!スケベ!あっち行け!」
と一人で拗ねていたら、
「僕はアルトお姉さんのことも好きだよ!」
と、これまた可愛い笑顔でほざきやがった。
お前はシンドバッドの子供版か‼︎
やめろ!あいつの真似しても、ロクな大人にならないぞ!
はぁ、まったく。
入国審査もスルーして、マグノシュタット学院下の都市に直行する。
久々にモガメットに会いに行くのも悪くはないと思うけど、今の彼には正直会いたくない。だって、明らかに黒なんだもん。
……言わなくてもわかるだろ?近いうちに堕転するってことさ。
そもそも今回の旅はそれが目的じゃない。
僕はのらりくらりとその地の美味い食べ物を食べ回る旅をしているんだ。行く先々で国のトップに会って、挨拶回りに来たんじゃない。
しかしまぁ……変わったなぁ、この国も。
どこもかしこも魔法道具ばかり。空を舞うのは魔導士か絨毯。
これだけでも他の国より魔法道具の発達が著しく見てとれる。流石、ムスタシム時代から魔導士が国に仕えていただけはあるな。
10年前まで、この地はムスタシム王国が支配していた。
しかし、国が魔法を独占したとかで、国民による反乱が起こり、王族は女子供に至るまで処刑された。
その反乱の糸を裏で引いていたのは、このマグノシュタット学院学長。そして……
そんなくだらない革命の後に生まれたのが、この国だ。
魔導士が全てを支配する国。魔導士が中心の国。モガメットは、魔導士こそがこの憂えた世界を正せると言っていた。
昔はそんな奴じゃなかったのに。僕の知る彼は、少なくとも国をひっくり返してまで魔導士だけを救おうとは考えていなかった。
とても、優しい奴だった。
もし彼を変えてしまったとすれば、僕が原因だろうか。
彼の辛く苦しい時に、助けてやれなかったからか。
それとも、パルテビアの暴走を引き止められなかったからか。
僕がパルテビアの裏に潜んでいたアル・サーメンに気づいていれば。軍事国家だから、と人々に対する圧政を僕は無視し続けていた。
それに早く気づいていれば、きっとモガメットもシンドバッドも救えたんじゃないか……なんて、らしくもないことを今でも思う。
それほど、僕はこの世界に馴染んでしまった。大切な人を失う悲しみは、他の誰よりも僕が一番知っているのに。
今だって、後悔している。六十億年も生きた僕の、人生最大の汚点だと言ってもいい。
「愛してる」。そう言ってくれた彼の手を、僕自ら放してしまった。
彼は独りで生きてきた僕に、たくさんのものを与えてくれた。なのに、僕は彼に何一つ返してあげられなかった。
何度も何度も死にたいって思った。彼が死んでも生き残らねばならない自分の業に、この上ない絶望を感じた。
泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて。
涙が文字通り、枯れ果てるまで泣き続けた。
そりゃあバケモノといえど僕にだって心はある。悲しいと感じたら悲しくなるさ。嬉しいと感じたら嬉しくなる。
「…………」
「ちょっと、そこのオネーちゃん!サンドイッチ食べないかい?」
気さくに声をかけてきた店のおじさんに、フッと軽く肩の力が抜ける。
そういえば、お腹が減ったな。難しいことをガタガタ考えている間に忘れていたや。
「そうだな、一つ頂こう」
「まいどっ!」
サンドイッチと銅貨を交換する。
あんな
薄いパンに挟まれたレタスとハムに噛み付く。レタスのシャキシャキ感と少し塩気のあるハムにハーモニーに、舌鼓を打つ。
あっ、これレタスとハムの間にソース入ってるじゃん。なるほど、このソースがさらに旨味を引き立ててるんだなぁ。
後になって悔いることから生まれた言葉。
そんな言葉をいちいち気にしたって、前には進めない。
ならば僕は、目の前とこの先にある美味しいご飯のためだけに、毎日を必死に生きていこう。
そうして生きて、その後に何が残るかはわからないけど、それでいい。僕にとっては、それでちょうどいい。
「よぉ、ーーーー。見てるか?お前の恋人は今日も元気に生きてるぞ。だから、余計な心配すんな。僕は今、幸せだから」
晴れ渡る空を見上げ、呟く。
頬には、枯れたはずの水が流れた。