マギ 六十億年生きた女   作:支倉貢

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今回のみ、少しガールズラブ要素が入ります。苦手な方はご注意ください。


アルテミュラ王国

「……ふーっ、しんどかったぁぁ……」

 

渓谷を乗り越えて早々、僕の口から情けないぐったりした声が漏れる。

足がガクガクで、生まれたての子鹿状態だ。棒になるほど歩いたのは久々かもしれない。僕はそのままへたり込んだ。

 

ようやく辿り着いたここは、天翔ける戦姫達の住まう国、天空都市アルテミュラ王国。

ここは険しい谷の中にある国で、移動手段はロック鳥。

しかし僕には躾けた鳥なんていないので、こうして自分の足で谷を越えて、遥々アルテミュラまでやってきたのだ。

 

疲れた……。

今すぐにでもフカフカのベッドに突っ伏したい気分だ。柔らかい枕に顔を埋めて、深く息を吐き、そのまま微睡みの中にダイブしたい。

なんて思いながら、体の疲れを8型魔法で消して、すぐに立ち上がる。

 

この国は、客人に対して決して優しい国ではない。そもそも宿がないのだ。

だって考えてもみてほしい。

アルテミュラはシンドバッドの作った七海連合に属しているとはいえ、絶壁に囲まれた所謂辺境の地だ。しかも、そこへ向かうための道中はめちゃくちゃ険しい。

 

そんな場所、僕みたいな真の物好きくらいしか来ないのだ。

 

「はーっ……さて、と。商店街でも行くか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて思っていた僕がバカだった。

移動手段が鳥っていうこの国の特殊な文化を忘れていた。

そう。歩いても歩いても、商店街なんて辿り着きやしない。だって鳥で飛んだ先にあるんだもん。

 

仕方ない、僕も飛ぶか。浮遊魔法を発動させて、フワフワと宙に浮く。

 

「ちょっと!あの娘何で空を飛べるの⁉︎」

「もしかして、魔導士か何かかしら?」

 

うーん、やはりこの移動方法は目立つ。だから嫌だったんだよ。

でも、商店街で買い食いを楽しむためには、これしか方法がない。

 

しかし、相変わらずここには童顔の可愛い女の子が多いな。僕はそこまで可愛らしい顔立ちはしていないから、羨ましいよ。

 

フワ、と地面に降り立って、店の建ち並ぶ大通りに出る。

さて、腹ごしらえに何か食うか。

 

「なら、私が案内してやろうか?」

「え?いいのか?じゃあ…………えっ?」

 

突然話しかけられ、手を取られる。

思わずキョトンとして顔を上げると、金髪の美人が立っていた。

 

「なっ……ミ、ミラ⁉︎」

「久しぶりだな、アルト」

 

凛とした、という表現が似合う彼女は、普段のキリッとした目を柔らかくして、僕の手を握っていた。

 

彼女の名はミラ・ディアノス・アルテミーナ。このアルテミュラ王国を治める女王である。「ジン」の金属器の所持者で言わずもがな、僕の知り合いだ。

こんな美貌を持ち合わせながら、彼女は七人の子供に囲まれる母でもある。その末娘が、八人将の一人・ピスティだ。

 

「何でお前がここに……」

「少し用があって外に出ていてな。帰り際にお前を見かけて、降りてきた次第だ」

「そうか。じゃあな」

「待て」

 

踵を返して逃げようとしたが、ガシッと肩を掴まれて動けなくなった。

 

「せっかくの再会なのだ。少しくらい私に付き合え、アルト」

「嫌だ」

「なっ、何なのこの女!」

「ミラ女王陛下のお誘いを……!」

 

僕がミラの誘いを一刀両断して断ると、ザワザワと周りがうるさくなる。

まぁお前らにとっちゃ、ミラは太陽みたいに手の届かない存在なんだろうけれど、僕にとってはただのそこらへんのガキと変わりゃしない。

 

当然だ。僕は六十億年もの長い時を生きてきた。お前らとは格が違うんだよ。そしてもちろんミラ、お前ともな。

しかし、これで引き下がらないのが、ミラのいいところでもある。

 

「相変わらずつれぬ女だな。ますますお前のことが気に入ったぞ」

「そうか。僕もお前のそういうとこ、嫌いじゃあないぜ。だから放せ」

「それとこれとは話が違うだろう?特別に私の大鳥に乗せてやる。来い」

「マジでか!っしゃあ!」

 

アルテミュラのロック鳥は羽毛が柔らかくて、とても気持ちいいのだ。抱きついてモフモフすれば、もう最高。

ただし、鳥達に嫌われる覚悟が必要である。

 

僕が下心丸出しで大鳥に近づくと、ロック鳥がものすっごいしかめっ面を見せてきた。

あっはっはっ、ものすごい嫌われようだ。

ていうか鳥ってしかめっ面ってできるんだな。うん、長生きするとまだまだ知らないことがたくさん出てくるな。

 

ロック鳥の抵抗を裏のある黒い笑顔でねじ伏せて、僕は空の旅の間、全力でモフモフを堪能した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。ここは空が近い場所だからか、星が綺麗に見える。

窓の外を眺めながら、僕は嘆息した。

 

ミラはというと、僕の後ろの大きなベッドで、爪の手入れをしている。

国を治める女王として、一人の女性としての美しさを保ち続ける彼女のそんな姿に、僕は頭が上がらない。

 

正直言って、オシャレだの何だのに僕は一切興味がない。

普段着ている服だって、ある男にプレゼントされたものだ。

だから、綺麗になる努力を怠らないミラをとても素敵だと思うし、尊敬もする。

 

「アルト、もう夜も遅い。早く寝た方がいいぞ」

「あぁ、そうさせてもらう。じゃ、おやすみ」

 

窓から離れて、ミラのベッドを通り過ぎようとしたその時、

 

「待て」

 

グイッと腕を引かれ、ベッドに引きずり込まれた。

……んん?

 

「え?ちょ……ミラ?」

「どこへ行くつもりだ?アルト」

「いや、だって……別の部屋で寝るんじゃ」

「お前は、私と寝るのだ」

「は?」

 

引っ張られたおかげで、僕とミラの顔がぐんと近づく。あ、睫毛がとても長いな。離れて見ても近くで見ても、やはり美人は美人に変わりない。

 

ていうか、そんなこと考えてる場合じゃない。さらに腕を引かれて、抱き寄せられる。

彼女の甘いいい匂いが鼻を掠めた瞬間、視界にミラの顔と天井が映った。

 

「あのー……ミラさん?ちょっと、何を……?」

「……お前がここを訪れるのは久々だからな。私もつい興奮してしまったよ、アルト」

「へ?いや、ちょっと待っ……んんっ」

 

唇が、重ねられる。口の中まで味わうように舐め取られ、「ん、ん」と喉の奥が鳴る。

僕の肩に添えていたミラの手がゆっくりと下に行き、ボタンを一つずつ外していった。

 

「お、おいミラ‼︎やめっ……!」

「相変わらず艶やかな肌だな。羨ましいぞ」

 

ミラの細く綺麗な指が、鎖骨をなぞる。

必死に抵抗するが、僕の腕は筋肉などほとんど機能しないほど虚弱なので、一般女性(とも言いがたい)のミラにさえ勝てない。

あのジュダルとどっちが筋力体力共にないか、競争して勝てる自信がある。いや、全くよくないけど。

 

忘れてた。

ミラ……というか、アルテミュラの国民は皆、性に大らかなのだ。しかも、男女関係なく。

 

思い出した瞬間、サッと青ざめたのが自分でもわかった。

ずり、と後ずさっても、すぐにミラが覆い被さってくる。

 

「アルト……」

「な、何、だ……?」

「ふふっ、怯えた顔も美しいな……。今夜は寝かさぬぞ?覚悟しろ」

 

あぁ………………

 

 

最悪だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。僕は大きな溜息をついて、空を飛んでいた。

 

昨日の晩、宣言通り夜通しやられた。散々弄ばれて、陽が昇る頃には心身共にゲッソリしていた。

その反面、ミラの奴は何故かツヤツヤしていて、寝室を出た後世話役の奴らが「ドンマイ」とでも言いたげな目で僕を見てきた。あの目はしばらく忘れられないだろう。

 

だからミラの誘いを断ったんだ。でもロック鳥のモフモフに負けた。

本当、僕って誘惑に弱いなぁ……。

将来、詐欺に引っかからなきゃいいけど……。

 

「はぁ……さてと、次はどこに行こうかな」

 

嫌な事は水に流して、新たな一日に向けてリセットする。

さて、今日は一体どんな風が吹くことやら。

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