マギ 六十億年生きた女   作:支倉貢

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一万匹とか笑えない

さて、長兄(こうえん)の呼びかけで、マグノシュタット上空にやってきた練家兄妹。もちろん皆さん魔装して。

うん、こうして見ると、やっぱりあんたらって危ない戦闘マニアの一族なんだね……。

だって皇族に金属器使いがこんなにいるって、ものすごい稀だよ?この分だと、金属器の所持数はシンドバッドにも劣らないかな。何これ怖い。

 

僕は魔装した人と戦ったことはないからな……。

ま、手合わせしたいなんて微塵も思ってないけど。

 

「アルト殿」

 

巨大な依り代を前に、僕に話しかけてきたのは紅明。実兄の紅炎とは正反対の、大人しい第二皇子だ。

ホントどうなったらそんな正反対に育つんだよ。教えて、おじいさん。

 

僕はどちらかというと紅炎より弟の紅明の方が好きだ。ちゃんと話せば通じるし、何より心の負担が少ない。

ギラギラしいのに変わりはないがな!マジ嫌なんだけどお前らのDNA!

 

「とにかく我々は、あれを倒せばよろしいのですね」

「ああ」

 

紅明が指さす先には、無数の黒いジン。

あっちもこっちも黒いジン。どいつもこいつも黒いジン。

この数を倒すと考えると、今からげんなりする。頼むから総員即座にくたばってくれ。

 

そんな事を考えてる間に、黒いジンが襲いかかってくる。僕も拳を握りしめて、敵を潰していった。

紅覇と紅玉達は、この戦い、苦労するだろう。斬撃じゃあ、粉々に斬り刻まないととどめをさせねぇ。

黒いジンはルフに還るとまた依り代に取り込まれて、延々と黒いジンを創出していく。……ホント、ウザい。

 

「チッ」

 

まとめて圧迫して潰しても、また依り代に戻ってしまう。

白瑛が風で道をこじ開け、できた道をアリババが依り代に向かって飛んでいった。しかし、依り代の堅固な防壁魔法(ボルグ)に阻まれ、その剣は届かない。

 

「おいアラジン……こいつぁ奴の魔力(マゴイ)を切らさねーと、奴を殺せねえみてーだな……」

「ッ、そうだね……」

「アルト!あいつが力尽きるまで、あとどれくらい黒いジンを作らせればいいの⁉︎」

 

荒い呼吸で、紅覇が尋ねる。

人間の魔力(マゴイ)の内容量はその人それぞれだが……魔装してる時点でも魔力(マゴイ)は確実に失われていく。

その前にカタをつけてーところだが……。

 

「……こりゃ、一万匹くれぇ作らせねーと、力尽きねえな」

「いっ……一万匹⁉︎」

「ちょっとアルトちゃん、無茶言わないでよぉ‼︎」

「わかってるよ、無茶だってこたぁ」

 

紅覇と紅玉の声を聞きながら、両腕を広げる。

魔法で一度、依り代の周囲の空間に働きかけ、潰してみた。

 

「ぎぎ……っ、こ、のっ……‼︎」

 

パァン!

 

「ぐあっ!」

「アルト殿!」

 

ダメだ。奴の防壁に弾かれてしまった。

吹き飛ばされたところを、紅明に抱きとめられる。

 

「大丈夫ですか?」

「ああ……」

 

礼を言いつつ、視線は依り代から離さない。

空を覆い尽くす黒いジンの光景は、奇しくもあの時の光景と同じだった。

 

ムカつく。でも、僕の力にも限界がある。このままじゃ、アリババや紅明達の魔力(マゴイ)が切れる方が早い。

ったく……粉々にしねぇと倒せないバケモンを一万匹倒せなんて、どこの無理ゲーだよ。しかもノーコンテニューでクリアするなんて、バグにも程がある。

その時、オレンジ色の影が、僕と紅明の傍らを通り過ぎた。

 

「紅炎⁉︎」

 

剣を携えた紅炎が、黒いジンに向かって突進していく。

アシュタロスの剣は、斬った相手を爆発させるという恐ろしいものだ。黒いジンに包まれても、それを爆破させて一気に倒していく。

ここで一度、紅炎は魔装を切り替えた。肩の防具に宿ってるあいつは……アガレスだ。

 

「大地を穿て、アガレス‼︎」

 

地面に向けて、蓋を開けるように手を捻る。すると、地面の一部が引き抜かれて円柱が伸びていった。

……おいおい、まさかあいつ……。

 

僕の予感は的中した。円柱に切り出された地面が最後まで引き抜かれると、噴き出したのはマグマ。

こいつ……無理矢理ここに火山もどきを作って、そっから魔力(マゴイ)を吸収するつもりか。それで連戦を……。

相変わらずとんでもねえ野郎だな、お前は……。でも、そんな事をすれば……。

 

「無茶だよ‼︎そんなの何度も死にかけるのと同じだ、おじさんの身体が辛いはずだよ‼︎止めなきゃ‼︎」

 

アラジンが彼を案じて叫ぶ。

無駄だ。そんなことしたって、奴は止まらねえ。

だって……。

 

「どいつも、こいつも、お前もお前も、邪魔だ!!!俺の邪魔をする奴は死ねっっ‼︎お前達は何だ?俺に真実を差し出せるのか?ん?お前達を片付ければ、俺はついに欲しかったものを手に入れることができる。物言わぬ愚図は死ねっっ‼︎とっとと俺にあの女と語らせろ!!!!」

 

ホラな!やっぱりそうだと思った!

いや、わかってたよ。お前が世界の行く末どうこうなんかより、自分の知識欲の方が大事なんだってことはわかってたよ。

ただ僕が言いたいのは苛烈が過ぎるってことなんだ!

怖い!もしこの戦いが終わって世界が守られたら、絶対に捕まってアルマトランの話をするまでまた監禁される……!

 

イル・イラー!もうお前降りてきちゃっていいよ!ていうか早く降りてきてくれ!僕の身の安全のために紅炎(こいつ)殺しちゃってくれ!

おい黒いジン!お前ら何あいつに圧されてんだよ!この軟弱者共めがぁ!

 

「おいアラジン代わってくれ。アルマトランの話する役、僕と交代してくれ」

「僕だって嫌だよ!大体話すって言ったのアルトお姉さんじゃないか!」

「頼む!僕はまだうら若き乙女なんだ!まだまだこれから楽しい人生が僕を待ってるんだ!」

「まだまだこれからって、お姉さん一体いくつなのさ!この世の誰よりも長生きなんでしょ⁉︎」

 

あ、ホントだ。

六十億のババアがうら若き乙女って……いや、見た目だけだけどさ。でもめっちゃ恥ずかしいな、コレ。

はぁあ、あんな約束しなけりゃよかった。

もうコレ終わったら自殺しようかな。あ、無理だ。僕死なないんだった。

 

これからお先真っ暗な僕は、当然敵を倒していくというテンションもだだ下がりである。

そんな中、彼奴らは僕を攻撃しようとしたり、捕まえようとする。しかし、僕の防壁魔法(ボルグ)は近づく攻撃を"消して"しまうものなので、僕に触れようとした黒いジンの腕は一瞬にして消え去った。

 

ああ、憂鬱だ。鬱っていう漢字を書くくらい憂鬱だ。

伝わりにくい?じゃあ試しにこの画面を見つめながら、鬱って漢字を書き写してごらん。……ホラ、目が疲れて嫌になってくるだろ?それくらい嫌ってことだよ。

 

と、その時すごいスピードで飛んできた紅炎が、アリババを攫っていった。あいつと同じ属性の金属器を持っていたために……ああ、お気の毒に。

うわ、魔力(マゴイ)を吸収させる姿が普通の人とは思えない。だってマグマの中に押し込んでるもの。

流石紅炎。やる事なす事全てが鬼だ。

 

そして、空に二つの魔法陣が現れた。どうやら、極大魔法を同時撃ちするらしい。

1型の極大魔法か……果たして、どうなるかな?

 

「極大魔法、『白閃煉獄竜翔(アシュトル・インケラード)』‼︎」

 

紅炎の背後にある魔法陣から、白い炎の竜が飛び出す。

竜は依り代を包み込んで燃やした。防壁から一歩外に出ると、そこは灼熱地獄。うわっ、おっかねぇ。

次に現れたのは、大剣を携えた炎の魔人。アリババが剣を振り下ろすのと同時に、依り代を斬ろうとした。

しかし、案の定防壁に阻まれて、弾かれそうになる。

 

「くそっ……‼︎極大魔法でも……ダメなのかっ……!!?」

「奴に炎をくれてやれ、アシュタロス!」

 

紅炎が竜に指示を出し、剣に竜が巻きつく。同系統の魔法を重ねたことで、その相乗効果で剣が大きくなった。

そして……ついに、あの防壁にヒビが入った。

 

「うおおおおおおおっ!!!」

「どうした?情けない奴だなぁ、もっと力を出せ‼︎」

「うるさいな、わかってるよ‼︎」

 

アリババの渾身の一撃ーー極大魔法『炎宰相の裂斬剣(アモール・アルバドール・サイカ)』が、依り代をぶった斬った。

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